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【連載#18】今、観たい!カルトを産む映画たち『パフューム ある人殺しの物語』類稀なる変態映画

ciatr[シアター]

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連載第18回「今、観たい!カルトを産む映画たち」

有名ではないかもしれないけれど、なぜか引き込まれる……。その不思議な魅力で、熱狂的ファンを産む映画を紹介する連載「今、観たい!カルトを産む映画たち」。

ciatr編集部おすすめのカルト映画を1作ずつ取り上げ、ライターが愛をもって解説する記事が、毎日20時に公開されています。緊急事態宣言の再発令により、おうち時間がたっぷりある時期だからこそ、カルト映画の奥深さに触れてみませんか?

第17回の『シリアル・ママ』(1995年)に続き、第18回は『パフューム ある人殺しの物語』(2007年)を紹介します!

類稀なる変態映画『パフューム ある人殺しの物語』(2007年)

豪華キャストを迎えての大ヒット小説の映画化。映画ファンのみならず、文学ファンの関心をも集めるこういった作品は、数えきれないほど製作されてきました。

しかし、原作知っている人が映画を観ると「あのシーンは!?」となり、原作を知らない人が観ると「なんじゃこりゃ?」と思う作品に仕上がってしまう場合も。

『パフューム ある人殺しの物語』は、1985年に出版されたベストセラー小説の待望の映画化ということで話題を呼びました。ところが、少なくとも原作を知らない観客の大半にとっては、意味不明のものになってしまったようです。

18世紀のパリを舞台とした本作は、映像は美しく、衣装や俳優陣の演技にも文句のつけようがありません。しかし、それでもカルト映画と言われてしまうのはなぜなのか?今回はその理由を紐解いていきましょう。

『パフューム ある人殺しの物語』のあらすじ

18世紀のフランス・パリ。悪臭が漂う魚市場で産み落とされたジャン=バティスト・グルヌイユは、孤児院で育ちます。

彼は生まれながらにして、数キロ先の匂いも嗅ぎ分けられる超人的な嗅覚の持ち主でした。成長したグルヌイユは、とある出来事をきっかけに、いつかは消えてしまう「香り」というものを保存したいと考えるようになりました。

しばらくして、落ち目のイタリア人調香師バルディーニに弟子入りし、香水作りを学ぶことにしたグルヌイユ。

その後、自身の理想とする究極の香水を作るため、彼は香水の街・グラースへ。時を同じくして、グラースでは若い女性ばかりを狙った連続殺人事件が発生し、住民を恐怖に陥れていくのでした。

監督はインディペンデント映画で名を挙げたトム・ティクヴァ

本作でメガホンを撮ったのは、ドイツの映画監督トム・ティクヴァ(画像右)。

ティクヴァは子供の頃から映画に興味を持ち、11歳から8ミリフィルムで映画製作を始めました。高校卒業後は多くのフィルム・スクールに入学を申し込みましたが受理されず、ベルリンの映画館で8年間、映写技師として働きます。

1990年から短編映画を製作し始め、1993年には初の長編映画『Die tödliche Maria (原題)』を発表。その後、1998年に発表した長編3作目『ラン・ローラ・ラン』がドイツ、アメリカをはじめ世界各国で成功を収め、注目されるようになりました。

2006年には、コーエン兄弟やガス・ヴァンサントとともに、パリを舞台としたオムニバス映画『パリ、ジュテーム』に参加しています。2021年1月現在、監督・脚本・原案などを務めたドラマ「バビロン・ベルリン」シリーズが、日本でも2019年から放送中です。

豪華キャストの無駄づかい!?

ジャン=バティスト・グルヌイユ/演:ベン・ウィショー

本作の主人公、ジャン=バティスト・グルヌイユを演じたのは、今や大人気となった英国俳優のベン・ウィショーです。

ウィショーは、英国王立演劇アカデミーを卒業後、舞台、テレビ、映画と幅広く活躍。2004年に主演した舞台『ハムレット』が批評家から絶賛され、本作の主演に抜擢されました。

その後は「007」シリーズのQ役や「パディントン」シリーズ、『リリーのすべて』(2016年)などの映画、『ホロウ・クラウン/嘆きの王冠』シーズン1(2012年)や『ロンドン・スパイ』(2015年)などのテレビシリーズへの出演でも知られています。

ジュゼッペ・バルディーニ/演:ダスティン・ホフマン

アメリカの名優ダスティン・ホフマンは、グルヌイユに香水作りを教えるイタリア人調香師、バルディーニを演じました。

『卒業』(1968年)や『クレイマー、クレイマー』(1980年)、『レインマン』(1989年)など、数多くの名作への出演で知られています。彼は『ラン・ローラ・ラン』を観て以来、ティクヴァとの仕事を望んでいたそうです。

リシ/演:アラン・リックマン

グラースの連続殺人事件から娘を守ろうとする裕福な商人、リシを演じたのは「ハリー・ポッター」シリーズのセブルス・スネイプ役などで知られるアラン・リックマンです。

元グラフィック・デザイナーのリックマンは、24歳のときに奨学金を得て、ロンドンにある王立演劇アカデミーに入学。その後は主に舞台で活躍し、1987年には『Les Liaisons Dangereuses (原題)』のブロードウェイ公演でトニー賞にノミネートされました。

1988年に製作された『ダイ・ハード』では、映画初出演にして強烈な印象を残し、その後、数々の映画に出演するようになります。

日本のファンにも愛されたリックマンですが、2016年にすい臓がんのためこの世を去りました。

ナレーター/ジョン・ハート

「パフューム」では、グルヌイユのセリフがほどんどないため、ナレーションが大きな役割を果たしています。そのナレーションを担当したのは、ナイトの称号を持つイギリスの名優、ジョン・ハートです。

ハートはリックマンと々英国王立演劇アカデミーで学び、多くの舞台やテレビシリーズに出演。1966年に映画『わが命つきるとも』に出演し、高い演技力で注目されるようになりました。

代表作には、オスカーにノミネートされた『ミッドナイト・エクスプレス』(1978年)や『エイリアン』(1979年)、デヴィッド・リンチ監督の『エレファント・マン』(1981年)などがあります。

また、「ハリー・ポッター」シリーズでは、オリバンダー老人役を演じました。

ハートはリックマンの翌年、2017年に同じくすい臓がんで亡くなっています。

原作は世界幻想文学大賞受賞作品

『パフューム ある人殺しの物語』の原作は、1985年に出版されたパトリック・ジュースキントの『香水 ある人殺しの物語』です。

歴史研究家、劇作家を経て、ジュースキントが初めて執筆した小説でしたが、1959年にギュンター・グラスが発表した『ブリキの太鼓』以来の大ヒットに。本作は日本語を含む46ヶ国語に翻訳され、全世界で1500万部を売り上げるベストセラーとなります。

1987年には、SF・ファンダジー作品に与えられる賞としてはヒューゴ賞・ネビュラ賞と並ぶ三大賞のひとつである、世界幻想文学大賞を受賞しました。

原作者は権利売却を拒否?苦労の末の映画化

ジュースキントは、本作はスタンリー・キューブリック(画像)かミロス・フォアマン(『カッコーの巣の上で』、『アマデウス』)だけが正しく映画化できると考え、それ以外の監督での映画化を長年拒否してきました。

小説が発売された直後に、友人で映画プロデューサーのベルント・アイヒンガーが映画化権を獲得しようとしましたが、ジュースキントは断っています。

しかし一転、2000年に彼は映画化権を売却。ところが製作会社の重役がこの売値の支払いを拒否したため、アイヒンガーは個人でローンを組みました。1000万ユーロを支払ったとの噂もあります。

ちなみにジュースキント本人は、本作の製作には一切関与していません。

地上波放送不可能!?TVスポットが放送禁止に

2006年当時、『パフューム ある人殺しの物語』が翌年に日本公開されるにあたって、日本でもテレビCMが製作されました。

しかし、その最後に一瞬映る本作の見せ場となるシーンが問題となり、放送開始直後から配給会社に問い合わせが殺到してしまいます。苦肉の策として、問題のシーンがカットされたものに差し替えて放送するテレビ局や、放送そのものを拒否するテレビ局もありました。

こうした事情から、豪華キャスト出演のベストセラー小説の映画化であるにもかかわらず、充分に宣伝することができなかったのも事実です。

『パフューム ある人殺しの物語』がカルト映画たる所以

ベン・ウィショーが気持ち悪い

主人公のグルヌイユは、自らの求める究極の香水作りだけに執念を燃やし、社会性も常識もありません。必要最低限しか話さず、感情的で自己中心的な人物と言えます。

そんなグルヌイユを的確に表現したベン・ウィショーの演技は圧巻で、本当に気持ち悪い!この人ならどんなに恐ろしいこともやりかねない、という説得力があるのです。

グルヌイユには、孤独からくる秘めた怒りや野心があるのですが、それも含めて浮世離れした異才の不気味さを見事に表現しています。

ニオイがしそうな映像

本作では、映像によって「匂い」や「臭い」が表現されました。

グルヌイユが生まれたパリの魚市場のシーンでは、魚やその血で汚れた地面、腐った魚に湧く虫、残飯を漁る犬などが映し出され、その場の悪臭がイメージできます。

また、一面のラベンダー畑や香水の材料となる花の鮮やかな色、若い女性たちの透き通るような肌など、多くのシーンでさまざまな香りが漂ってくるような気がするのです。

視覚から嗅覚をイメージさせるために、これらのシーンではアップを多用。そのため「匂い」の部分は良いとしても、「臭い」のシーンには耐えられないという人もいるようです。

驚愕の?ラストシーン

「パフューム」には、香りが人間に与える影響という大きなテーマがあります。そのため、先述のとおり映像で香りをうまく表現しているのですが、グルヌイユの作った「究極の香水」だけが、その香りを全くイメージできません。

それは、香水の材料が“現実にはありえないもの”だからなのですが、劇中では登場人物たちに驚きの影響を与えます。この光景はショッキングでありながらファンタジーでもあり、なにがなんだかよくわからないのです。

また、ラストシーンではグルヌイユにとんでもないことが起こるのですが、原作とは違い明確に語られていません。実際に観ても、一瞬なにが起こったのかわからないのではないでしょうか。わかった後も、なぜそんなことになったのかは不明なままです。

本作のラストは、「驚愕」と言うよりも「呆気にとられる」と言ったほうがいいかもしれません。

格調高くも意味不明な世界をご堪能あれ!

プロデューサー自ら身銭を切り、豪華キャストを迎え、大半のシーンをスペインロケで撮影し、鳴り物入り公開された『パフューム ある人殺しの物語』。

原作にはほぼ忠実であるものの、その「難解」というよりも「意味不明」と言える内容から、評価が真っ二つに別れる作品になりました。そんな意味不明な世界を楽しみたい人は、2021年現在、NetflixとAmazonプライム・ビデオにて見放題で観ることができます。

Amazonにてそれぞれ1,000円前後でDVD、Blu-rayも発売されているので、お好きな方法で視聴してくださいね!

次回の「今、観たい!カルトを産む映画たち」は?

連載第18回は、香りを映像で見事に表現し俳優陣の演技もほぼ完璧でありながら、賛否を巻き起こした変態映画『パフューム ある人殺し』を紹介しました。

稀代の変態を主人公とした物語は、受け付けない人は全く受け付けないのかもしれません。しかし、不気味な世界観が好きな人にはぜひ観て欲しい、おすすめのカルト映画です。

さて、連載もそろそろ終盤!第19回では、カルト映画としては異色の心温まる映画『サイレント・ランニング』(1986年)を取り上げます。

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