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最も濃厚な風俗画 ― 細見美術館「美しい春画」(レポート)

アイエム[インターネットミュージアム]

人間の性愛をおおらかに描いた「春画」。性的な内容が含まれるがゆえに、長らく研究や議論が難しいとされていましたが、日本でも2015~16年に本格的な春画展が開催され、大きな話題を呼びました。

その春画展から8年、再び細見美術館に春画の名品が集結。日本初公開の作品を含め、前回以上にパワーアップした内容になりました。


細見美術館「美しい春画-北斎・歌麿、交歓の競艶-」会場風景


展覧会のサブタイトルは「北斎・歌麿、交歓の競艶」ですが、冒頭は上方の春画から。

浮世絵は江戸が本場のように思われがちですが、そもそも浮世絵の祖は、室町時代の京都に現れた風俗画。上方でも、多様な春画が描かれています。

《小柴垣草紙》は、平安時代の朝廷で実際に起きたスキャンダルを題材にした作品。醍醐天皇の孫にあたる済子女王が、警護の武士・平致光を誘惑して密通したとされています。


伝住吉具慶《小柴垣草紙》江戸時代(17世紀)ミカエル・フォーニッツコレクション[展示期間:10/14まで]


18世紀後半の上方春画界を席捲したのは、月岡雪鼎です。

《四季画巻》は、女の一生を季節の花に重ねて、移ろいゆく時の流れとともに表した名品です。四季を象徴する花が描かれ、各季節にイメージされる交合図が挟まれています。

なお、雪鼎の春画を持つと火災を免れるという伝承があり、この作品の巻頭にも「厭火避妖」と揮毫されています。


月岡雪鼎《四季画巻》安永年間前期 ミカエル・フォーニッツコレクション[頁替えあり]


続いて北斎と歌麿の作品。長寿だった葛飾北斎は、長い画業であらゆる画題の作品を描きました。

《閨中交歓図》は、近年発見された北斎の2点の肉筆春画のうちの1点です。淡彩で描かれた品格ある交合図で、「北斎」から「戴斗」号への過渡期頃の制作とみられれています。


葛飾北斎《閨中交歓図》文化7年〜文政2年[展示期間:10/14まで]


喜多川歌麿は、言わずと知れた浮世絵美人画の巨匠。さまざまな女性の何気ない姿をとらえることができる歌麿の技量は、春画においても群を抜いており、歌麿の春画は極めて高く評価されています。

横幅が1メートルを超える《夏夜のたのしみ》は、本展の注目作品です。“秘かに愉しむもの”という春画のイメージを覆す大作、どのような場面で鑑賞されたのか、想像してみてください。


喜多川歌麿《夏夜のたのしみ》享和年間~文化3年[通期展示]


北斎や歌麿だけでなく、江戸時代のほとんどの浮世絵師が春画を手がけました。

鳥文斎栄之の《貴人春画巻》は、近年発見された作品です。浄瑠璃姫と牛若丸、在原行平と松風・村雨の姉妹など、貴人を中心に描いた珍しい構成で、他にみられないオリジナリティに富んだ作品です。


鳥文斎栄之《貴人春画巻》文化6年[頁替えあり]


鳥居清長の『袖の巻』は、春画における珠玉の名品。極端に細長い横位置の画面に、さまざまな年齢や階層の男女が描かれています。

清長ならではの伸びやかな身体に、少ない余白で緊密な空間と時間を表現。何といっても男女の表情が魅力的です。


鳥居清長『袖の巻』天明5年頃 国際日本文化研究センター[頁替えあり]


最後の展示室では、北斎の3作品が一堂に。これは史上初めての試みです。

まずは『浪千鳥』と『富久寿楚宇』。全12図はほぼ同じ図様ですが、前者は輪郭線を版で摺り、筆で彩色。後者は輪郭線も色も版木で摺り出しており、余白に台詞が入っています。


葛飾北斎『浪千鳥』文化7年~文政2年 / 葛飾北斎『富久寿楚宇』文化7年~文政2年 ミカエル・フォーニッツコレクション[いずれも通期展示]


対する『肉筆浪千鳥』は、すべての線と色を絵師が手がけた、正真正銘の一点もの。1976年にパリで展示されて以来、長らく公開されていなかった作品で、日本の美術館では初展示となります。

構図は『浪千鳥』『富久寿楚宇』とは異なっており、海鼠を使う女性同士などの珍しい図もありますが、画面いっぱいに人物を配するデザインなど、共通点も見られます。

ちなみにパリで展示された際は、照明が落とされた会場で、来場者は懐中電灯を持ち、1点ずつ照らしながら鑑賞したとのこと。現地『ルモンド』紙も展覧会を絶賛したと伝わります。


葛飾北斎『肉筆浪千鳥』文化7年〜文政2年[通期展示]


冒頭でもご紹介しましたが、風俗画から発展して成立していった浮世絵。最も濃厚な風俗といえる人の営みを描いたのが春画といえ、大名から庶民まで貴賤を問わず、また、男女とも対等に楽しんでおり、現在のいわゆるポルノとは全く意味合いが異なります。

今回は細見美術館だけでの開催で、巡回はありません。前後期で展示替えがあり、18歳未満は鑑賞できません。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年9月6日 ]

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