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名古屋大学減災連携研究センター「減災館」で地震をはじめとした“災害を正しく恐れる”を学ぶ

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▲名古屋大学の敷地内に佇む「減災館」の外観。館内には減災連携研究センターと東海国立大学機構の防災対応を担う運営支援組織が入っており「研究・備え・対応」の3つをテーマに減災研究を行っている

日本では、いつどこで災害が起きても不思議ではない

▲名古屋大学減災連携研究センターで、減災館の開館当初から減災研究を行っている田代喬特任教授(工学博士)。「センターには様々な分野の研究者が所属していますが、私自身はもともと水が専門で、土木をはじめとするライフライン防災に関する研究を担当しています」

近年、SNS上で様々な災害のウワサが飛び交っている。
「〇年〇月に大地震が起こる」「〇年〇月に大きな津波で〇〇が消滅する」──こうした情報が連日のように流れてくると大きな不安を感じる人も多いと思うが、災害の研究者は皆口を揃えて「ウワサには根拠がない」と言い「災害を“正しく恐れる”こと」を提言している。

では、災害を“正しく恐れる”とはどういうことなのか?
その答えを導くために今回訪れたのは、愛知県の名古屋大学東山キャンパス内にある名古屋大学減災連携研究センター「減災館」だ。

「あのウワサは、本当だと断定できる材料が何もありませんが、ウソだと言い切れるわけでもありません。ただ、ウワサがきっかけだったとしても、日本で暮らしている以上“いつどこで災害に遭っても不思議ではない”という心づもりで常に過ごしていただくことはとても大切なことです」と優しく諭してくださった田代特任教授に、同センターの成り立ちと地域の中で担う役割について話を聞いた。

▲名古屋大学の敷地内に佇む「減災館」の外観。館内には減災連携研究センターと東海国立大学機構の防災対応を担う運営支援組織が入っており「研究・備え・対応」の3つをテーマに減災研究を行っている
▲減災館は地上4階建ての免震構造で、地下には免震ピットと免震装置のギャラリー、屋上には大振幅長期の揺れを再現する実験室などが設置されている。1・2階は公開スペースになっており、平常時は博物館的施設として一般見学も可能だ。開館日に毎回開催されるミニ講演では、各教授の専門知識について直々に解説を受けることができるため受講リピーターも多いという

全国的にも珍しい、大学が運営する「産官学民連携」の防災研究機関

▲2層吹抜けの減災ギャラリーには、南海トラフ巨大地震発生時における津波の高さの参考値が懸垂幕で展示されている。津波の危険性については数字でぼんやりと理解していたつもりでも、実際にこの高さを見上げてみると怖さを感じる

「減災館ができたのは2014年3月ですが、実は東日本大震災が発生する前の2010年12月から《減災連携研究センター》自体は発足していました。名古屋大学内の様々な学部や研究科の教員たちが、このセンターのミッションを担うために兼任として集まって結成され、特に、東海・東南海・南海の3連動による巨大地震や、近年甚大化している台風や水害の減災研究を産官学民連携で行ってきました」(以下「」内は田代特任教授談)

公官庁からは県や市などの自治体の防災担当者が、産業界からは東邦ガスや中部電力といったインフラ企業をはじめ、建設会社、地図調査会社、生協など様々な企業に所属する社員が出向し、同センターで研究を行っている。こうした産官学民連携の研究機関を、文科省直轄ではなく大学が運営してるケースは全国的にも珍しいという。

「減災館が完成したのも、地元産業界からの協力があったからこそです。開館から約11年が経ちましたが、こうして官民や業界の垣根を超えて連携しながら研究を積み重ねていくと、その研究の中で“ヨコ方向の連携”が生まれやすくなります。
例えば、自治体の方は他の地域で大きな災害が起こったときに自治体連携の一環として被災地支援に出向かれるのですが、その被災地での経験を通じてお互いに学びを共有したり、企業の方は出向元へ情報をフィードバックして企業内での新たな災害対策を構築します。草の根的ではありますが、この減災館が自治体・産業界・地域の方々と私たち研究者との連携を強化するためのハブ的存在になっているんです」

▲減災ギャラリーの奥にあるキッズコーナーは、子育て中の女性教員からの提案で設置されたものだという。「減災館の展示内容は中高生以上を対象としたやや難しいものが多いのですが、女性教員からの提案もあって、最近は小さなお子さんたちにも“災害の危なさ”を知ってもらうために、幼稚園・保育園での防災啓発を積極的に行っています。まずはお子さんたちに関心を持ってもらい、パパ・ママへ、おじいちゃん・おばあちゃんへと家庭内の防災意識を広げることが狙いです」

防災の“町医者的存在”である東海圏の国立6大学が手を携えて災害に備える

▲どうしても巨大地震ばかりに関心が向けられがちだが、東海圏では台風や河川氾濫、土砂崩れなど多くの災害危機に直面している。「私も生まれる前のことですが、戦時中の1945年1月には三河地震が発生していますし、1946年には“最後の南海トラフ地震”と呼ばれる昭和南海地震が発生しています。こちらのパネルにある伊勢湾台風は1959年です。つまり何十年かおきに大きな自然災害を繰り返しているわけですから、その災害発生時の緊迫した状況下でどんなことが起きていたのか?を後世に語り継いでいくことも、とても大切な防災対策だと考えています」(写真は減災ホールに展示されている伊勢湾台風被害の航空写真)

名古屋大学減災連携研究センターでは、愛知・岐阜・三重・静岡県内の国立6大学との連携も行っている。
そのネットワークは《東海圏減災研究コンソーシアム》として組織化されており、名古屋工業大学・豊橋技術科学大学・岐阜大学・三重大学・静岡大学と共に、南海トラフ巨大地震をはじめとする災害リスクが高い「東海圏の防災・減災戦略の構築」を担っているのだ。

「首都圏や関西では、東京大学総合防災情報研究センターや京都大学防災研究所など“一極集中の大型総合病院”のような形で権威機関が存在しています。しかし東海圏の場合は、各県の大学がそれぞれの地域の防災課題に特化して研究を行っていて、いうなれば“その地域のことをいちばんよく知っている町医者”のような存在です。
ならば、町医者同士が手を携え、お互いの研究の強みを持ち合って協力すれば、よりきめ細やかな対応ができるんじゃないか?ということで、大学同士のヨコのつながりが始まりました。現在は各大学と各県庁の防災担当機関とも連携を強めながら、対応力を高めているところです」

南海トラフ巨大地震の”揺れ”を実感できる「振動台」などの展示

▲海を泳ぐクジラの視点で南海トラフ周辺の海底を眺めた鳥瞰図ならぬ鯨瞰図の展示(減災ホール)

こうした減災連携研究センターの研究成果が、地域の人たちへ向けて一般公開されていることは、地元でもまだ広くは認知されていない。

減災館の1階にある減災ギャラリーでは、南海トラフ巨大地震の”揺れ”を目で見て実感できる「振動台」をはじめ、ハザードマップや活断層マップなどを立体的に確認できる「3Dビジュアライズ」、名古屋市と周辺30市町村を上空からの視点で眺めることができる「床面空中写真」など、来場者の興味を掻き立てる展示が行われている。

「一般の方の見学受付は2014年の開館当初から行っていますが、展示内容については少しずつ手法が進化しています。研究を重ねて判明した新しいデータについては随時アップデートしていますし、もともとは紙でしか表現できなかった床面空中写真のような展示も、プロジェクションマッピングの投影によってよりリアルに解説できるようになった点は大きな変化ですね。
また、幼稚園や保育園で出張啓発を行う場合、大学で学生たちに教えるような解説の仕方ではまったく伝わりません。先日も「洪水の怖さについて子どもたちに教えてほしい」と言われたのですが、洪水のメカニズムを再現する装置を持って行っても、園児さんたちは自分たちで触りたくなっちゃうんですよね(笑)
そこで、砂場遊びのような簡易装置を作って“みんながお家を建てるならどこに作る?”と聞きながら、おもちゃの家の模型を置いてもらう…そこに水を流すと、せっかく作った宅地がどんどん削られて、お家が流されてしまった…こういうことが目の前で繰り広げられると、子どもたちは集中していろんなことを感じ取ってくれるようです。
減災館の展示物は、教員や学生たちが“どうしたらわかりやすく説明できるか?”を考えて展示しているものなので、決して映えるとかお洒落とか洗練されたモノではありませんが(笑)、少しでも多くの人に災害のメカニズムを知ってもらい“減災意識の種をまいていく”ために、減災館という建物を通じて発信を続けています」

▲減災ギャラリー内の「床面空中写真」では、伊勢湾台風のときの浸水域と南海トラフ巨大地震発生時の浸水域を比較体験できる。同じ水害であっても、災害のタイプによってスピードや被災エリアが異なることがわかる。「地震の後の津波が怖いとよく言われますが、実は地域によっては台風による高潮の被害のほうが大きくなることもあります。こうした災害に関する正しい知識を持っていただくと、それぞれのご家庭での防災への備えや心構えが変わってくるはずです」
▲センターで開発されたシミュレーション技術と長周期の振動台を統合化した地震応答体感装置「BiCURI」。南海トラフ巨大地震が発生した場合に、自宅や高層オフィスビルの中でどのような揺れを感じるか?についてスクリーンの画像と共に体感できる。実際に装置へ乗り込むことはできないが、振動台の揺れを横から見ているだけでも“想像を超える激しい動きと音”に慌ててしまう
▲東海地域の地形模型を使って地理情報を投影する「3Dビジュアライズ」。南海トラフの海溝を含めた標高陰影図やハザードマップ、東海圏に存在する活断層、巨大地震発生時の津波の到達予測など、様々な災害データを視覚的にわかりやすく展示している

災害が発生する仕組みを正しく理解すれば、正しく恐れることができる

▲減災館の北側通路はスケルトン状になっており、ガラス越しに建物地下の免震装置を見学できる

「現在日本国内の地震活動については、何十年かぶりにアクティブな状態になっていると思います。しかし、わたしたち人間の力では“地震の発生を防ぐ”ことはできませんので、起きた時にどうするか?について日ごろから想像していただくところから防災がスタートするんですね。
ドイツの宰相ビスマルクの名言で「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」 という言葉がありますが、災害が起こってから行動をするのではなく、過去の災害の歴史を振り返ることから学ぶこと。
例えば、地震に関しては部屋の中の家具をちゃんと固定するとか、浸水に備えて大切な貴重品や防災用品はあらかじめ家の2階に上げておくとか、簡単な対策であっても、それらによって“防げる被害”が必ずあるはずなんです。
興味本位でもいいのでまずは過去の災害の歴史を知り、それを教訓にしながらいま自分にできる備えを行い、いざというときに行動に移せるイメージをしておく──これが“災害を正しく恐れる”ということだと思います」

▲減災ギャラリーの中には、夏休みの自由研究のテーマになりそうな展示物もいっぱいだ。「こうやって展示物をじっくり見ていただいて、これがなにを意味しているのか?がわかるようになると、ものすごく災害が怖くなってくるかもしれません。でも、皆さんに怖さを知っていただき意識を変えていただかないことには、私たちの研究を生かす術がないわけです。 まずは防災への意識を変えていただくことが、わたしたち減災館の最初のミッションです」

ちなみに、減災館では夏休み期間に合わせて高校生以下の子どもを対象とした「夏休みスペシャル減災教室(2025年7月26日)」を開催するほか、防災の研究者と市民が対話する「げんさいカフェ(毎月開催)」など、様々なイベントや特別企画展示を行っている。

この機会にご家族で減災館を訪れ、“災害の歴史を知り、正しく恐れるための備え”を学んでみてはいかがだろうか?

■取材協力/名古屋大学減災連携研究センター「減災館」
https://www.gensai.nagoya-u.ac.jp/
開館時間/13:00〜16:00(入館は15:30まで)※開館日はHPのカレンダーから要確認
料金/無料
事前予約/5名以上の場合は事前予約が必要

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