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テンカラ釣り歴 60 年レジェンド天野勝利が語る!水面をもがく 「逆さ毛バリ」

つり人オンライン

テンカラ釣り歴 60 年レジェンド天野勝利が語る!水面をもがく 「逆さ毛バリ」

渓流釣り界のレジェンド、天野勝利さんは御年80歳。本流テンカラの核心である「逆さ毛バリ」の真実を知りたくて、下呂のご自宅を訪ねた

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写真と文◎編集部

ベテランに魅せられ

天野勝利さんの自宅は日本三名泉のひとつに数えられる下呂温泉の市街地からやや離れた萩原にある。天野さんが創業し息子の寛さんが後を継いだ「お食事処お宿 あまの」がそうだ。
自宅前には益田川が流れ幼いころからアマゴ釣りに親しんでいるが、テンカラを始めたのはいつ頃なのだろう。
「20歳の時やったと思う。子どもの時分からエサ釣りをやっとって姿が見えるのに釣れない魚がおった。水面で虫を食うアマゴや流しきったエサが浮上する時に飛び付くアマゴ。どうすれば釣れるのか思っとったころ、ビクにボリュームのあるアマゴをたくさん入れたおじさんと出会った。対岸の村に住む聾唖の人で、耳も聞こえんし喋れんからどうやって釣ったのか聞くこともできん。それに技を隠そうとする人やった。
 ある時そのおじさんがうちの前にあった大きな淵で毛バリを振っていた。こっそりと釣り方を観察していると、2mくらいの竹ザオで5mくらいの馬素(馬の毛を撚り合わせたイト)を使いピシャッと水面を叩くような振り込みで釣っていた。そんなやり方で釣れるのかと思っていたら釣れた。それも1匹ではなしに数匹。これは後から考え付いたことやけど深い淵の底にる魚は水面の毛バリになかなか気付いてくれん。だから時にはラインで水面を叩くようにして意識を上に向かせる。それで別の場所を釣ってからもういっぺん入り直して今度は慎重に釣る。すると不思議に釣れる。まあそんなおじさんの釣りを見ていたらテンカラという釣りも面白いなと思うた」

逆さ毛バリは食性以外にも威嚇の本能をも引き出す釣りと天野さんは考える


 今年傘寿を迎える天野さんにとって60年前の話である。「釣りの名人はエサ採り名人」と天野さんは言う。魚が常食する川虫が多い場所を知っていて、時期によって流れやすい虫や羽化するタイミングなども観察している「私は恵まれた場所に住んどるからね。季節に合った釣りしかせんのです。春先の水が高い時期にテンカラはやりません。ある程度水が温かくなってから渇水の時に釣る。いつもテンカラを始めるのは4月20日過ぎ。ちょうどこの辺でヤマブキの花が咲くころやね。自然の暦こよみが読める人はよく釣れる。状況がいい時に釣らんと釣りが楽しみではなくなる。苦しみになってしまう(笑)」
 益田川流域には小坂川や山之口川といった美しい支流もあるが、天野さんが好んで行くのは馬瀬川だ。


「馬瀬は優しい流れで伸び伸びと釣れる。小坂川もいい魚はいますが、よっぽどな状況でないとやらんな。流れが荒々しいとは言わんとしても渓は深い。私は本流志向なもんで沢の釣りが好きではない」
 川幅の広いエリアで釣りを好んでするうち、サオの倍ちかくある6~7mのラインを操る本流テンカラ釣りが生まれた。
「テンカラは一人一派。いろんな考えをもった釣り人がいます。私のやっとる逆さ毛バリの考えをいえば、魚の食性だけに訴える釣りではないということです。アマゴが口を使うのは捕食のためだけでなく、威嚇とか好奇心とか他の理由もあると思う。そうした反応を引き出すにはただ流すのではなく毛バリの動きが必要なのじゃなかろうかと。渓流のルアー釣りもそうでしょう。ミノーやスプーンを捕食のためだけに食っていないと考えます。 川をのぞいとると我々にはゴミにも見えんような小さな虫がもがきながら流れていて、泡の浮かぶカガミでその虫を食べるアマゴが見える。多くはポチュッと大人しい食い方をするけど中にはバシャッと勢いよく出る魚もいる。なにか反応の仕方が違うように感じるくらい食べ方の勢いが違う。こういうヤル気を引き出すにも毛バリの動きが有効と思っとるわけです」と。渓流のルアー釣りもそうでしょう。ミノーやスプーンを捕食のためだけに食っていないと考えます。川をのぞいとると我々にはゴミにも見えんような小さな虫がもがきながら流れていて、泡の浮かぶカガミでその虫を食べるアマゴが見える。多くはポチュッと大人しい食い方をするけど中にはバシャッと勢いよく出る魚もいる。
なにか反応の仕方が違うように感じるくらい食べ方の勢いが違う。こういうヤル気を引き出すにも毛バリの動きが有効と思っとるわけです」 逆さ毛バリに使うハリはオーナー「渓流」8号。いわゆる普通のミミ付きの渓流バリでワンサイズしか使わない。

 


イトを通すアイはコイ釣り用の1号の吸い込みイト(絹糸)をフトコロの内側に折り返してセットしスレッドで巻いていく。ハックルはキジの胸毛だ。逆立てるようにスレッドで巻き上げる。
「昔の私の毛バリは毛が下向きの〝順毛バリ〟でした。そのうち動きを付けるには逆に巻いたらどうだろうかと思った。誘う動作の中で毛が開いたり閉じたりする効果が得られるのではないかと。もうひとつは遠くに毛バリを飛ばしたい。毛を逆さに巻けばバトミントンの羽根と同じような効果が期待できます。抵抗が少なくて飛びやすく的を射抜きやすい。思うようにポイントに飛ばせて魚に口を使わすことができれば〝してやったり〟という会心の釣りができるでしょう」天野さんはそう言って逆さ毛バリの巻き方を実演して見せた。

天野さんの釣り部屋には木枠のタモ、ビク、エサ箱といった手作りの釣り具が所狭しと並び、さまざまな競技会の賞状が貼られていた

 

逆さ毛バリを作るのに必要な道具は少ない。スレッドとボビンホルダー、アイにする絹糸(コイ釣り用の吸い込みイト1 号)、キジの胸毛、瞬間接着剤、ハサミ

 

ハリはオーナー「渓流」8 号しか使わない


バイスは使わずに手でハリを保持してパッパと巻き上げていく。天野さんのもとを訪れたのは4月8日。下呂にはまだ桜が咲いておらず当地も雪が多かったことから周辺の水脈のアマゴは本調子になっていない。先述のとおり4月20日過ぎにならなければテンカラはやらないと言っていた天野さんだが、無理を言って馬瀬川で実演をしていただいた。サオの長さの倍となるロングラインを操るのが天野さんの流儀である。
「長いラインを振り込めるようになれば釣りの大半はできています。大事なことは急いで振り込まない。跳ね上げたラインが後ろでしっかり伸びるまで一間置いて、前に伸びるラインが失速する前にサオ先を少し戻してやる。そうすることで毛バリから着水します」
 渓流釣りの基本は上流に向かって釣り上がりつつ上流に毛バリを振るが、本流を好む天野さんは釣り下り正面から下流を釣ることが多い。ねらいのポイントは流心の脇、石裏の巻く流れ。
天野さんに言わせると魚の退避場所と言うような流れの緩いスポットだ。
 毛バリの着水時にはドラグが掛からないようにラインを置いて、水面の上にあるテーパーラインのタルミを上下に躍らせるようにして誘いをかける。流しても3~4秒と短いストロークである。
「誘いとアワセは一体であれとよく言うんですが、つまり誘いの動作の中でアワセも決めます。沈んでいる毛バリの周辺を注視して魚が反転する姿などを確認してから合わせます。大概の人はアワセが早すぎるんですね」
 天野さんがよく釣る4月下旬以降はトビケラが羽化して水面に浮上する時期とも重なる。それは水面直下をもがくように動く逆さ毛バリの誘いにも近い。ただ、誘いをかけ続けると捕食レーンからズレやすく食い損ないも多い。
そこでアマゴが捕食しやすい誘いのリズムをつかむのが大切と言う。
「誘いのリズムは日によっても場所によっても違う。感覚的で説明しにくいですが、それが合うとよく釣れる」
 この日訪れた馬瀬川は小雨がパラッと降り虫も飛び交っていたが水温は冷たくライズも見られない。天野さんは「まんだ水が〝硬い〟」と言った。冷たくて魚が動きにくい温度なのだ。
「エサ釣りはアマゴが常食しているエサを使って間違いのない筋をきちんと流せば食うてくる。テンカラは言葉が悪いけど最初から魚をだます擬餌バリの釣りや。そのぶん食わせた時のしてやったりという気持ちが違う。ただ釣るんでなしに大きな満足感を得られる釣り方と言ってもいいんでしょうね」
 4~9月は渓流釣りとアユ釣り、冬の間は狩猟で山に入る。自然の暦を意識しながら生きている天野さんは80年の年月はあっという間と思えると話す。
アユ釣り名手の村田満さんやテンカラ名手の瀬畑雄三さんと同時代を生きてきた名手の訃報に寂しくなりながらも、「今年もテンカラとアユは元気に楽しめそうです!」と快活な笑顔を見せるのだった。

2023年に馬瀬川で釣れた43㎝のアマゴの剥製。近年も毎シーズン尺上アマゴをテンカラで手にするという

 

 

 

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