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優先順位をつけて、重要なことだけをやればよかった。

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優先順位をつけて、重要なことだけをやればよかった。

最近、「それは本当に重要な仕事ですか?」と、若手の人から立て続けに聞かれることがあった。


エンジニアの一人は、

「これって本当に重要ですかね?」

「成果はなんですかね?」

「私がやる必要、ありますか?」

と必ず聞いている。


彼は、組織と自分の本質的な目標が何かを考え抜いているようだ。

そして、そのように問うことで、「自分の思う優先度」と「組織が追うべき優先度」を整合させる努力をしている。


彼のように「優先度」に対して、積極的に影響を及ぼそうとする人は、結構珍しい。若いときから、「重要事項」優先せよ、と教わってきたのだろう。


しかし、この発言は、物議をかもすこともある。

組織によっては「生意気だ」ともとられかねないだろう。あるいは「お前の決めることではない」と言われるかもしれない。



哲学でも、小説でも、自己啓発でも、ビジネスでも、「優先順位をつけて、重要なことからやれ」という教訓が語られる。


セネカ「人生の短さについて」然り。

劉慈欣「三体」然り。

マイケル・ポーター「競争戦略」然り。

ピーター・ドラッカー「マネジメント」然り。


わたしも、かつて会社で全く同じようなことを習った。経営戦略とは、優先事項を決めることであるとも習った。


しかし若いとき、わたしは「重要なことを優先する」の本当の意味が、よくわかっていなかった。

いや、むしろ「重要なことを優先するのは当たり前じゃないか」と思う程度だった。


しかし、これは完全な誤りであったことが、後にわかって、後悔した。


なぜなら、実際には

締め切りが近いことを優先する。

うるさい人の言う事を優先する。

評価されそうなことを優先する。

「重要なこと」より「緊急度の高いこと」または「上の人が決めたこと」を優先するようになってしまっていたからだ。


つまり、「優先順位をつけて、重要なことからやれ」は言うほど簡単ではない。


なぜか。それは「優先度をつけるには、自立が求められる」からだ。

実際、

・なにが重要なのか判断できない

・重要だと思うことを自分の意志で優先できない

ことは「自立していない」といえる。


大人と違って、子供は、行動の優先順位を自分で付ける必要がない。言われたことに従っていればいい。

親が差し出した食事を平らげること。

親の言う通りに勉強をすること。

友達の誘いに乗ること。

学校のルールに従うこと。


そうした「枠組み」に従うことが最優先事項になると、自分の意志は、さほど重要ではない決定に向けられる。

「なんの遊びをしようか?」「どの道で帰ろうか?」「お小遣いを何に使うか?」という程度だ。


しかし、大人にとって、「優先度」は自明ではない。自明ではないどころか、相当難しい。

決定をしたい人間は大勢いるが、結局のところ、すべての人生の決定の責任は、自分が負わされるからだ。


上司の言うことに黙って従うか、「重要な仕事ではない」と断るか。

山積みになった目の前の課題を後回しにして、飲みに行ってしまうか、それとも正面から課題に取り組むか。

嫌な人との接触をすべて避けて、心地の良い人達とだけ付き合う人生にするか、それとも「嫌な相手」であっても付き合うか。

勉強するか、先送りするか。

職場におけるトラブルに知らぬふりをするか、自分の時間を使って取り組むか。


自立した大人は、なにを「優先」するかを自分で決めているし、決めねばならないと考えている。

そして、自分の意志を通すのは、とても難しい。



しかし、ここで何より一番まずいのは、優先度の選択を放棄してしまうこと。

つまり、周りに流されて「緊急」と「重要」の区別がつかなくなってくることだ。


緊急事項とは、ほとんどは自分の都合ではなく、他人の都合によって動かされる事項であり、重要事項とは自分の人生を豊かにするために取り組むべき事項である。

したがって、「緊急」ばかりに取り組んでいると、自分の人生は容易に消えてしまう。


実際、40年以上の会社員の時間をすべて「他人の決定に唯々諾々と従う」ことしかしていなかったらどうだろうか。

緊急の仕事や、自分が重要だと思えない仕事ばかりをやっていたら、どうなるだろうか。


考えただけで、怖い。

「緊急度」だけで、重要度を判断する人生だけは、ぜったいにやめたほうがいい。


一方で、「優先事項」を常に意識し、そのために、周囲との摩擦を恐れず努力する人もいる。

冒頭の若者ののように。


優先順位をつけて、重要なことだけをやるのは、困難ではあるが

「人のいう事に黙って従う人生」

「他人に決定をゆだねる人生」

よりは、はるかにマシだろう。

***


【著者プロフィール】

安達裕哉

生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」76万部(https://amzn.to/49Tivyi)|

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◯note:(生成AI時代の「ライターとマーケティング」の、実践的教科書)

Photo:Shirley Tittermary

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