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凡人こそ「フッ軽」になれ。出不精の作家・長倉顕太さんが語る「移動」のメリット

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リモートワークやUターンを始めとした地方移住、二拠点生活など、柔軟な働き方・生き方を選べるようになってきた一方で、多くの人は「東京や大阪といった大都市から離れてしまうとキャリアに悪影響が及ぶのではないか」という不安を抱えています。

マイナビ転職が実施したアンケート調査(※)でも、「地方移住転職によるキャリアの変化」として、全体の約半数(50.3%)が「キャリアダウンした」と答え、約16%が「地方移住転職に満足していない」と答えています。

※……マイナビ転職『地方移住転職・Uターン転職の年収変化と満足度調査(2025)』( https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/careertrend/23/ )

そもそも、場所に縛られないことや「環境」を変えることには、どのようなメリットがあるのでしょうか。

今回、ベストセラーとなっている『移動する人はうまくいく』の著者・長倉顕太さんとともに、「移動」が人生やキャリアにもたらす影響を掘り下げます。

「環境を変えることで初めて行動が変えられる」という価値観のもと、これまでの人生で「移動」を重ねてきた長倉さん。その哲学はどのようにして生まれたのでしょうか。

人は環境を変えることでしか、自分を変えることはできない

──日本から海外に拠点を移しながら仕事を続けてこられた長倉さんが「場所に縛られない働き方」を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

長倉顕太さん(以下、長倉):東日本大震災(2011年)です。当時は東京で放射能の影響が心配されていたこともあって、知り合いがいたハワイへの移住を決めました。ちょうど38歳の頃です。

移住の翌年に会社を辞めて、ホノルルに5年、サンフランシスコに3年住みました。コロナ禍の間は日本にいたのですが、コロナ明けからロサンゼルスにも拠点を持ち、今はロスと東京を行き来しています。

長倉顕太(ながくら・けんた)さん。作家、プロデューサー、編集者。1973年、東京生まれ。学習院大学卒業後、職を転々としたあと28歳のときに出版社に転職。これまでに企画・編集した本の累計は1100万部を超える。独立後は8年間にわたりホノルル、サンフランシスコに拠点を移して活動し、現在は本やコンテンツのプロデュースに携わる。著書に『移動する人はうまくいく』(すばる舎)、『誰にも何にも期待しない』(ソシム)、『人生は28歳までに決まる!30代を楽しむためにやるべき24のこと』(イースト・プレス)、『親は100%間違っている』(光文社)など。

──38歳での海外移住は個人的に「遅い」という印象ですが、どうでしょうか。移住にあたっては、仕事を辞めて、人生設計を見直さければならない可能性も出てきそうですし、その年齢になると一般的には職場でそれなりのポジションを得ていたり、家族がいたりして動きづらくなるのでは?

長倉:そうですね。いま振り返ると、自分は編集者として、シンガポールと日本、アメリカと日本など、複数の拠点で活動している人たちと日頃から仕事をしていたので、移住を躊躇しなかったのかもしれません。仕事柄、PC1台あればどこでも仕事ができるという側面もありますから。

あとは、手前味噌ですが、自分が手がけた本を(編集者として活動していた)10年間で累計1,000万部くらい売ったので、いい気になっていたのかもしれません。独立しても、自分ならやっていけるだろうと。

とはいえ、現地に仕事のあてがあったわけではなく、移住後も仕事はほとんど日本向けだったんですけどね。

それに、移住の際に英語はできなかったし、今もまったく喋れないんですよ(笑)。

──(笑)。東日本大震災というきっかけがあったにせよ、フットワークの軽さがすごいですね。もともと外出や旅行が好きだったのですか?

長倉:いえ、むしろ出不精で、今も昔も外出することはあまり好きではありません。実は、旅行もそんなに……。

──そうなんですか!?

長倉:決して好きではないですね。とはいえ、最近は仕事で国内のいたるところに行くので、前よりは好きになってきましたが。

──では、なぜ長倉さんは目的のない「移動」をそこまで重視されているのでしょう?

長倉:僕は常々、人は環境を変えることでしか自分を変えることはできない、と思っているんです。そのことに気づいてから、無理やりでも仕事に移動を組み込むようになりました。

──世の中は「自らの意思で行動を変えよう」と説く本であふれていますが……。

長倉:脳科学や心理学など、これまでさまざまなアプローチのビジネス書をつくりましたが、その過程で疑問に感じていたのが「なぜ皆、頭で分かっていることができないんだろう」ということ。「健康を維持するためには野菜を食べて運動すればいい」と分かっているのに、それができない。

でも、暑かったら涼しい場所に行くし、水の中に放り込まれたら泳ぐしかないですよね。そう考えて気づいたんです。「環境→感情→行動」の順番だと。多くの人は「感情」、つまり意思の力で「行動」を変えようとするけれど、そのアプローチだと「環境」の引力に負けてしまうかもしれない。でも、「環境」を変えれば、自動的にマインドセットも「行動」も変わるのではないかと。

──なるほど。自分も仕事をするためだけに場所を移動することがあるので、その説には納得感があります。

長倉:あとは、講演会などでさまざまな人と会話するなかで「人は『環境』を受動的に受け入れると、感覚が麻痺してしまうのではないか」と感じて。

例えば、朝起きて、何も考えず電車に乗って、YouTubeでレコメンドされた動画を見ながら、自然と会社に着く、みたいな受動的なルーティンをなんとなくやり続けると、自分の意見もなければ自分が何をしたいのかも分からない人になってしまう可能性があるんじゃないかと。

でも、通勤のルートを変えるとか、主体的に日常から外れてみたら、周囲の「環境」を冷静に分析する機会が生まれて、やるべきことも明確になるかもしれない。「移動」には自分の立ち位置を否が応でも浮き彫りにする効果があります。海外に行けば、日本の良いところも悪いところも見えてくるように。

そういえば、哲学者のハイデガーも「日常は感覚を麻痺させる」といった趣旨のことを指摘しています(編注:代表作『存在と時間」にて、人間は日常のなかで主体性を見失い、世間一般の価値観や行動様式に埋没して生きていると説いた)。

──「環境」を変えると感覚を取り戻すことができるという考え方には、共感する人も多いのではないでしょうか。旅行だけでなく転職にも当てはまりそうですね。

長倉:明確なエビデンスはないんですけどね(笑)。でも、僕自身、28歳までまともな仕事をしていなかったのに、編集者になったことでアメリカに移住して、現地で子どもを育てられています。それはひとえに、著者の皆さんをはじめとする優秀な人たちと一緒に仕事をするという「環境」があったからこそです。人間関係は究極の「環境」ですからね。

店を変える、読書する……もっと「フッ軽」になるための日常アクション

──先ほど「通勤のルートを変える」みたいな話も出ましたが、長倉さんが日常的にやっている「移動」には何がありますか?

長倉:例えば、特に用事はないけれど新幹線で博多駅まで行ってそのまま東京に戻ってくるとか。

──博多駅で降りず、そのままUターンするのですか?

長倉:もちろん、規定の運賃は払ったうえで、ただ駅まで行って観光せずに帰ってきます。新幹線の車内をオフィスとして使う感覚ですね。なぜそんなことをするのかというと、移動している間にアイデアが生まれやすいからです。

──たしかに、最近の新幹線には仕事をするための座席(東海道新幹線の「S Work席」など)もありますし、新幹線と仕事は相性がいいのかも。移動中にひらめくというのはよく聞く話ですが、やはり「セレンディピティ(偶然性)」と移動は関係があるんですかね?

長倉:大いに関係があると思います。例えば、行き慣れていない本屋さんでAmazonにレコメンドされない良書と出合えるかもしれない。あと、僕は音楽ライブも好きなのですが、東京公演はほぼ行かず、あえて地方公演にばかり行きます。そうすると、現地で「こんなところにこんなものがあるのか」といった思わぬ出合い・発見があったりする。

──慣れない環境に身を置くと、新鮮な体験が得られると。説得力はありそうですが、そうは言っても、長倉さんほど「フッ軽」な人は少ないように思います。もっと日常的にできそうな「移動」の手段はありますか?

長倉:行く店を変えてみるのは「移動」の一つになり得ると思います。ランチを食べる店、コーヒーを飲む店、そうした日常で行くお店を意識して変えると、新しい気づきやアイデアを得られるかもしれません。実際、僕と付き合いのある放送作家の安達元一さん(編注:『SMAP×SMAP』『踊る!さんま御殿!!』などの人気番組を担当した放送作家)は、25年間あえて毎日違う店に飲みに行っていたとおっしゃっていました。

あとは、読書もいいですね。「移動」とは煎じ詰めると「見える景色を意識的に変えること」ですが、どんな景色を目で認識するかは脳のデータベースに依存します。「お化けを信じていればお化けが見える」みたいな話もありますが、単純に脳内の情報をアップデートすると見える景色も変わるんですね。そのアップデートを、能動性の高い読書でやればいい、ということです。言葉や知識の引き出しを増やすことで、今までに見えなかった景色が見えるようになります。

仕事の領域だと、前向きな動機があることが大前提ですが「あえて人に迷惑をかけてみる」のも良いかもしれません。僕が手がけた本『バカになる勇気』(きずな出版)の著者で竹あかり演出家の池田親生さんは、同書で、他人に迷惑をかけることは「役割をつくること」でもあると指摘しています。役割がなくなると人は居場所が狭まるので、迷惑をかけることは良いことでもあるのだと。迷惑、つまり他人と深く関わることで初めて自分の役割がハッキリし、情熱的に仕事と向き合えるということですね。スムーズに、波風を立てないようにしよう、というモチベーションが必ずしも物事を良い方向には動かすわけではないんです。

「移動」とは主体的に物事を考えるレッスンである

──「移動」のメリットやバリエーションがより深く理解できました。でも一方で、「移動」で人生やキャリアが好転するかどうかは運の要素も強く、無駄と捉える人もいるかもしれません。

長倉:僕は自分のことを常々「凡人」だと思っているんです。凡人が他人に覚えてもらうためにはどこかで「人と違うこと」をやらなければならないその「違うこと」を「移動」という手段を活用すれば積極的に探せる、というのが僕の主張なんですね。

実際僕自身も、海外移住を経験して「人と違うことができるようになった」と感じています。人と積極的に会うようになったのもその一つです。いまは「月に1000人の人と会う」ことを自分に課しています。そうして自分を知ってもらうことで、著書が売れたり、新しい作家さんとつながったりすることもあるでしょう。本づくりは「選挙」みたいなものですから。

──ネットではなく、リアルで会うことが大事なのでしょうか。

長倉:リアルに会うしかないでしょうね。「AIと飲みたい」「AIと会って話したい」なんて人はまだ少ないはずですから(笑)。

でも、誰と会ってどんな話をするか、みたいなことはできる限り決めないようにしているんです。それは「移動」の根本的な考え方でもありますが、「自分でコントロールできない出来事」こそが、人生を変えるきっかけになりうると思っているから。

──とはいえ、大きな失敗をしたらどうしようと不安になる人もいます。

長倉:やってみてダメならやめればいいし、帰ってくればいいんです。そもそも、今はSNSやオンラインスクールなどで、どこにいても新しい情報を得たり、学んだりすることができるので、東京に住むメリットは相対的に下がっているのかもしれません。

だからこそ、移動や移住で、あえてコントロールできない環境に身を置いてみる。そこで起きるコントロールのできない出来事に対して、自分はどうするのか。その問いに答えることで、人生はより楽しくなります。

僕の好きな本『それでも人生にイエスと言う』のなかで、著者のヴィクトール・E・フランクルは、人生を悲観する人々に「ものごとの考えかたを一八〇度転回することです。その転回を遂行してからはもう、『私は人生にまだなにを期待できるか』と問うことはありません。いまではもう、『人生は私になにを期待しているか』と問うだけです。人生のどのような仕事が私を待っているかと問うだけなのです」と述べています。つまり、人生に意味づけができるかどうかは自分次第だと。

技術のトレンドや市場環境が目まぐるしく変わり、今いる会社もあと何年あるか分からない。そんな世の中だからこそ、仕事もキャリアも面白くする方法を「主体的に」考えなければならないと思うんです。僕にとってはAIよりも、慣れで「なんとなく」仕事をすることのほうが恐ろしい。「移動」とは僕にとって、主体的に物事を考えるためのレッスンなのかもしれません


「移動」の考え方やノウハウを活用すれば、日々の仕事、そして今後のキャリアをより楽しく、より豊かにしていけるはず。マイナビ転職には「給与アップ」を実現する求人が数多く掲載されています。ぜひチェックしてみてください。

( https://tenshoku.mynavi.jp/content/declaration/?src=mtc )

取材・文:はてな編集部、山田井ユウキ
写真:関口佳代
編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職

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