『魔法使いサリー』『キャンディ♡キャンディ』『美少女戦士セーラームーン』少女漫画原作のアニメの歴史を振り返る
SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は「少女漫画のアニメ化の歴史」についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん
少女漫画を原作にした大ヒットアニメ3作品
少女向けの小説や女の子のための生活情報を掲載し、そのなかに漫画も入ってくるタイプの雑誌、いわゆる「少女雑誌」と呼ばれるものはその以前からありましたが、少女漫画というジャンルは、大雑把に言って1950年代半ばに生まれます。
子ども向け漫画の人気が広がっていく1950年代に『なかよし』や『りぼん』などが創刊され、「少女漫画」というカテゴリーが具体的に成立したと考えられます。そうした少女漫画の中で、アニメ化されエポックメイキングとなった作品をいくつかご紹介しましょう。
まずは1966年から放送された『魔法使いサリー』ですね。横山光輝さんの原作で『りぼん』に掲載されていました。これは何が画期的かというと、企画書に「女の子向けとして作る」と初めて書かれたアニメなんです。それまでは子どもというカテゴリーで雑にガサッとくくられていたものを、ちゃんと女の子をセグメントとして意識したわけです。
ただやはり初めてのことなので、企画書をみると、少しファミリーものやコメディ要素を多めに配置して、楽しい感じにしましょうという保険もかけられています。少女漫画雑誌に載った横山光輝さん原作の作品を女の子向けアニメとして作ったということで、ここが「少女漫画のアニメ」の原点ということになります。
手塚治虫さんの『リボンの騎士』の方が先じゃないのかという声も出るのですが、『リボンの騎士』は少女雑誌である『少女倶楽部』に連載されていました。その後60年代前半に『なかよし』でリメイクされて連載され、『魔法使いサリー』のあと、67年にアニメ化されています。サリーがいけるならこれも! となったんじゃないかと思います。ですから順番的には『魔法使いサリー』が少女漫画原作の、少女向けアニメ第1号となるわけです。
歴史に残るヒット作になったのは1976年から放送された『キャンディ♡キャンディ』ですね。一世を風靡した「昭和の顔」と言ってもいいくらいの人気アニメです。アメリカの孤児院で育ったキャンディという女の子は、大富豪のラガン家に子どもの話し相手として引き取られますが、そこの姉弟にいじめられます。ですが、ある偶然からアードレー家の養女になって、自分自身の人生を歩んでいくことになるというお話です。
水木杏子さんといがらしゆみこさんのコンビで作られた作品で、主題歌も大ヒットしたのですが、原作者同士の訴訟の結果、アニメは見られなくなり、単行本もリニューアルされていません。結果、世代を超えにくくなってしまいましたね。大変面白いので古本屋とかで単行本を買って読んでいただけると、『足長おじさん』と『風と共に去りぬ』を合体させたようなドラマチックな物語と、少女漫画らしいツボを押さえた語り口にぐっとくると思います。アニメ化されて大ヒットしたことで、主題歌のレコードも記録的なヒットとなりました。
あとやはり大きかったのは『美少女戦士セーラームーン』ですね。1992年から放送されていましたが、これも『なかよし』の連載で、武内直子さんの原作です。『コードネームはセーラーV』という、セーラーヴィーナスを主人公にした先行作品をベースに、企画がたてられました。この作品ですごいのは、この作品が定番になったことで「女の子が変身して戦う」ということが定番になったことです。それまでの魔法少女ものは、日常のトラブルを解決したり、逆に日常にドタバタをもたらすきっかけとして扱われることが多かったわけです。それに対し戦いの要素を入れたことにより『セーラームーン』では、それまでは別々にあった、「かっこいい」と「かわいい」が融合したんです。この発想が、そのまま現在の『プリキュア』シリーズに繋がっているわけです。
この3作品が歴史を振り返ったときに大きい存在感がある少女漫画原作アニメかと思います。