水辺の生き物続々 根浜ビオトープ開設1周年 観察&環境整備で今後の多様性に期待
釜石市鵜住居町の根浜海岸観光施設「根浜シーサイド」内に昨年4月、整備されたビオトープ(生物生息空間)で6日、開設1周年記念イベントが開かれた。沢水が流れ込む大きな池にはこの1年の間にカエルやイモリなどがすみ付いていて、集まった家族連れらが生き物観察を楽しんだ。さらに種類や数が増えることを願い、記念植樹も実施。同所を管理する根浜シーサイドなどは今後、定期的にモニタリング観察会を開き、生き物の生息状況の推移を見守っていく方針だ。
同ビオトープは、東日本大震災の津波で失われた水辺環境と生態系を復活させ、自然との触れ合いや環境教育の場にしようと作られた。同施設の市指定管理者かまいしDMC(河東英宜代表取締役)と市民団体かまいし環境ネットワーク(加藤直子代表)が、多目的広場(運動場)西側の山林隣接地を市から借用して整備。約80平方メートルの敷地には、山からの沢水が循環する大型の池が設置されている。
1周年イベントには市内外から親子連れなど約60人が参加。池に生息しているヤマアカガエルのオタマジャクシ、アカハライモリがタッチプールに放たれ、参加者が見て触れて姿かたちを確認した。最初は恐る恐るだった子どもも、慣れてくると手のひらに乗せてじっくり観察。やさしくなでたりしながら“小さな命”を体感した。
池へとつながる小川では、トウホクサンショウウオとヤマアカガエルの卵も観察した。ともにゼリー状の物質に覆われているが、トウホクサンショウウオはバナナ形の「卵のう」の中に卵が入っているのに対し、ヤマアカガエルは大きな塊状の「卵塊」で産み付けられていて、形状や触感の違いを確かめた。
陸前高田市の臼井航太郎さん(6)は「生き物を捕まえたりするのが楽しい。カエルの卵はぬるぬるして気持ち悪かった。カエルになった時にまた見に来たい」と目を輝かせた。家族で訪れ、前日から施設内でキャンプを満喫。イベントを知り足を運んだ。母真美さん(40)は「身近に生き物と触れ合える場所は少なくなってきている。ここは観察しやすくてとてもいい場所」と感激。「家ではスマホやタブレットで何かしていることが多い。キャンプも自然と触れ合ってほしいとの思いから」。生き物に夢中の愛息を温かく見守り、「次に図鑑を見る時には今日見た生き物を思い出してくれそう」と喜んだ。
同所一帯には震災前、根浜地区の集落があり、田んぼも広がっていた。多様な生き物が生息していたが、津波で全て流失。住民らは高台移転し、跡地には同観光施設が整備された。ビオトープの整備地周辺には被災後も山から流れ出る沢水で湿地が形成されていたことから、これを活用して生息空間の再生が図られた。
同環境ネットワークによるとこの1年で、カエル類では他にシュレーゲルアオガエル、ニホンアマガエル、タゴガエル(鳴き声のみ)の生息を確認。トンボ類ではオオルリボシヤンマ、シオカラトンボ、ウスバキトンボの姿も確認されているという。この日は事前に捕獲したシュレーゲルアオガエルの成体、オオルリボシヤンマのヤゴ(幼虫)も参加者に見てもらった。
「たった1年でこれだけの生き物が見られるようになったのはびっくり」と加藤代表(78)。予想では「もっとかかると思っていた」が、2年目の今春、池には大量のカエルの卵が産み付けられた。「生き物がこの池を待っていたんだろうね」。確信が現実となり安心した様子で、「水草や周辺の草が増え、生き物の隠れ家ができてくれば、集まってくる種類もさらに多くなるのでは」と期待感を高めた。
トンボや野鳥に詳しい同ネットワーク会員の菊地利明さん(60)は「トンボは水の匂いと光の反射で水辺を察知して飛んでくると言われている。鳥がカエルの卵などを水かきに絡ませて飛び、遠く離れた水辺に着水することで、それまで見られなかった種が突然見られるようになることも」と話し、今後の生態系の推移に注目する。
この日は生き物観察のほかに記念植樹も行われた。池の周辺に植えられたのは、国蝶のオオムラサキが卵を産み付けることで知られる「エゾエノキ」の幼木2本。菊地さんが日向ダム周辺で育つ木の種を育て、3~4年が経過したもので、同ネットワーク会員らが協力して植え付けた。周りにはシカよけ用のネットも張り、順調に育つように保護した。いつかオオムラサキの滑空が見られる日がくるかも…。