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感情を読み取る犬のおかげで【穴澤賢の犬のはなし】

いぬのきもちWEB

先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで感じた何気ないことを語ります。
犬は人の感情を読み取る能力があると思っている。たとえば機嫌が悪いとき、犬は近寄ってこない。断っておくが、私は絶対に犬に八つ当たりすることはない。態度にも気をつける。何かをバーンと叩いたり、投げたりすることもない。

犬に感情を読み取らせないために


【穴澤賢の犬のはなし】


表情にも出さないよう注意する。なぜなら、犬が感情を読んで勝手によそよそしくなるのを知っているからだ。だからムカムカしているのがバレないよう、極力平静を装う。

【穴澤賢の犬のはなし】


こう書くと私がしょっちゅうイライラしているみたいだが、普段はいたって温厚だ。とはいえ、生きていればたまに「おいおい、ふざけんなよ」と思うことくらいはある。もうオッサンだからそのまま口に出すことはないが、内心ムカムカすることだってある。と同時に大福に悟られないよう気を配らなくてはならない。

【穴澤賢の犬のはなし】


例えば、パソコンに向かってメールを読んでいるときにイラッとしたとしよう。そう思ったとしても、普段通りにしている。ひとり言も、舌打ちもしない。ただ黙ってパソコンに向かっている。

【穴澤賢の犬のはなし】


それでも、さっきまで私の後ろで昼寝していた大福が、そそくさとどこかへ行ったりすることがある。彼らはいったい、何を見ているのか。私の背中から湯気でも上がっているのか。

【穴澤賢の犬のはなし】


それは大福に限らず、先代犬の富士丸もそういうところがあった。私もまだ30代だったから、今よりはいらつくことも多かったのかもしれないが、それでも八つ当たりなんてしたことはない。

【穴澤賢の犬のはなし】


なのに、機嫌悪そうにしていると、関わりたくないような態度で遠巻きに見ているか、なぜか反省顔をしているのだった。だから私は、その度に「お前は何も悪くないんだよ」と言わなくてはならなかった。そんなことが重なるうちに、私はなるべく平静を装うようになった。

【穴澤賢の犬のはなし】


富士丸を乗せて車を運転しているときも、常に遠心力やブレーキに気をつけ、ゆっくり曲がり、なるべく自然に止まるくせがついた。急に割り込まれても絶対クラクションなんて鳴らさず「どうぞどうぞ」とすぐ道を譲るし、後ろから飛ばしてきた車が接近して来ると「お先にどうぞ」と先に行かせる。人間的には全然違うが、車の運転はまるで仙人のようになった。

なぜ感情の起伏がバレるのか


【穴澤賢の犬のはなし】


そんな風に気をつけているのに、機嫌が悪いと大福にはなぜかバレる。そのため、よそよそしくなった大福に対して、「怒ってなんて、ないんだよぉ〜」と無理矢理笑顔を作っておどけて見せなくてはならない。人が見たら「大丈夫かアイツ」レベルである。人の感情を読み取る犬は多いので、似たようなことをしている人もいるのではないだろうか。

【穴澤賢の犬のはなし】


腹立つことがあったのに、そんな真似をするのは正直しんどい。でも、何も悪くないのに反省顔されたり、よそよそしくされるのも申し訳ない。だから必死でニコニコしながらおどけて見せるのだが、作り笑いをしているうちに、「まぁいいか」とわりとどうでもよくなることもある。どうでもよくないこともあるが、カリカリしてもしょうがないか、となるのだ。

【穴澤賢の犬のはなし】


だから本来は、そんなに温厚な性格ではないはずだが、長年犬と暮らすうちに矯正されて、あまり怒らなくなったような気がする。それは大福に悟られたくないからだ。

【穴澤賢の犬のはなし】


そしてよく考えれば、大福をしかるようなこともなくなった。しかるようなことを彼らは何もしないからだ。大吉は元々優等生だったが、破壊王時代の福助に「お前、なんでソファーを食い破ってんだ! 何やっとんじゃボケー! 」と怒鳴っていた頃が懐かしい。

【穴澤賢の犬のはなし】


プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。

大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。

福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。

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