韓国出身の創業者が取り組む、完全自動化の温室栽培ソリューション Zordi
Zordi(本社:米国マサチューセッツ州ボストン)は、AIとロボット工学を活用した自律型モジュール式温室栽培プラットフォームを開発するアグリテック企業だ。創業者のGilwoo Lee氏は、機械学習とロボティクスのエキスパートで、その知見を農業分野に活かすべく、ビニールハウスでの作物の栽培の効率化に挑んでいる。日本生まれのイチゴ品種も扱っているという同社の動向についてLee氏に聞いた。
<font size=5>目次
・韓国出身の創業者、屋内農業に着目
・完全自動化の温室栽培ソリューション
・日本企業との協業に強い関心
韓国出身の創業者、屋内農業に着目
―専門分野やご経歴、そしてZordiの創業ストーリーについてお教えください。
私は長くコンピュータサイエンスを専攻し、学部時代には数学も学びました。博士課程では、特に人工知能と機械学習を応用し、ロボットやロボットアームの操作・移動などの分野で研究を進めました。博士課程を卒業する際には、自分が情熱を感じる産業への貢献を望み、特に気候変動の影響を受けやすい農業分野に着目しました。
農業分野でのテクノロジー活用は、持続可能で環境に優しい方法への変革に大きな可能性を持っています。最先端のロボティクスとAIを利用して、農業にどのように貢献できるかを探求しました。
韓国出身で、日本にも親しんでいる私は、両国が強みを持つ屋内農業に着目しました。低コストで効率的なロボットと優れたAI技術を活用することで、持続可能な屋内農業を普及させることが可能だと考えました。しかし、私自身は農業については専門ではありません。そこで、当社へ投資しているKhosla Venturesの助けを借りて、農業や屋内農業などの業界関係者に接触しました。そこで知り合ったのが共同創業者のCasey Callです。
Caseyは6世代にわたる農家の家系であり、その家族も野外農業で豊富な経験を持っています。農業において幅広い知識と深い知識を持っており、アメリカで最大の垂直農場を運営し、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)の支援を受けているPlenty社の栽培責任者でもありました。彼の参加により、私たちは屋内農業をよりコスト効率良く、手頃な方法で進めることができるようになりました。
さらに私はCEOとして、非常に有能なCTOを迎え入れたいと思っていました。最初は小規模なチームで、機械学習エンジニア、ロボティクスエンジニア、機械エンジニアをそろえてスタートしましたが、プロトタイプとコンセプトの証明が成功した後で、私たちの会社のビジョンとミッションを共有し、それを次のレベルに引き上げることができる人物を探し始めました。その結果、ロボット工学の専門家であるRyan KnopfがCTOとして加わることになりました。
Gilwoo LeeZordiFounder & CEOマサチューセッツ工科大学(MIT)でコンピュータサイエンスと数学の学士(2010年)、工学修士号(2015年)を取得。その後、カーネギーメロン大学でロボティクスの修士号(2017年)、そしてワシントン大学でAIとロボティクスの博士号(2020年)を取得。DreamWorks Animationでの勤務やGlance社の共同設立者、Meta社(Facebook Reality Labs)のリサーチ・サイエンティストとして活躍したのち、2020年にZordiを創業しCEOに就任。
完全自動化の温室栽培ソリューション
―Zordiが提供するプロダクトの概要とビジネスモデルについてお教えください。
私たちが最終的に提供したいのは、完全自動化された温室栽培ソリューションです。温室システム全体、ロボット、AI、制御システム、さらには私たちが持つ植物の品種や遺伝子まで含まれています。この全体が私たちのプロダクトであり、それまでの屋内農場よりもはるかにコスト効率が良いものです。現在はまだ開発途中にありますが、私たち自身が温室を建設・運営して生産しており、このソリューションが実際に機能することを証明し続けています。
収益モデルは2種類想定しています。1つは小売パートナーや食料品店との取引から収益を得ること、もう1つは温室栽培ソリューションの販売によってフランチャイザーである農場から生じる収益です。
私たちの使命は、高品質で持続可能な食品を市場に提供すること、そして市場に近い場所でこれを行うことです。この目的のために、私たちは自社生産を通じて直接行動に移しています。良質な遺伝子を持つイチゴの品種を育ており、その一部は日本や韓国の品種です。技術とシステムを向上させながら、フランチャイザーまたは商業パートナーを見つけ、共に温室ソリューションを構築することを目指しています。
私たちはまず自動灌漑システムを開発し、その基盤上に自社の制御システムとAIを構築して、効率的な改善を図っています。さらに、換気や冷暖房の自動制御も導入し、これらの最適化をAIで進めています。現在、2種類のロボットを導入しており、一つは温室内を移動しながら成長度合いなどをチェックする偵察・監視ロボット、もう一つは収穫、選別、梱包を一度に行うロボットです。これらのロボットはエンジニアでないスタッフも運用しており、農業に従事する専門的な労働力を削減し、参入障壁も下げることを目指しています。
通常、農場運営には豊富な知識と経験が必要ですが、私たちは若い新しい農家やパートナーが成功しやすい環境を整えることを目指しています。これをフランチャイズ方式で表現しており、植物の栽培方法を深く理解していなくても専門的な知識だけでなく、手作業による労働も削減します。私たちの技術は、今後数年で労働力を約80%削減することを目指しており、何十年もの農業経験を必要とする専門家の支援がなくても運営できるようになると考えています。
年々農業の担い手が減少していますが、私たちのアプローチによって農業をより魅力的で利益を生む持続可能なものにすることが私たちの目標の一つです。また食品は輸送中に大量に廃棄されることが多く、これも持続可能性に影響します。私たちは地産地消にも貢献できる温室ソリューションを提供したいと考えているのです。
image: Zordi
―Zordiの温室ソリューションは容易に導入できるものなのでしょうか。
私たちの温室はモジュラー化されており、日本で一般的なビニールハウスのような温室にアップグレードを施したものとお考えください。より良い制御とシステムを可能にします。これらの温室は基本的にモジュール式で、3カ月未満で建設が可能です。レゴのように隣り合わせに組み立てることで、大きさを自由に調整でき、整地も最小限に抑えることができます。コストは、例えば、オランダの高価な温室と比べると非常に安価です。また、自動化技術については、これまで高価でしたが、現在はロボティクスとAIの進化により、より安価になっています。
現在、自社の生産拠点は2カ所あり、1つはニューヨーク州西部で、ナイアガラの滝に非常に近い場所にあります。そこには、新しい遺伝子を試験し導入するための高価な設備を備えた研究開発用の温室があります。もう1つの拠点はニュージャージー州南部にあり、ここではコストを抑えた温室栽培拠点を建設しました。この拠点はマンハッタンから約2時間半の場所に位置しているため、ここで育てた日本の優良なイチゴ品種を周辺の小売店やレストランに販売しています。
当社は、北海道にある品種改良に強い会社であるホーブとパートナーシップを組み、日本の品種をルーツとする新種のイチゴの普及拡大を目指しています。私たちは北海道を含む日本の多くのイチゴ温室農場を訪問しました。日本のイチゴは非常に甘く、味が良い品種で、栽培する農家の方々は素晴らしい技術を持っています。そこで得た知識を基に、マンハッタン周辺でイチゴを販売しています。将来的には、イチゴだけでなくキュウリやピーマン、チェリートマトなどの他の作物にもこの技術を応用する計画です。私たちの技術の究極の目標は、日本の最高品質のイチゴなどを手頃な価格で提供する方法を模索することです。
image: Zordi
日本企業との協業に強い関心
―次の12カ月〜24カ月ではどのような進展が考えられますか。またそのための課題はどんな課題があるとお考えですか。
現時点での生産拠点はパイロット版として意図的に小規模に保っており、合計で30000株の植物を有しています。2024年末までには、さらに2エーカー(約1ヘクタール未満)を開発し、7台のロボットを配置して約10万株の植物を育てる予定です。技術の実証を進める中で、収益も指数関数的に成長しており、自動化の進展に合わせて慎重に規模を拡大していく計画です。
次の24カ月での目標は、2025年末までに労働力を50%から70%削減し、必要な技術の証明を完了して、最終的に80%の削減を達成することです。さらに、生産拠点も15エーカー以上に拡大し、企業としてプラスのキャッシュフローを実現したいと考えています。その時点で、必要な技術とソリューション全体が実証され、市場での強い展開が可能になり、パートナー農場とのフランチャイズ関係を開始する準備が整うでしょう。このようにして、技術、農場の規模、市場での全体的な存在感という基盤を築くことを目指しています。
課題の1つは資金調達です。当社はKhosla Venturesなどの著名なベンチャーキャピタルから支援を受けているものの、ロボティクスと農業における適切なソリューションの開発には時間がかかるため、業界全体が資金調達に苦労する傾向にあります。実際、過去2年間に多くのプラントファクトリーや大規模温室が失敗しています。
もう1つの課題は農業そのものです。私たちはシミュレーションツール、植物モデル、病気モデル、害虫モデルを開発し、これらを用いてAIのテストを行い、生産効率を高める技術開発を進めていますが、これらの取り組みには時間が必要です。このような課題はあるものの、私たちが研究・開発している最先端のAI、機械学習、ロボティクスの可能性に非常に期待しています。
―今後事業を拡大していくにあたって、日本企業とはどのようなパートナーシップが望ましいとお考えですか。
日本の多くの企業が持続可能性に熱心に取り組んでおり、そのような企業とのパートナーシップは非常に興味深いです。また、日本にはロボットやオートメーション、機械に関する長い歴史を持ち、現在はAIへの関心も高まっている素晴らしいロボティクス企業が多く存在します。さらに、日本や韓国は屋内農業や温室栽培に長い歴史を持っており、このような経験を持つ国は他には多くありません。
つまり、日本のビジネスパートナーとの拡大や協力の機会は豊富にあると考えています。屋内農業やロボティスクなどの自動化に関する理解があるこれらのパートナーとのコラボレーションによって、世界的にも競争力のあるビジネスが展開できると考えているのです。
私たちは革新に非常にオープンであり、パートナーとともに素晴らしいビジョンとミッションを共に築きたいと考えています。特に、多くの日本企業が確立している自動化技術や持続可能で環境に優しい活動に深い敬意を抱いており、これらの企業の人たちと出会いたいと考えています。
従業員数なし