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【佐橋佳幸の40曲】大江千里「REAL」この曲でギターを弾いた後、寝るヒマもなくなった!

Re:minder

1985年03月21日 大江千里のアルバム「未成年」発売日

佐橋佳幸の40曲 vol.6
REAL / 大江千里
作詞:大江千里
作曲:大江千里
編曲:清水信之

同世代の “同級生” 佐橋佳幸と大江千里


現在はニューヨーク・ブルックリンを拠点にジャズ・ピアニストとして活躍する大江千里。彼がポップス系のシンガーソングライターとしてEPIC・ソニーからデビューを果たしたのは1983年3月のことだ。一方、佐橋佳幸がUGUISSの一員として同じEPIC・ソニーからデビューしたのはその半年後の83年9月。年齢的には大江が佐橋のひとつ上ながら、彼らふたりは同レーベル、同年デビュー、同世代の “同級生” だ。ご存知のように佐橋はこれまで数多くの千里作品、とりわけ大村雅朗が編曲を手がけた作品にギタリストとして参加してきた。

「実はUGUISS時代、プロモーションのために初めてゲスト出演した音楽番組が千ちゃんのラジオだったの。でも、その後は縁がなかったんですよ。なぜならUGUISSは全国のライブハウスをずーっとぐるぐる回っていて(笑)、同じレコード会社に所属していてもなかなか会う機会もなかった。それに、UGUISSと付き合いがあったのはロック系の人ばかりで。当時、ポップスのフィールドで活躍してる人のことは、なんか遠く端っこの方から見てるっていう感じだった。だから、千ちゃんとの再会はレコーディングの現場。“あの時、番組に出させてもらったUGUISSの佐橋です” みたいな感じで(笑)」

当時の佐橋といえば、84年末にバンドの解散を発表してからまだ数カ月。高校の先輩である清水信之とEPOが所属するヴァーゴ・ミュージックに籍を置き、セッションギタリストという新しい看板を掲げたばかりだった。

「なかなか仕事も来なくてヒマだった。それに、そもそもセッションマンの方々と違って、基本、バンドしかやったことなかったから、他の人たちがどんなふうにレコーディングしているのかもよく知らなかったんだよね。だからあの頃はよくノブさんやEPOセンパイのスタジオに遊びに… というか、見学させてもらいに行ってたの。当時、僕にとってメインストリームとのつながりといえばそのふたりしかいなかったから(笑)。そうこうするうちにノブさんが千ちゃんと仕事をするようになって。それで、ある日、この曲で “おまえ、ギター弾け” と(笑)」

それが3作目のアルバム『未成年』の1曲目を飾る「REAL」だった。とはいえ、自らも優れたギタリストであるうえ、腕の立つセッションギタリストならばいくらでも知っていたはずの清水センパイがここであえてぴかぴかの新人スタジオミュージシャン、佐橋を指名したのだ。その慧眼と決断力には感服するばかり。

「スタジオミュージシャンの仕事は始めたものの、バンド解散からまだ1年も経っていない。僕としてはまだUGUISSを引きずってる時代だったの。でもたぶん、だからこそノブさんは僕を呼んでくれたんだよね。そんなこともあって、この曲ではめちゃロックギタリストの体(てい)で弾いた(笑)。スタジオセッションっていうのは言われたことをはみ出さずにきっちりやる仕事なのかもしれないけど、アレンジャーのノブさんは僕がまだバンドを引きずっていることを知っていたし。そういうギターを弾いてほしくて僕を呼んだわけだから、遠慮せず思いっっっきりやったの。それがうまくハマったんだと思う。このレコーディングで再会したのをきっかけに千ちゃんとも急激に仲良くなっていって。その後、大村(雅朗)さんがアレンジを手がけるようになってからもずっとお付き合いが続くことになるんです」

本当に根っからの作家、大江千里


ある時期、佐橋は大村が最初に指名する、いわゆる “ファーストコール” のギタリストのひとりだった。佐橋にとってもまた、大村雅朗は編曲家としてもっとも影響を受けたひとりだという。が、その両者をつなげるきっかけを作ってくれたのはやはり清水信之。人生の曲がり角にはいつだって “松原高校の清水センパイ” がいるのだ…。

「UGUISS時代、僕と千ちゃんとは近くて遠い間柄だったわけだけれど、それは千ちゃんは “ロックじゃない世界” の人で、自分たちとは接点がないと勝手に思い込んでいたから。でも一緒にやるようになって、すごい曲書く人だっていうのを目の当たりにしてさ。あと、スタジオにいる時もいつもノートに思いついたことを書き留めているんだよ。昔から文学少年だったんだろうな…。レコーディング中も、たとえば西本(明)センパイのキーボードダビングを待っている時間があったりするじゃない? そういう間も千ちゃんは一生懸命ノートにどんどん何か書いていて。この人は本当に根っからの作家なんだな、と思ったっけ」

大江千里が書く曲は、背後にジャズ的な洗練されたコード進行を巧みに配するなど、デビュー当時からすでに20代の大学生とは思えないほど成熟していた。それに対し、佐橋がUGUISS時代に書いていたのは米西海岸ロックテイストの楽曲。音楽的には両者の方向性はまるで違っていたけれど、ともに早熟な音楽性を存分に発揮しつつ、当時大きく変わっていこうとしていた日本のポップ音楽シーンにそれぞれのやり方で刺激を与えていたわけだ。

「とにかく千ちゃんの曲はめちゃめちゃおしゃれだったんだよ。あんな曲を書ける人は他にいなかった。ただ、千ちゃんの作品とパフォーマンスはキャラが強かったから、そっちの印象に圧倒されて、ソングライターとしての凄さがわかりづらくなっていたのかもしれない。けど、ものすごく高度な作曲能力は昔からずっと変わらない。レコーディング中にも曲を聴きながら “あっ、このコードで転調して、その時メロディはこの音に行ってるんだー!” みたいな。しょっちゅうビックリしてた(笑)。だから、その後ジャズのほうに行くと聞いた時も、すごくわかる気がした。80年代、同じ世代でああいう感じのシンガーソングライターっていなかったもんね」

スタジオミュージシャンとしての仕事を軌道に乗せた「REAL」


そして、「REAL」のレコーディングに参加したあたりから “ギタリスト” 佐橋の人生もちょっと変わってきたのだという。

「この曲でギターを弾いた後、びっくりするくらい仕事が増えていったの。どんどん。間違いなく、この曲に呼んでもらったことが大きなきっかけのひとつだった。きっかけはもうひとつあってね。これもノブさんの仕事なんだけど、同じ時期に飯島真理ちゃんの『midori』ってアルバムでも何曲か弾かせてもらったんです。どちらの作品も大ヒットを記録。そうなると、そこでギターを弾いている “サハシ” ってヤツはいったい誰なんだ? と。業界内でも名前が広まりますよね。だから僕としては、このおふたりのセッションに参加したことで、スタジオミュージシャンとしての仕事が軌道に乗ったんだと認識しているんです」

やがてあまりにも忙しくなり、今度は寝るヒマもなくなった。当時どれだけ忙しかったか、佐橋界隈では有名なエピソードがある。その頃住んでいたアパートの玄関には “泉屋” のクッキー缶が置いてあった。スタジオセッションはまだ、ほとんどが現金払いの時代。仕事から帰ってくると、ギャラが入った茶封筒をクッキー缶に放り込む。缶が満杯になると、それをまとめて銀行へ持って行く。寝て、起きて、仕事に行って、帰って、寝て… という日々。せっかくの稼ぎを使う暇もない。佐橋も「すごかったなー、あれは」と苦笑する。

「デビューしたばかりの渡辺美里のチームにも加わって。それがきっかけになって、中村あゆみちゃんとか、当時どんどん出てきたロック系の女性ヴォーカルの人たちと仕事をする機会が増えていったの。そうなるとね、“ほら、俺が言った通りじゃん。ロックバンドの、女の子のボーカルが売れる時代が来たよ” とは思いましたね。ましてや美里は同じEPICでしょ。どこかにちょっとだけ、複雑な気持ちはあった。俺たちUGUISSはやっぱり早すぎたのかな、もうちょっと続けていたらどうだったのかな…。というのはね、正直思いましたよ。でもね、それもタイミングだから。UGUISSの時には乗れなかった波に、この時、僕は乗れたっていうことなんでしょうね。そのタイミングを与えてくれたひとりが千ちゃんで。こういう形で、彼の作品づくりをお手伝いできたのはすごく光栄なことだったな」

「Live EPIC 25」でめくるめく名曲を歌いまくった大江千里


今年は、EPICレコードジャパン25周年記念イベント『Live EPIC 25』が2003年に開催されてからちょうど20周年。25周年イベントからの20周年。そんなややこしい周年を祝う一夜限りの映画館上映も各地で行なわれた。当時コンサートの音楽監督を務めた佐橋も、上映イベントのトークゲストとして登壇。久しぶりにかつての映像に接しながら、ちょうど大江のことを思い出していたという。

「あのライブ、とにかく千ちゃんがすごかったの。それを思い出した。たぶん彼が人前で歌声を披露したステージとしては、かなり最後のほうに近いものだったんじゃないかな。2000年に自分のレーベルを作ってEPICを離れて、2007年にはジャズ宣言。翌年には活動を休止して、ジャズを勉強するためニューヨークに渡って…。でも、この『Live EPIC 25』の時には「REAL」をはじめ、もう、めくるめく名曲を歌いまくっていて。それを改めて見て、なんか俺、泣けてきちゃったの。本当に、すごくよかったの。なんでこんなステージをやっていた人が、この後に歌うのをやめてアメリカに行っちゃったんだろうって…」

なお余談ではあるが、佐橋の奥様でもある女優・歌手の松たか子は小学生時代からの大江千里ファン。とりわけお気に入りのアルバムは『1234』で、ギターのフレーズまで覚えてしまうほど愛聴していたとか。ただし、それを弾いていたのが未来の伴侶となる人だったことは、後に佐橋本人から聞くまで全然知らなかったらしい。

「ポップスにめっちゃ詳しい幼馴染と一緒に、いっつも聴いていたらしいの。昔、松さんがうちに遊びに来た時に『1234』があるのを見て “なんであなたの家にこのCDがあるの!?” って聞くから、“よく見てみろよ、俺の名前書いてあるから” って言ったら “えええーっ、マジでー⁉︎” ってめっちゃ驚かれてしまいました(笑)」

次回【佐橋佳幸の40曲】につづく(12/16掲載予定)

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