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コインに刻まれた神と王 ― 「シルクロードのコイン美術とその周辺」(レポート)

アイエム[インターネットミュージアム]

古代のコインを美術品としてとらえる興味深い展覧会が、浜名梱包輸送シルクロード・ミュージアムで開催されています。アレクサンダー大王やアウグストゥスなど、歴史上の人物を刻んだコインからは、当時の美意識や信仰が浮かび上がります。

関連する古美術品とともに約110点を展示。シルクロード美術史家の田辺勝美氏(元金沢大学教授・文学博士)による解説を通して、約一千年にわたるシルクロード美術の流れをたどることができます。


浜名梱包輸送 シルクロード・ミュージアム「シルクロードのコイン美術とその周辺」会場


展覧会は4章構成で、第1章「イラン文化からギリシア文化へ(ギリシア文化の東方伝播)」から。アレクサンダー大王の東征によってもたらされた文化の変遷が紹介されています。

前6世紀以降、西アジアや中央アジアを支配していたアケメネス朝が滅亡。アレクサンダー大王の征服の後、セレウコス朝が成立し、ギリシア文化が西アジアから中央アジアへと広がっていきました。

展示されている《アレクサンダー(3世)大王 4ドラクマ銀貨》は、ライオンの頭皮をかぶったヘラクレス神(または大王)の頭部が表現されています。勝利の女神ニケーの立像も刻まれ、精緻な造形の中に王権の象徴が見て取れます。


(マケドニア王国)《アレクサンダー(3世)大王 4ドラクマ銀貨》在位:前336〜323年


同時代の美術作品《柱頭:アカンサスと蓮華供養者》は、ギリシア建築のコリント式柱頭をモデルにした仏教建築装飾です。

アカンサスの葉と蓮華に囲まれた若者像が表されており、ギリシアの生命再生の象徴であるアカンサスと、大乗仏教の「蓮華化生」の思想が融合しています。


《柱頭:アカンサスと蓮華供養者》


第2章「ギリシア文化の定着(グレコ・バクトリア朝、アルサケス朝パルティア)」では、ギリシア文化が東方に根づいていく過程をたどります。

《デーメートリオス1世 4ドラクマ銀貨》には、インド象の頭皮をかぶる王の姿が刻まれ、征服の記念が表されています。裏面にはヘラクレス像が立ち、ギリシア的理想の体躯と英雄の象徴が見られます。


(グレコ・バクトリア朝)《デーメートリオス1世 4ドラクマ銀貨》在位:前200〜190年


同じ時代の《水浴するアプロディーテー(ヴィーナス)女神》は、海から上がった女神が髪を梳かす姿を表現した円盤です。息子エロースの姿も添えられ、柔らかな動きと愛らしさが伝わります。

地中海世界で制作され、ガンダーラにもたらされた可能性が高く、異文化交流の証ともいえる作品です。


《水浴するアプロディーテー(ヴィーナス)女神》アフガニスタン(?) 1〜3世紀


第3章「ローマ文化の東方伝播(クシャン朝とガンダーラの仏教美術)」では、交易を通じて伝わったローマ文化の影響を紹介。クシャン朝はローマの金貨に倣い金本位制を採用し、ギリシア系の工人がもたらした技術によって、グレコ・ローマ風の仏教美術が花開きました。

《カニシュカ1世 ディーナール金貨》には、剣と槍を携え、炎を背負う王の姿が刻まれています。裏面には月神マオが立ち、祝福の印を示す手の仕草が印象的です。


(クシャン朝)《カニシュカ1世 ディーナール金貨》在位:127〜151年


浜名梱包輸送 シルクロード・ミュージアムを代表する作品《弥勒菩薩立像》は、この時代の作品です。バラモンの修行者を思わせる束髪や水瓶、豪華な装身具が特徴で、インド貴族の理想像と信仰の融合を伝えます。この作品を触って鑑賞できるのは、大きな魅力といえます。


《弥勒菩薩立像》ガンダーラ 2〜3世紀


第4章「新イラン文化の隆盛と東方伝播(ササン朝ペルシアとフン族)」では、ササン朝ペルシアが興した新イラン文化が紹介されます。ローマ文化も取り入れ、中央アジアや中国、そして日本の正倉院文化にも影響を与えました。

《ホルムズド1世 ディーナール金貨》には、王冠を戴いた国王が聖火壇に手をかざす姿が見られます。背後には火炎が立ち上り、力強く神聖な統治を象徴しています。


(クシャノ・ササン朝)《ホルムズド1世 ディーナール金貨》在位:270〜300年


同時代の《金箔押し仏陀頭部》は、顔から首にかけて金箔が残る粘土製の仏像です。ガンダーラの写実的な造形を引き継ぎながらも、静かな内面性を感じさせます。

アフガニスタン東部の仏寺遺跡から出土し、4〜5世紀頃の制作と推定されています。


《金箔押し仏陀頭部》アフガニスタン 4〜5世紀


まるでミニアチュール(細密画)のような世界が広がる、小さなコインの世界。会場では虫眼鏡が用意され、細部までじっくり鑑賞できるほか、館内のタブレットでコインの裏面デザインや解説を確認することもできます。

古代の貨幣に刻まれた美と信仰の軌跡を、現代のまなざしで味わえる展覧会です。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年10月16日 ]

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