フレイル・サルコペニア・ロコモの違いと関係性を解説!それぞれの特徴と予防法も合わせて紹介
フレイル・サルコペニア・ロコモの定義と特徴
フレイルとは?
フレイルとは、加齢に伴って心身の活力が低下し、健康な状態と要介護状態の間に位置する虚弱状態を指します。日本老年医学会が2014年に提唱したフレイルという概念は、高齢者の健康リスクを早期に見つけるための重要な指標として用いられています。
フレイルの有症率は、65歳以上の高齢者全体で5.3%であり、年齢を重ねるごとにその割合は高くなる傾向にあります。
フレイルの主な特徴としては、筋力の低下、疲れやすさ、体重減少、活動量の減少などが挙げられるでしょう。これらの症状が進行すると、転倒や骨折のリスクが高まり、最終的には要介護状態に至る可能性が大きくなります。
フレイルは身体的な側面だけでなく、認知機能や精神・心理的側面、さらには社会的側面も含む多面的な概念です。例えば、物忘れの増加や抑うつ状態、社会的な孤立なども、フレイルの一部として捉えられることがあるのです。
このように、フレイルは高齢者の健康状態を多角的に評価し、早期介入の必要性を判断するための重要な概念なのです。
サルコペニアとは?
サルコペニアとは、加齢に伴い筋肉量と筋力が低下する症候群のことです。「サルコ(筋肉)」と「ペニア(減少)」というギリシャ語に由来する言葉で、年齢を重ねるにつれて自然に起こる筋肉の変化を表しています。
サルコペニアの主な症状は、全身の筋肉量減少に加え、握力の低下や歩行速度の遅延といった機能低下を含みます。特に下肢の筋力低下は転倒リスクを高め、日常生活動作の制限につながる恐れがあります。
診断基準としては、アジアワーキンググループの基準が一般的です。この基準では、下記の条件に当てはまるとサルコペニアの可能性が高いとされています。ただし、この基準値は改訂されることがあるため、順次確認を行いましょう。
握力:男性28kg未満、女性18kg未満 歩行速度:1.0m/秒未満 筋肉量:骨格筋指標(SMI)で男性7.0kg/m²未満、女性5.7kg/m²未満
サルコペニアの原因は複合的で、加齢による自然な筋肉減少に加え、低栄養、運動不足、慢性疾患などが関与しており、何も対策を講じなければ徐々に進行していきます。
重要なのは、サルコペニアは適切な介入で予防や進行抑制が可能なこと。特にタンパク質を十分に含む食事と定期的な筋力トレーニングの組み合わせが効果的な対策となります。
ロコモとは?
ロコモティブシンドローム(略称:ロコモ)は、2007年に日本整形外科学会が提唱した概念で、運動器の障がいにより、移動能力が低下した状態を指します。運動器とは、筋肉、骨、関節、神経など身体運動にかかわる組織や器官の総称です。
ロコモの特徴は、立つ・歩くといった基本動作に支障をきたすことです。具体的には、階段の上り下りが困難になる、歩行速度が遅くなる、片脚立ちができなくなるといった症状が表れます。これらは高齢者の自立した生活を脅かす重大な要因となり得ます。
これらの判定には「ロコモ度テスト」が使用されます。このテストには、立ち上がりテスト、2ステップテスト、ロコモ25という質問票などがあり、これらの結果からロコモの程度を評価します。
ロコモの主な原因は加齢による運動器機能低下ですが、不適切な生活習慣や運動不足、肥満なども影響します。
ロコモの予防には「ロコトレ」と呼ばれるスクワットや片脚立ちなどの簡単な運動が効果的です。早期発見・早期対策によって進行を遅らせることができるため、日常の動作変化に注意を払うことが大切です。
これらの状態はそれぞれ異なる概念ですが、フレイル、サルコペニア、ロコモの三者には密接な関連があり、いずれか一つに該当する人は、ほかの状態も併せ持っている可能性が高いことが明らかになっています。
特に運動機能の低下(ロコモ)は、サルコペニアやフレイルによって引き起こされたり、悪化したりすることが多く、三つの状態は負の連鎖を形成することが知られています。
このことから、これらの状態は独立したものではなく、高齢期における健康問題として包括的に捉えることの重要性が認識されています。
フレイル・サルコペニア・ロコモの関係
3つの概念の共通点
フレイル、サルコペニア、ロコモの3つの概念には、いくつかの重要な共通点があります。これらの要素を理解することは、高齢者の健康状態を全体的に把握する上で役立ちます。
まず、3つの概念はいずれも加齢に伴う身体機能の低下を示すものです。年齢を重ねるにつれて自然に進行する変化ですが、ただ年をとるだけでなく、生活習慣や疾患などの要因も大きく影響しています。
次に、これらの状態はすべて要介護状態になるリスクを高める要因となっています。放置すれば日常生活の自立性を脅かし、最終的には介護が必要な状態へと進行する可能性が高まります。
厚生労働省の調査によると、骨折・転倒が、介護が必要になった原因の第3位となっています。
骨折・転倒が介護原因の上位を占めているという事実は、高齢者の運動器の健康状態(ロコモ、サルコペニア)や全身的な状態(フレイル)が、要介護状態になるかどうかを大きく左右する重要な要因であることを強く示唆しています。これらの状態を予防・改善することが、介護予防において極めて重要であると言えます。
また、予防・改善の可能性があるという共通点もあります。いずれの状態も早期発見・早期介入によって進行を遅らせたり、場合によっては改善したりすることが可能です。特に初期段階では、生活習慣の改善効果が大きいことがわかっています。
3つの概念の相違点
フレイル、サルコペニア、ロコモには明確な違いも存在します。それぞれの概念が焦点を当てている側面を理解することで、高齢者の状態をより正確に評価できるようになります。
まず、「対象範囲」の違いがあります。フレイルは最も包括的な概念で、身体的側面だけでなく、認知機能や社会的側面も含む多面的な虚弱状態を指します。
これに対し、サルコペニアは筋肉に特化し、ロコモは運動器全体(筋肉、骨、関節など)の機能に焦点を当てています。
次に「評価方法」の違いがあります。フレイルはJ-CHS基準などの総合的な評価を用いますが、サルコペニアは主に筋肉量と筋力の測定、ロコモはロコモ度テストという独自の評価方法が使われています。
また、「発祥背景」も異なります。フレイルは老年医学分野、サルコペニアは筋肉生理学分野から生まれた概念であるのに対し、ロコモは日本整形外科学会が提唱した日本発の概念という特徴があります。
発祥背景とあわせて、「評価の重点」にも違いがあります。フレイルは「全身の予備能力の低下」を、サルコペニアは「筋肉の質と量の変化」を、ロコモは「移動能力の低下」を重視しています。
これらの違いを理解することで、個々の高齢者が抱える課題に対して、より適切なアプローチを選択できるようになります。
フレイル・サルコペニア・ロコモの進行プロセス
フレイル、サルコペニア、ロコモは独立した概念ではなく、互いに関連しながら進行するものとして捉えることができます。その進行の流れを理解することは、効果的な予防や介入の時期を見極めるうえで非常に重要です。
一般的な進行プロセスとしては、まず加齢や生活習慣の影響により、筋肉量と筋力の低下(サルコペニア)が始まります。
サルコペニアが進行すると、立つ・歩くといった基本動作に支障をきたすようになり、ロコモの状態へと移行します。運動器の機能低下により活動量が減少し、さらに筋力低下が加速するという悪循環に陥りやすくなります。
やがて、この身体機能低下が長期間続くと、全身の能力が低下し、ストレスへの抵抗力も弱まり、フレイルの状態に進展します。フレイルは身体的側面だけでなく、認知機能や社会的側面にも影響を及ぼすため、より包括的な健康問題へと発展していきます。
重要なのは、この進行プロセスは一方向性のものではなく、適切な介入によって改善できる可能性があることです。特に初期段階では、生活習慣の改善や適切な運動によって機能の回復や進行の抑制が期待できるため、早期発見・早期介入が重要です。
フレイル・サルコペニア・ロコモの予防法
栄養面からの予防
フレイル、サルコペニア、ロコモの予防において、適切な栄養摂取は非常に重要な役割を果たします。特に高齢期は、消化吸収機能や食欲の低下などにより、低栄養状態に陥りやすい時期です。
最も重要な栄養素はタンパク質です。筋肉の主成分であるタンパク質は、特にサルコペニア予防の核となります。高齢者は若年者よりも多くのタンパク質が必要とされており、体重1kgあたり1.0〜1.2g/日のタンパク質摂取が推奨されています。
また、筋肉の健康維持と併せて、骨の健康維持も重要であり、そのためにはビタミンDとカルシウムが欠かせません。ビタミンDは日光浴によっても体内で生成されますが、加齢により生成効率が低下するため、食事からの摂取も心がけましょう。サケ、イワシなどの魚類やキノコ類に多く含まれています。
運動面からの予防
フレイル、サルコペニア、ロコモの予防において、適切な運動は栄養摂取と並ぶ重要な柱です。加齢に伴う筋力低下は避けられないものですが、適切な運動習慣によってその進行速度を大幅に遅らせることができます。
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、65歳以上の高齢者に対し、強度を問わず、できるだけ毎日、少しでも長く身体を動かすことが推奨されています。
目標としては、1日40分以上の身体活動を行うことが望まれます。また、中強度(早歩き程度)の運動を週150分以上、さらに週2〜3回の筋力トレーニングを取り入れることが推奨されています。
重要なのは、高強度の運動を無理に行う必要はないことと、可能なものから取り組み、現状よりも運動量を増やすということです。
サルコペニア予防には、特に筋力トレーニングが効果的です。週に2回以上の筋力トレーニングを行うことで、筋肉量の維持・増加が期待できます。高齢者向けの筋力トレーニングとしては、以下のようなものが推奨されています。
スクワット(椅子を使用した安全な方法で) かかと上げ(ふくらはぎの筋肉強化) 膝の曲げ伸ばし(大腿四頭筋の強化) 腕立て伏せ(壁に手をついて行う方法もあり)
バランストレーニングも重要な要素です。特にロコモ予防には効果的で、転倒リスクの軽減につながります。片足立ちやつま先立ち、かかと立ちなどの簡単な運動を日常に取り入れるとよいでしょう。
厚生労働省の調査によると、65歳以上で運動習慣がある人の割合は、男性が46.2%、女性が39.0%でした。これは日常的に運動を行う高齢者が半数以下と少ないことを示しています。
まずは日々の生活で取り組める簡単な動きからはじめ、本人の様子に合わせて徐々に運動負荷をあげながら運動習慣を身につけていくことが重要です。
社会参加からの予防
フレイル、サルコペニア、ロコモの予防において、栄養と運動に次いで重要な要素が社会参加です。人との交流や社会活動への参加は、身体的健康だけでなく、精神的・社会的健康の維持にも大きく貢献します。
また、社会的孤立や外出頻度の低下は高次生活機能の低下リスクとなることが示されています。これらのデータは、社会参加がフレイル予防において重要な役割を果たしていることを裏付けています。
効果的な社会参加の形としては、地域のサロンやコミュニティセンターでの活動、趣味のサークルやグループへの参加、ボランティア活動、定期的な家族や友人との交流などが挙げられます。特に、社会参加と運動を組み合わせた活動(例:グループでのウォーキングやラジオ体操)は、二重の効果が期待できます。
社会参加は、目的意識や役割意識の維持、自己効力感の向上、孤独感やうつ状態の軽減といった心理的効果をもたらします。これらの心理的効果は、間接的にフレイル予防につながります。例えば、社会参加によってうつ状態が軽減した場合、活動量の増加をもたらし、結果的に身体機能の維持に寄与するのです。
実践的なアプローチとしては、まずは週1回以上の外出を目標にすること、自分の興味や価値観に合った活動を選ぶこと、無理のない範囲から始めて徐々に活動を広げることなどが挙げられます。家族や友人との定期的な連絡手段の確保も重要です。
社会参加は、栄養や運動と比べて見落とされがちな要素ですが、フレイル予防における「第三の柱」として重要な役割を果たしています。特に、社会的フレイルの予防には直接的な効果があり、身体的・精神的健康の維持にも大きく貢献するのです。