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26年度から「出産費用が無償化」 保険適用なら「受け入れ中止」の病院・クリニックが続出? 〔産婦人科医が解説〕

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「出産費用の無償化」について産婦人科医・柴田綾子先生インタビュー。制度の内容と医療機関の課題を取材。(全2回の1回目)

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厚生労働省は出産費用の自己負担を原則無償化する方針を発表しました。早ければ2026年度から出産費用の自己負担がゼロになります。実現すれば、「出産にかかる費用が心配」というママパパにとってはありがたい制度です。一方で、出産を支える医療機関では、制度の内容によっては分娩取り扱いをやめざるを得ないという声も。

そこで今回は、安心して出産できる制度になるために必要なことについて、淀川キリスト教病院産婦人科医長・産婦人科医の柴田綾子先生にお聞きしました。

(全2回の1回目)

多くのママパパが「経済的・金銭的な負担が大きい」ため子育てしにくいと回答

これまで日本では、「妊娠・出産は病気ではない」という考えのもと、出産にかかる費用は健康保険の対象外でした。医療機関での出産にもかかわらず、保険が使えず自己負担が当たり前という状況が続いてきました。

しかし実際には、妊娠中から出産、そして産後のケアまで、さまざまな費用がかかります。有識者検討会で紹介されたアンケート(※1)でも、多くのママパパが「日本の社会は、子どもを産み育てやすい社会だと思わない」と感じており、その理由として「経済的・金銭的な負担が大きい」ことが大きく影響していることが分かっています。

(※1 https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001291614.pdf)

現在、出産時には「出産育児一時金」として一律50万円が支給されていますが、それでも実際には約半数の人が、この金額を超える費用を自己負担しているという調査もあります。

さらに、妊婦健診の費用についても公費助成制度が整いつつあるとはいえ、自治体によって補助内容が異なり、妊婦さんたちの負担感が大きくなっています。

厚生労働省保険局「出産費用の状況等について」p.13参照

こうした背景の中で、今回の出産費用の無償化は、妊産婦の経済的な不安を少しでも軽くし、子どもを産み育てやすい社会へ近づくための「はじめの一歩」として、期待されています。

出産費用が保険適用で多くの病院・クリニックが分娩取り扱いが中止に!?

一方で、この制度には課題もあります。

まず考えなければならないのが、お産を支える医療機関の負担です。今、日本の医療現場は少子高齢化の影響もあって、どこも人手不足が深刻化しています。とくに地方では、すでに「医療崩壊寸前」といわれる地域もあります。

そのなかでも産婦人科は、昼夜を問わずの分娩に対応する必要があり、医師やスタッフにかかる負担がとても大きい診療科のひとつです。

しかも、医療は公的医療保険制度に縛られているため、料金を自由に設定することができません。人件費や光熱費の高騰が続く中で、多くの病院が経営的に厳しい状況に置かれています。

写真:maruco/イメージマート

そんななか、日本産婦人科医会が発表した調査によると、多くの病院・クリニックが「出産費用が保険適用になった場合、分娩の取り扱いをやめる」あるいは「制度内容によっては中止を考える」と答えていることがわかりました。

医療機関が分娩取り扱いを中止する動きが広がれば、地域によっては「出産できる場所がない」という深刻な事態にもなりかねません。

出産費用はタダになっても産む場所がなくなる!?

その背景には、地域による医療コストの違いがあります。たとえば、東京都では出産にかかる費用の平均額は約62万5000円。一方、熊本県では約38万9000円と、なんと23万円以上もの差があるのです。

厚生労働省保険局「出産費用の状況等について」P.7参照

もし保険適用により、国が定めた全国一律の診療報酬が適用されるとなれば、高コストな地域の医療機関は赤字を抱えやすくなり、経営がさらに苦しくなる可能性があります。

今もすでに、分娩を扱う医療機関の数は全国的に減ってきています。もし新制度の内容が、医療現場の実態に合わないものであれば、さらに産院が閉鎖に追い込まれるかもしれません。結果として、「出産費用はタダになったけれど、産む場所がない……」という本末転倒な状況に陥ることも考えられるのです。

淀川キリスト教病院の産婦人科医・柴田綾子先生は、今回の制度について次のように話しています。

「出産費用の無償化は、妊産婦さんの負担を軽くするという意味で、とても意義のある一歩です。

しかし制度の設計次第で、医療現場にも大きな影響が出ます。妊産婦さん、病院、そして社会全体にとって“みんなが幸せになれる制度”をつくっていくことが何より大切だと思います」

──◆──◆──

厚生労働省の発表によると、2024年に日本で産まれた赤ちゃんの数は約68万6000人。統計をはじめた1899年以降、初めて70万人を下回りました。少子化が加速する中、「子どもを産む」という選択を支える環境づくりが急がれています。

出産費用を無償化するだけで、すぐに「子どもを産み育てやすい社会」が実現するわけではありません。でも、これは確かに大きな一歩です。

ただし、忘れてはならないのは、「出産の現場を守ること」も同時に進めなければならないということ。妊産婦さんの安心も、医療従事者の安心も、どちらもあってこそ、本当に支え合える社会がつくられていきます。

次回2回目では、産婦人科医の柴田先生に、「女性が安心して妊娠・出産できる社会」を実現するために、今必要なことは何かを伺います。

取材・文/横井かずえ

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