伝統漁法「打瀬網」は非効率だけど環境に優しい漁 潮流や風の力を利用する?
今年6月26日、別海町の野付湾(のつけわん)でホッカイエビを狙った打瀬網漁が始まりました。野付湾ではホッカイシマエビを対象とした「打瀬網(うたせあみ)」が代々継承されています。
(アイキャッチ画像提供:PhotoAC)
ホッカイシマエビとは
ホッカイシマエビはタラバエビ科に属する小型の甲殻類。日本では岩手県以北の太平洋、千島列島及びオホーツク海沿岸の藻場に生息しており、緑色の体色に暗色の縞模様があることが特徴です。
本種の標準和名はホッカイエビですが、流通上、ホッカイシマエビまたはシマエビと呼ばれることがほとんどで、こちらのほうが通りが良いかもしれません。
同じくタラバエビ科に属するモロトゲアカエビもシマエビという別名を持ちますが、ホッカイシマエビよりも深場に生息することに加え、赤みが強く縞模様が細いことで容易に区別することができます。
ホッカイシマエビは足が早い
緑色の体が特徴的なホッカイシマエビですが、食用としても重要な甲殻類です。
産地だけではなく他の地域でも稀に流通するものの、茹でた状態がほとんどであり、生の状態で見ることができるのは産地のみと言われています。これはホッカイシマエビの足が早い(鮮度の低下が早い)ことに加え、生きた状態での運搬が難しいためだそうです。
ホッカイシマエビは漁獲された後に茹で上げられ、緑色の体は鮮やかな赤色へと変化します。餌が残ったまま茹でると黒くなり、価値が下がってしまうことから、一時的に畜養してから茹でる場合もあるとか。
野付湾で操業される伝統的な漁法
ホッカイシマエビは北日本に広く分布しますが、主に漁が行われているのは北海道の北東部で、主に籠漁などで漁獲があります。特に野付湾は豊富なアマモ場を保有することからホッカイシマエビの好漁場として知られ、毎年、6月中旬~7月末と10月中旬~11月中旬の2回にわたり漁が行われます。
野付湾で行われるホッカイシマエビ漁は明治時代から100年以上続く、伝統的な漁法「打瀬網」で漁獲され、漁期になると三角の帆を張った打瀬舟が野付に浮かびます。
「野付半島と打瀬舟」は北海道遺産にも登録されており、野付湾では風物詩としても知られているようです(野付半島と打瀬舟-北海道遺産)。
環境に優しい打瀬網
伝統ある野付湾の打瀬網ですが、深い歴史もさることながら環境に優しい漁法としても知られています。
打瀬網は潮流や風の力を利用した漁法で、非効率ながらアマモ場の傷つけない優しい漁法でもあるのです。打瀬網は野付湾だけではなく他の地域でも行われており、熊本県出水市ではクマエビを狙う打瀬網が行われています。
かつては日本各地で打瀬網が行われいましたが、先述通り非効率な漁法であることからほとんどの地域で見られなくなったようです。
参考文献
(ホッカイエビ:えびかご漁業(ホッカイエビ)-北海道立総合研究機構)
(おさかな瓦版 No.88 ホッカイエビ-水産研究・教育機構)
(ホッカイシマエビがとれるまで-野付漁業協同組合)
<サカナト編集部>