思春期になり激しさを増す発達障害息子の癇癪とパニック。特性に母が思うこと【読者体験談】
監修:鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
小1で診断。息子の特性は多動・衝動性と強いこだわり
現在高校2年生の息子は、小学1年生の6月にADHD(注意欠如多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)と診断されました。
息子の特性として最も目立つのは、強いこだわりです。息子の様子を観察していると、食へのこだわりや時間割変更への苦手さを強く感じます。
特に食べ物については、嗅覚過敏と触覚過敏のため肉類が一切食べられません。スーパーでお肉コーナーを通過することもできず、回り道して走って行ってしまいます。肉の赤身を見ることも嫌なようで、この過敏さは現在も続いています。
幼稚園児の頃の夢は「大工さん」でした。今は「建築士」になって、お客さんの希望する家を建てる仕事をしたいと、建築科のある専修学校進学を目指して勉強に励んでいます。一貫して建築への興味を持ち続けているのも、息子らしいこだわりの表れかもしれません。
ガラス、ドア、壁を蹴って壊すことも……。ゲームによる癇癪・パニックは成長とともに深刻に
息子の癇癪・パニックは年齢とともに激しさを増してきました。最近では、ゲームに関する癇癪が一番ひどいです。
こだわりの強さを感じていたため、ゲーム機を与えることに躊躇していましたが、周囲の友だちが持つようになり、小学校高学年の誕生日プレゼントで渡しました。案の定、ゲーム依存のようになり、思い通りにいかないと激しい癇癪を起こすようになりました。
小学生の頃は物を投げたり、机や椅子をガタガタさせる程度でしたが、中学生になると大声を上げたり床を踏み鳴らしたりするように。中学後半から高校生になると、奇声を上げて物を投げ、壁を蹴って穴を開けたり、ガラス窓やドア、机や椅子を蹴って壊すことも増えました。先日は扇風機やシャープペンシルを折ってしまいました。
年を重ねるごとに力も強くなり、癇癪による破壊行動が激しくなっています。止めようとすると、私や娘(2歳年上の姉)に手が出ることもあり、家族全員が息子の癇癪に振り回されている状況です。
クールダウンの習慣づけと支援者との連携。放デイと学校の理解ある対応
幼少期から、癇癪が起きた時は自室に行ってクールダウンするよう言ってきました。最初はなかなかうまくいきませんでしたが、小学校中学年頃から徐々にできるようになったのは、当時利用していた放課後等デイサービス(放デイ)の責任者の方のおかげです。
その方は、息子に首からぶら下げるカードを渡し、クールダウンしたい時は赤カード、そっとしておいてほしい時は青カードで、話せなくても意思表示ができるよう工夫してくださいました。そこから家でも癇癪がおこると自分で自室へ行き、30分から1時間後に階下に来て「ごめんなさい」と言えるようになりました。
学校でも、癇癪が出た場合の対応を検討していただき、教頭先生が多目的教室で静かに過ごす体制を整えてくださいました。また、教頭先生の提案で、担任の先生がクラス会議を開いてくださいました。「●●君がパニックになった時、どうしたらいいかな?」という話し合いで、クラスメイトから「寄り添う」「落ち着くまでそっとしておく」「落ち着いたら、ゆっくり話しかける」など、さまざまな提案が出たそうです。
息子は相変わらず癇癪を起こしていましたが、級友たちとの信頼関係を崩すことなく、行事なども懸命に取り組み、無事に小学校を卒業できました。
ただし、現在はクールダウンがうまくいかないことが増えています。思春期のためか、衝動性が強く興奮を抑えることが困難なのかもしれません。謝ることができずに文句を言うことも増え、「自分だけが悪くない」と思っているようです。
いつかまた自分でクールダウンできるようになる、そう信じて今は見守っています。
常に負の気持ちを持っていた私。忘れられない教頭先生の言葉
小学校では通常学級に所属していた息子。癇癪で授業を中断することもありましたが、当時の教頭先生からこのような言葉をいただきました。
「●●君はクラスに必要な存在です。勉強が好きで頭が良く、周囲の生徒の言葉にも耳を傾けることができます。いろんな個性の持ち主がいることを、クラスメイトに知って理解してもらいたい。彼がクラスにいることで、生徒は成長します」
わが家は娘も発達障害があります。発達障害のある子どもたちを育ててきて、常に負の気持ちを持っていました。「社会から受け入れられないのでは?」「この子たちの一般社会での存在意義はあるのだろうか?」そんな不安を抱えていた時、教頭先生の言葉が心に響きました。
「みんなちがって、みんないい」という有名な詩が頭をよぎりました。
息子のようなちょっと変わった子もこの世の中にはたくさんいます。それでいいんだと。
多分、子どもに発達障害がなかったなら、こんなに深く子育てについて考えることはなかったかもしれません。そういった意味で、わが家の子どもたちは、私を「母親」として成長させてくれている存在です。
「いろんな人、子どもがいて、それでいい」そんな世の中になってくれることを切に願います。子どもたちには夢や目標に向かって突き進んでほしいです。私は、その道を一緒に開拓していけるよう、サポートし続けたいと思います。
イラスト/プクティ
※エピソード参考者のお名前はご希望により非公開とさせていただきます。
(監修:鈴木先生より)
癇癪の原因としてASD(自閉スペクトラム症)に併存する易刺激性があります。ゲームなどで思い通りにいかないとイライラして、時には物を壊したり、壁やドアを乱暴に扱ったり、親やきょうだいへの暴言などがみられることもあります。(イライラする)導火線が短いと感じてしまうかもしれません。治療としてはアリピプラゾールやリスペリドン(以前発達ナビでもこの薬についての紹介あり)などがあります。服薬することで導火線が長くなり、穏やかになる可能性があります。また、同時にこだわりにも効果がみられるかもしれません。周囲の理解ある対応も大事ですが、限界があるので主治医と相談して投薬も一つの候補に挙げるといいのかもしれません。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。