山田将司と村松拓──ふたりの生き様と息遣いに触れた、とまとくらぶ初のワンマン
とまとくらぶ 大収穫祭2024 2024.10.20 COTTON CLUB
芸術の秋、実りの秋。なんともピッタリな季節に迎えた、とまとくらぶ初のワンマン『大収穫祭』を観てきた。長年ロックバンドのフロントマン同士としてしのぎを削り、一方で気の合う飲み仲間としても親睦を深めてきたふたりがユニットを組むと知った時の興奮、その名が「とまとくらぶ」であると知り味わった若干の戸惑い、そこから曲が増えライブで披露されるたびに感じたワクワク、我々の中で生まれたあらゆる感情も良い感じにまとまってきたタイミングである。しかも2日前にはアルバムをリリースしたばかり。機は熟した。
会場は丸の内にあるライブレストラン・COTTON CLUB。70分ほどのセットを2ステージ行うスタイルであり、僕が観たのはその2本目。村松拓の実家の味をベースにしたというチキンのトマト煮や、山田将司が考案したオリジナルカクテルをはじめとしたドリンクとフードを観客たちが楽しむ中、暗転したかと思ったらすぐさま現れたふたり。「ようこそ、とまとくらぶ『大収穫祭2024』へ」(山田)、「イエイ!楽しんでいきましょう」(村松)。会場の雰囲気もあってか普段ほどくだけたテンションではないが、朗らかな様子を見る限り気負いはなさそうだ。
暖色系の照明がじんわりとステージを照らし、鳴り出した弾けるリズムに観客たちがクラップで応える。一曲目はアルバムと同様「羅針盤」だ。<新しい未来地図描き響け/風のように唄いながら>──ド直球のポジティヴな言葉で「前に進もう」と伝える、彼らの所信表明。たくましさもナイーヴさも内包したツインボーカルによる、フレーズごとの歌い分けや上へ下へと行き来するハーモニーの重なり、朴訥としながらもキラキラと煌めくアコギの響きがたまらない。<Ah〜>を繰り返すちょっとクドいくらいのハーモニーも楽しい。続くアイリッシュフォーク調の「とまとめいと」も盛大なクラップと共に賑やかに。村松から「将司!」と振られた山田がメインリフを奏で、続けざまに村松が渋めのソロを決める。
2ステージとも完売したという満員の場内を見渡しながら「どういうことなんだろうね?」ととぼけてみたり、「「とまとめいと」でちょっと俺泣きそうになっちゃった」などと率直に感慨を明かしたりしつつ、ライブは進んでいく。淡々と刻む8ビートが次第に力強さを増しながらメロディアスでポップス然としたサビへと至る「Sunny Side Song」から、往年のレディオヘッドばりの儚げなアルペジオが静謐な空気を生む「交差点」へ。酸いも甘いも噛み分けてきたボーカリストだから表現できることもいろいろある、というMCでの言葉通り、歌う内容だけでなくサウンドの方向性も実に多彩。普段のバンドで表出している/いないに限らず、ふたりの通ってきた音楽遍歴までどことなく垣間見えるのがいい。
中盤には彼らの原点とも言える最初のオリジナル楽曲「故郷」、次にできたという「Whaleland」と既発の2曲を披露。「故郷」は何度も聴いてきたこともあって、セッティングや会場設備からくる音の良さや、丁寧な歌い回しなど、普段のラフな雰囲気のライブとは一線を画したクオリティを感じたし、歌も音色もさりげないのに確かな推進力を感じる「Whaleland」からは“アコギの弾き語りユニット”と聞いて想像する範疇を悠々と超えていく、とまとくらぶサウンドの有するスケールの大きさとポテンシャルをあらためて感じることができた。没入気味に目を閉じたり伏せがちな山田と、隅々まで見渡しながら歌う村松が、時折視線を交わして微笑み合う。ふたりの間合いや息遣いまで感じられる距離感がなんとも贅沢だ。
彼らのレパートリーの中でも一際アッパーでノリの良い「逃走曲」にガツンとやられ、爽やかさとエバーグリーンな煌めきに満ちた「春夏秋冬」の普遍的なメロディに浸ったところでライブはもう最終盤。「とまとくらぶ、熟すまでやっていきたいと思いますんでよろしくお願いします!」との宣言に沸いたところで繰り出したのは、「風と流浪」だ。風と共に流浪の旅路をゆこう、目的地は決めずに行こう。40代になって、何周かして辿り着いたシンプルで肩の力の抜けた言葉が勇気をくれる。熟す/熟さないでいったらまだ青いくらいの内容だが、それがいいんだ。力強いストロークによる演奏とたっぷり聴かせる伸びやかなハーモニーで、和やかながらも実にエモーショナルな空気を作り上げたのだった。
ひとまずは収穫の時を迎えたとまとくらぶだが、まもなくツアーも控えているようにふたりの旅路はまだまだ続く。ラストは<どこまで行けるか/どこへでも行けるはずさ>、そんな力強い確信で締めくくる「タイムカプセル」だった。バンドの方と比べればインディペンデントにやっている活動なので、これまでよく知らなかった、聴く機会がなかったという人もいるだろう。この記事を目にしてくれたのなら、ぜひ音源を聴いてみてほしい。ライブに足を運んでみてほしい。ふたりの人間味に根差した実り豊かな音楽が鳴っているはずだ。
取材・文=風間大洋 撮影=稲垣ルリコ