明大エースに成長した「ミスターゼロ」 “192センチ右腕”の高須大雅(磐田東中ー静岡高出身)ドラフト年に懸ける思い
2021年夏の全国高校野球選手権静岡大会、静岡高のエースだった高須大雅投手は大会を通じて5試合37回を投げて無失点で頂点に立ち、「ミスターゼロ」の異名を取った。その高須投手が東京六大学野球リーグ・明大のエースとなり、今年、ドラフトイヤーを迎えた。
192センチの大型右腕。長身選手にありがちなポテンシャルだけの評価ではない。運動能力、制球力とも抜群でフィールディングも苦にしない。静岡高時代は打撃も中軸を任される“二刀流”だった。
それでも「(高卒での)プロはまだ無理。大学に行って即戦力、ドラフト1位を狙う」と明大に進学。目標をぶらさず、勝負の年を迎えた。「今までは(プロは)夢の舞台みたいな感じでしたけど、実感が湧いてきました」
名門のエースに成長
23年春にリーグ戦デビュー。24年の春季リーグ戦でエースとして台頭した。明大は1カード目の東大戦で投手陣が四球を連発し2試合で16四死球、10失点。制球力があり、試合をつくれる高須投手に白羽の矢が立った。
2カード目の早大との第2戦で初の先発を任され、7回無失点でリーグ初勝利。最終的に3勝1敗、規定投球回数26回ちょうどで、最優秀防御率(1.38)のタイトルを手にした。「ここまでの成績が残せるとは思っていなくて自信がつきました」
24年春前にセット気味のフォームに変えてから「股関節の使い方、軸足をうまく使えている感覚が良くなった」と最速は153キロに。感触がいまひとつだったカーブも春前に習得。「コーチに緩急が大事とずっと言われていて、先輩から投げ方を教わってたくさん投げているうちに良くなりました」
大学入学時から試行錯誤してきたフォークも実戦で使えるようになり、もともと得意としていたスライダーは5キロほど球速が上がって135キロに迫る。緩急と落差が加わり、投球の幅が広がった。「注目してもらえるようにはなったけれど、まだタフさ、スタミナが足りない」とオフシーズンも下半身を中心とした体力強化に余念がない。
大学日本代表「ドライチ」から得た刺激
昨夏には大学日本代表に選ばれ、プラハ(チェコ)、ハーレム(オランダ)ベースボールウイークなど国際大会を経験。昨秋、ヤクルトにドラフト1位で指名を受けた中村優斗投手(愛知工大4年)の投球を間近で見られたことが収穫だった。
「実際にドライチの人のレベルを見られたというのはすごく大きい。中村さんはとにかく速い、変化球も速い。ボールがすごいです」
また、遠征先で中村投手が使っていて、ヤクルトの入寮の際も持ち込んでいた手作りのストレッチポールに代表選手の関心が集まったという。「市販のポールだと柔らかくてほぐれにくいからと、硬い素材を使って自分で作っていました」
塩ビのパイプにテーピングを巻いて滑らないようにした簡単なつくりだったため代表選手の間で流行し、高須投手も帰国後に早速、ホームセンターで材料を買って作り、毎日使っているという。「全体重をかけて乗っかって全身をほぐすんですが、最初はめちゃくちゃ痛かったです。慣れてきたら痛くなくなり(筋肉が)柔らかくなってます」
無念の負傷離脱
秋のリーグ戦は正真正銘のエースとして臨むはずだった。ところが、2カード目の慶大との第3戦で右肘を負傷。内側側副靱帯(じんたい)の部分断裂でシーズン終了となった。「ある程度の自信がありましたし、最初から第1先発をやると分かっていたので、自分の成績がチームの成績に直結すると思ってシーズンに入りました。投げきりたかったです」。高須投手不在のチームは早大との優勝決定戦に敗れ、リーグ優勝を逃した。
夏のハードスケジュールで94キロだった体重は一時85キロに減り、秋のリーグ戦開幕前は91キロに戻すのがやっとだったという。「体重が戻りきらずに出力が出ていたので、それも(負傷の)原因かも知れないです」。幸いにして肘の手術は避けられたため、治療後はすぐに気持ちを切り替え、春に向けたトレーニングに入った。
下半身中心に始めて、12月には上半身も動かせるようになり、キャッチボールができるまでに回復した。ネットスローに取り組みながら、肘に負担をかけないフォームに改善を図っているという。「テークバックで力を入れずに楽に投げられたらと思ってます」
同年代のスター選手を追いかけて
高須投手と同じ2003年生まれは、中3で150キロをマークした阪神の森木大智投手(高知高出)や144キロを投げていた早大の伊藤樹投手(仙台育英高出)らが「スーパー中学生」として早々に注目された世代。
高須投手は中学で一気に身長が約30センチ伸びて体の使い方に変化が生じたこともあり、当時は比較の俎上(そじょう)にすら上っていなかった。「中学の時は別世界の人たち。比べることすらなかった」。高校、大学の6年間をかけて、同じ土俵に立つところに来た。春には「リーグ戦で圧倒的な成績を残し、レベルアップした姿を見せたい。投げる試合は全て無失点が理想です」と力強く宣言した。
(編集局ニュースセンター 結城啓子)
【こぼれ話】
高須投手の制球力のルーツは少年野球時代にさかのぼります。当時の磐田スモールキングでは「監督がキャッチャーをやってくれるんですが、構えたところ以外は捕らないんです。自分しかピッチャーがいなかったんですが、指導は厳しかったですね」と話します。
実は高須投手と小、中(磐田東中・軟式)、高校と同じ進路をたどった投手が、社会人野球・東邦ガスの不動のエースとなった辻本宙夢投手(28)です。辻本投手が静岡高のエースで甲子園に出場した2014年夏、当時小学5年生だった高須投手は1回戦の星稜戦を現地で観戦しました。「少年野球のころから監督には辻本さんと比べられ、意識してきた」とのこと。辻本投手のような勝負強い投球を春のリーグ戦で見せてくれそうです。