BLANKEY JET CITY が手にした普遍性!土屋昌巳プロデュースのセカンドアルバム「BANG!」
7月にはサブスク全曲解禁、9月から全オリジナルアルバムがアナログ盤でリリース
7月にはサブスク全曲解禁、9月から全オリジナルアルバムがアナログ盤でリリースと、ホットなニュースが続くブランキー・ジェット・シティ(以下:BJC)。1990年8月に『イカ天』(三宅裕司のいかすバンド天国)に初登場。毎週勝ち抜いていくと、番組はすぐさま彼らの特集を組んだ。イカ天初登場からわずか8ヶ月後の91年4月にデビューアルバム『Red Guitar And The Truth』をリリースして、2000年5月にラストにして8枚目のオリジナルアルバム『Harlem Jets』をリリース。彼らの登場に度肝を抜かれ、アルバムのリリースを心待ちにしていた90年代は、やはり素晴らしかったと思う。
オリジナルアルバムでBJCの軌跡を辿ってみると、ファーストアルバム『Red Guitar And The Truth』は、ガレージ感満載で、浅井健一のグレッチが奏でるネオロカビリー的なリフを際立たせたアマチュア時代の集大成だ。その9ヶ月後にリリースされたセカンドアルバム『BANG!』でバンドとしての音楽性を確立。
セカンドアルバムで確立させた音楽性を礎にサードアルバム『C.B.Jim』では、確固たるプロ意識の上で、自分たちのエッジを利かせた独自の物語性をリアリティを持って開花させた。そこからもBJCはコンスタントにアルバムをリリースしていく中でいくつかの転換期があった。
93年の『Metal Moon』そして、翌年の『幸せの鐘が鳴り響き僕はただ悲しいふりをする』では混沌とした精神世界が際立っていたが、続く『SKUNK』ではそれを振り切ったかのような原点回帰でロックンロールの刹那性を体現させた。そして、セルフプロデュースに切り替えた『LOVE FLASH FEVER』では、シンプルかつ奥行きが深い、3ピースバンドならではの深化を見せ、「ガソリンの揺れかた」という生命の根源を歌にした名曲を残す。そしてこのアルバムの方法論を基盤に実験的要素を交えて『ロメオの心臓』という傑作を作り上げる。サウンドとリリックが生命体であるかのように変化をもたらしたBJCの10年間は、日本のロック史を俯瞰した上でも極めて重要なものとなった。
極めてプロフェッショナルな仕上がりを見せた「BANG!」
前置きが長くなってしまったが、今回は、そんなオリジナルアルバムの中から、バンドとしての音楽性を確立させたセカンドアルバム『BANG!』について語ってみたい。
ほぼセルフプロデュースに近い形でリリースされた『Red Guitar And The Truth』とは異なり、本作では土屋昌巳をプロデューサーに迎える。特筆すべきは、土屋の参加はバンドのエナジーをそのままに、パンク、ロカビリー、ともすればブルース的な解釈も含め、3ピースのサウンドに “調和” をもたらせたことだ。ギター、ベース、ドラムーー メンバーが奏でるダイレクトな音質をそのままに、ホーンやキーボードを効果的に施し、一段と深みを増した普遍性を感じさせるサウンドに仕上げた。つまり、ファーストアルバムのライブバンド的な印象を払拭させ、極めてプロフェッショナルな1枚として仕上がっている。
そしてこのアルバムの凄さは、「冬のセーター」「ディズニーランドへ」といったイカ天で演奏されたアマチュア時代の楽曲を『Red Guitar And The Truth』とは全く違った趣向で、作品として完成させたということだ。例えば “核爆弾を搭載したB-52爆撃機” と “おばあさんが編んでくれたセーター” といった相反する言葉が溶け合って生み出される、若き日の浅井健一ならではの唯一無二の世界観が、土屋の手腕により、決して荒削りではない10年、20年、いやその先も語り継がれるサウンドとして確立されている。
“ブランキー・ジェット・シティ” という架空の街で起こった出来事
BJCはデビューから一貫して “ブランキー・ジェット・シティ” という架空の街で起こった出来事と、この街の住人について歌にしてきた。本作に収録されている「絶望という名の地下鉄」では “地下街の片隅にたむろしているのは ローラーを履いた新しいタイプの不良グループ” とあるが、これが世紀末の混沌の中で彼らがイメージした “ブランキー・ジェット・シティ” という街だ。
そしてこの街の物語は、3枚目のアルバム『C.B.Jim』のオープニングナンバー「PUNKY BAD HIP」の中で “新しい国が出来た 人口わずか15人 それも全員センスのない単車乗りばかりが揃ってる” と、より具現化される。ラストナンバー「悪いひとたち」では人類の侵略と殺戮の歴史の中で自分たちも当事者なんだというひとつの真理を吐く。そして、その後もBJCの物語は続いていき、ラストアルバム『Harlem Jets』に収録された「不良の森」で、これまでの自分たちの物語を未来に託すかのように幕を下ろした。
こうやって、BJCが自らの世界観を継続させていけたのは、このセカンドアルバム『BANG!』においてのサウンドの確立があってこそだ。儚く散るロックンロールバンドではなく、物語を深化させるだけの普遍性をこのアルバムでBJCは手にしたのだ。