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Galileo Galilei 演劇要素も必然だった、バンドの物語とメンバーの個性も表現した『Tour M』東京ファイナルをレポート

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Galileo Galilei

Galileo Galilei Tour 2024 “Tour M”


2024.10.25 Zepp Haneda

Galileo Galileiが2作同時リリースした『MANTRAL』と『MANSTER』を軸にした全国7ヶ所に渡る『Tour M』の最終公演を10月25日、Zepp Hanedaで開催した。インタビューなどで事前に今回の公演はバンドのヒストリーやメンバーのキャラクターを表す演劇的な側面も盛り込むことが予告されていたが、想像以上に本格的なそれに驚かされると同時に、現在のGalileo Galileiが音楽はもちろんのこと、「こんなことをやったら面白いんじゃないか」という欲求を素直に実現できるオープンな状態にあることの証左として、存外、ストレートに受け止めた部分もある。一般論になるけれど、人と人が社会生活を送るにあたって必要なものは、共通する経験からくる思いやりとか想像力の部分が大きい。再び始動してから2年以上の時間を共にしてきた4人はバンドであることが生活であり日常になっているのだと思う。彼らの“社会生活”が作品を通じてリスナーにも共有される時、年齢や性別を超えた懐かしさのようなものが(信頼というのは口はばったい)通奏低音として機能しているのだ。だから演劇?と一瞬怪訝な反応をしても、今のGalileo Galileiのとめどない表現欲に対して、リスナーの気持ちはむしろ前のめりだった。

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会場に入ると、ステージには王様の玉座、晩餐のテーブルなどが目に飛び込んでくる。そこに子どもの声でナレーションが流れ、どうやらこのシーンは“北海大陸”のM王が巨熊を倒したことを祝う祝宴のようだ。主君“M王”に扮した尾崎雄貴は君主として尊敬されていると同時に、圧政を敷いていることが発言の端々に伺える。「アンコールを忌み嫌う」設定なのも面白い。岩井郁人はM王の片腕である“フミティ将軍”。M王を支えながらも巨熊を倒した手柄を奪われたことなど、諸々の不満を溜めている。そして尾崎和樹はM王の弟、“カズケウス殿下”を演じる。領主でありつつ料理人としての立場に甘んじている。そして岡崎真輝が演じるのはM王に一目置かれる“オチャ大臣”。禁忌の魔術を使え、怪しい薬をM王に勧めたり、妹オフィーリアをM王に近づけたりM王の権力を狙う存在だ。この役柄の設定、ストーリーは雄貴の手によるもので、それぞれ腹に一物抱えた生臭い人間像だったり、関係性は今のGalileo Galileiだからこそ描けるのだろうし、雄貴の楽曲での作風にも通じるところを大いに感じた。

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さて、公演はM王がフミティ将軍とカズケウス殿下の結託により暗殺されるところで劇は場面を変え、ライブはM王の国葬にGalileo Galileiが異邦の楽団として登場するという設定で1部のステージが始まった。ところでフミティ将軍の「これ以上、王の魂が削られることを避けたいが故に暗殺する」という告白は現実においてもリアルなものに感じられたのだが、どうだろう?

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流れ者の楽団は高額のギャラに誘われ、この国葬で演奏することを決めたのだという。雄貴は「野暮なようですが、全てが終わった暁にはアンコールをお願いします」と、M王とは真逆のスタンスを表明。そしてライブは神話的なプロローグ「KING M」で幕を開け、「MANTRAL」でアルバム『MANTRAL』の世界観に突入していく。音源以上のシューゲイズな音の壁、和樹の大きなドラミング、岩井とDAIKI2本のギターの重奏感、大久保淳也のサックスも加わり、もはやジャンルの定義を超えたバンドサウンドを聴かせる。SEのビートで「リトライ」に繋ぐと、グッとブライトでホーリーなサウンドスケープが立ち上がり、その幸せなムードにフロアには今回グッズに投入された“すずめちゃんペンライト”の光が揺れ始める。この曲でも大久保のサックスは存在感を放ち、雄貴は階段の上に上り大久保と向き合ってプレイしていた。彼のパフォーマーとしての開かれた振る舞いは「若者たちよ」でさらに強度を増強。イントロで大歓声が上がった前作『Bee and The Wheales』からの「あそぼ」では雄貴が楽団Galileo Galileoのメンバー紹介を行った。岩井もDAIKIもベクトルの違うギターヒーローであり、和樹と岡崎は手だれのベテランバンドのリズム隊のような安定感である。始動後のGalileo Galileiがもはや特定の洋楽を参照した音楽をとっくに超えてきたことをライブのアンサンブルやアレンジで痛感した場面だ。

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岩井のリリカルなフレージングで始まった「カルテ」は雄貴の子ども時代の記憶をベースにしているものの、ロックオペラのような壮大さを醸し出し、ブルージーな主題とドリーミーなサウンドの甘美さが相まって、劇の設定も今ここがどこなのかも忘れてしまう。架空の子供時代へのマインドトリップ。それは雄貴が丁寧にメロディを歌い、過去のどこかの場所に誘われる「カラスの歌」でさらに想像の純度を高める。この曲の核心と思われる“大人にも子供にも、最期は見えてしまうものだな”というフレーズに生命の営みを感じ、胸がいっぱいになってしまった。さらに大久保のサックスのロングトーンが加えられた「UFO」のイントロに楽曲へのリスペクトと献身を感じ、途轍もない地平で彼らの音楽が鳴っていることに身慄いした。そして子供時代の夢みたいな記憶は続く「ギターバッグ」で、コイツとバンドがやりたいんだという理屈抜きの欲望の物語に自然に繋がっていった、と思う。こうして一度“死んだ”バンドはまた始まるんだな、とワクワクする気持ちが湧き起こると同時に、この曲は前作に収録されてはいるものの、『MANRAL』を象徴する気分も担っているように響いた。ここで楽団Galileo Galileiによる1部の演奏が終わった。

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2部はオチャ大臣がM王を蘇らせるかのような地響きを伴うラウドなベースから幕を開けると、階段の上部に安置されていたM王の棺の蓋がバタバタ揺れ始め、死んだはずのM王が復活。そのままタフな「MANSTER」の演奏に繋がっていった。今度は異邦の楽団Galileo Galileiではなく、役柄のまま演奏するという設定だ。アルバム『MANSTER』が社会的な顔や外面に寄った精神状態をテーマにしているだけになんとなく納得できる上、勇ましい戦士たちの楽団と捉えると、ハードなサウンドがしっくりくる気もする。特にそのヘヴィネスを柔軟な演奏で支えた岡崎の存在感の急進が目を引いたが、オチャ大臣の演奏から始まったことの意味もしっくりきた。1曲終えるとM王に扮した雄貴は自身にふりかかった暗殺〜復活を「何が起こったのかわからないが、パワーが漲っている。今ならなんでもできる気がする」と豪語した。続く「CHILD LOCK」はDAIKIのハードなリフが冴え、拡声器のようなエフェクトのかかった雄貴のボーカルが危機的な状況をイメージさせる。車に閉じ込められた子供の立場と年齢を問わない視点は先ほどまで棺に閉じ超えられていたM王と重ならなくもない。そして、フロアも過去最強のラウドかつヘヴィなサウンドに煽られ熱を増す。

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スリリングな高速チューン「SPIN!」では、さらにペンライトの数が増えた印象で、サビではくるくる回るペンライトが散見された。Galileo Galileiのライブでこんな景色を見ることになるとは!と、参加しているリスナーですら驚いたんじゃないだろうか。ダンスフロアと化した中、岡崎のシンセベースが響き、音源よりグッとダークな世界観の「ロリポップ」が放たれ、さらにギターのメインリフがあまりにもDAIKIのセンスにハマっているように感じた「PBJ」へと続く。表向きの人間の顔というより、大人になって色々なストラグルに巻き込まれて埒が開かなくなってしまった様子を想像してしまう曲群はM王として歌われるのが似合っているのかもしれない。雄貴の書くノンフィクションの主人公を偉大だが孤独なリーダーM王と考えると腹落ちする選曲が成されているからだ。

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オルタナティヴR&B的な音の処理も散見された「ブギーマン」での、愛を交わすとバケモノが目を覚まし、常に恐怖に苛まれる主人公の孤独は演奏の献身で研ぎ澄まされていた。さらに終盤の3曲は1部の物語性に満ちた連なりと同じく、強烈な擬似体験をさせてくれたのだ。調律がずれていくような不安なピアノのイントロからすでに悲しいような切ないような気持ちが押し寄せる「ファンタジスト」。大事な存在が変容してしまうなら自分も一緒に破滅すると歌うこの曲での雄貴の声は、会場の隅々までその意思を伝えていた。楽しくシンガロングしていても、楽しさを上回るもっと強い感情に包まれていたように思う。そして大久保の長めのサックスパートをイントロに加えた「オフィーリア」が、短い曲であるが故にむしろここまでの流れ、もしくはバンドが音楽という芸術を作るのか?の答えのように強い印象を残した。1部が“仲間が集まって音楽が始まる”イメージだとしたら、2部は“音楽を作り続けていく”イメージに感じられた。2部のラストは今のGalileo Galileiのバンドアンサンブルへの貪欲さを具現化した重厚な「ヴァルハラ」。全員がラウドな演奏をすることを心底楽しんでいる姿は更新し続けるバンドの今でもあったのだ。

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2部の冒頭でM王が懇願していたからじゃないだろうが、大きなアンコールが起こり、アーティスト写真のあの清掃員の衣装で再登場したメンバーはやり遂げた笑顔だ。雄貴は、今のGalileo Galileiは思いついたことはなんでもやるのだといい、今回の演劇的な手法もアルバム制作時に発生したもので、アルバムの内容も少なからず影響されたのだという。本編とはガラッと趣向を変えて、様々な時期から4曲を選曲して届けたアンコール。最後は「世界、もう少し優しくてもいいじゃん」という気持ちから作った「やさしいせかい.com」という名の架空の秘密結社のテーマソングである「やさしいせかい.com」が届けられ、「ずっと僕はここにいるから」という最後の一行がずっと胸に残ったのだった。

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なお、アンコールの中で2025年3月15日の東京ガーデンシアターでのライブ『あおにもどる』を発表。このライブは『MANTRAL』(白盤)『MANSTER』(黒盤)に続く3部作のラストである青盤が関連したものになるといい、実験的なアプローチを見せた2024年のGalileo Galileiがその先に見せるものに早くも期待が高まる。

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文=石角友香
撮影=Masato Yokoyama

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