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誰もが作品に参加し、考え、楽しめる「日常アップデート」展が渋谷で開催中

タイムアウト東京

誰もが作品に参加し、考え、楽しめる「日常アップデート」展が渋谷で開催中

「アール・ブリュット」(生の芸術)をはじめ、多様性や共生、インクルーシブの視点から、さまざまなテーマの企画展を開催している「東京都渋谷公園通りギャラリー」で、6人の現代作家が参加した展覧会「日常アップデート」が、2024年9月1日(日)まで開催されている。

つい見過ごしてしまいがちな光景や、何気ない体験、聞き慣れた言葉、どこかの誰かとの共同作業、その日の大切な記憶や事柄の記録、安心できるいつもの風景など、さまざまな観点で創作された作品を通して、日々ただ繰り返しているかのような日常の中で、少し立ち止まって考えるようなきっかけをくれる企画展だ。

Photo: Naomi「東京都渋谷公園通りギャラリー」外観

作品に触れる、一緒に創作する、体験しながらともに展示を作る

同ギャラリーは渋谷駅のハチ公改札口を抜け、公園通りの坂道を上ったエリア、「渋谷パルコ(PARCO)」の斜め向かいに2020年にオープンした。

普段から企画展に合わせて、数多くのワークショップやイベントなどを開催しているが、本展は夏休み期間とも重なることから、鑑賞者が能動的に展示に参加し、作品が変化していくようなしかけが、いつも以上に数多く用意されている。訪れた誰もが作品に触れたり、創作活動ができたりと、さまざまな体験ができる点が、本展の大きな魅力と言えるだろう。

Photo: Naomi宮田篤 「びぶんブックセンター」(右)と、関口忠司の書の作品

公園通りに面した交流スペースでは、宮田篤の 「びぶんブックセンター」と、関口忠司の書の作品が展示されている。宮田は2008年から、短い文章をもとに創作していく小さな本「微分帖」のワークショップを続けており、本展の壁にはこれまでに制作・収蔵された「微分帖」がずらっと並んでいた。

Photo: Naomi宮田篤 「びぶんブックセンター」の展示風景

会期中は、誰もが「微分帖」を作ったり、4コマ漫画のタイトルに合わせて漫画のコマを創作したりできるワークショップを随時体験が可能。また、詩人の向坂くじら(さきさか・くじら)らが「一日研究員」として在廊予定だ。

Photo: Naomi宮田篤

取材中、筆者も「微分帖」を体験してみた。初対面の宮田と雑談しながら、まずは思いついた一文を、2つ折りにした紙のそれぞれのページに色鉛筆で書く。それを互いに交換したら、2つ折りの紙を1枚増やし、相手の考えた一文を膨らませるように、途中に言葉を足す。すると、紙2枚で8ページの「微分帖」2冊それぞれに、2人で共作した文章が完成した。

ほんの5分程度の即興的な創作だったが、新鮮かつとても楽しい体験だった。

Photo: Naomi筆者と宮田で交換して制作した「微分帖」。展示室に収蔵されている

書を展示している関口は、埼玉県川口市のアトリエとギャラリー「工房集(しゅう)」で活動していた作家だ。

日常会話からひらめいた言葉や、映画やテレビから見聞きした言葉、自身の中から湧き出てきた言葉などを、和紙に筆で書き連ねた作品は、柔らかな文字と言葉選びのセンスが印象的だった。じっくりと読み進めていると、何度もハッとさせられ、自分でも何か言葉を書き留めたくなるだろう。

Photo: Naomi関口忠司の書の作品群(2009~2018年)

原田郁は、2008年末からコンピューター上に「inner space」と呼ぶ仮想世界を作り、アップデートとアーカイブを続ける作品を展開している作家だ。また、その中で目にした風景を、アクリル絵の具で描いた平面作品なども制作している。

Photo: Naomi原田郁「共感の窓際」(2009~2018年)

本展では、参加者が描いた窓からの風景が「inner space」上で公開され、会期終了後も恒久展示されるという、参加型のワークショップ「共感の窓際」が開催されている。窓をモチーフにした理由は、単に部屋の中と外をつなぐものというだけではなく、文学や芸術作品においては心の中と外の現実を象徴するもの、ひいては物理的な境界を超えた接点として描かれることも多いからだ。

絵は、展示スペースの一角に用意された用紙と色鉛筆で描いて提出できるほか、公式ウェブサイトからフォーマットをダウンロードし、データ納品や郵送での参加も可能だ。

Photo: Naomi原田郁のワークショップ「共感の窓際」の作例とフォーマット
Photo: Naomi原田郁「WINDOW」シリーズ(いずれも2024年、ジ―クレー印刷)

カラフルで細かなアイロンビーズで創作する土谷紘加(つちたに・ひろか)と、白と黒の刺しゅう作品によるインスタレーションを手がけるユ・ソラ(YU SORA)は、展示作品とは別に、鑑賞者が触れる作品も制作している。

アイロンビーズも、布と糸も、100円ショップで手に入るほど身近な素材だ。しかし、アーティストらの創作作品を鑑賞するだけではなく、実際に触れてみると、新鮮な驚きや発見があるだろう。

Photo: Naomi土谷紘加「micro colorny(no.22)」(2021年、アイロンビーズ)
Photo: Naomi土谷紘加の作品群
Photo: Naomiユ・ソラの作品群

同ギャラリーは、文化芸術を通して、誰もが多様な創造性や新たな価値観に触れられる機会を創出することを大切にしている。本展の内覧会には手話通訳者が同席し、視覚や聴覚に障害のある記者らも参加していた。視覚だけではない作品や展示の鑑賞の機会が当たり前にある場が、少しずつでも増えていく大切さを再認識した。

Photo: Naomi土谷紘加の触れる作品群(右)と、近くに掲出された制作の様子を伝えるパネル
Photo: Naomiユ・ソラの触れる作品群

ギャラリーから街へ、大人も子どもも体験できるインスタレーション

飯川雄大(いいかわ・たけひろ)が2007年から展開しているインスタレーション「デコレータークラブ」は、擬態するカニの名前に由来した名前だ。言葉や映像、遊具などを使い、鑑賞者が作品に触ったり動かしたりすることで、空間の変容や新たな体験をうながす作品シリーズである。

本展では、重量のあるバッグが乗せられたキャリーカートを観客が運び、それを目撃した人もまた鑑賞者となることで、それぞれの立ち位置から作品に参加できるというユニークな体験ができる。

Photo: Naomi飯川雄大「デコレータークラブ―新しい観客」(2024年、スポーツバッグ、キャリーカート)

運ぶ先は、本展と会期が重なる、飯川の4つの展示会場の中から選べる。バスで移動できる三宿のギャラリー「カプセル(CAPSULE)」から、「鳥取県立美術館」や「高松市美術館」まであり、反対にそれぞれの会場から本展のギャラリーまで運ぶこともできる。ギャラリーのスタッフに声をかければ参加可能だ。

飯川の作品といえば、巨大な猫の立体作品をさまざま場所に設置する「ピンクの猫の小林さん」シリーズを思い浮かべる人が多いかもしれないが、本展では、思わずやってみたくなる、さりげなくもユニークな体験が味わえる作品が点在する。

筆者もいくつか体験してみたが、笑いが込み上げてきたり、妙に不安な気持ちになったり、日常の見え方がまさにアップデートされるような感覚がとても新鮮だった。ぜひギャラリーに足を運び、どんな作品なのか確かめてみてほしい。

Photo: Naomi自身の作品を解説する飯川雄大
Photo: Naomi自身の作品を解説する飯川雄大

なお、7月27日(土)・28日(日)の2日間で、渋谷の街を舞台に飯川と行うワークショップ「0人もしくは1人以上の観客に向けて」も開催予定だ。小学生から大人、幼児、親子、障害のある・なしを問わず参加できる。

申し込みは同ギャラリーの公式ウェブサイトから。受け付けは6月28日(金)〜7月15日(月)で、応募多数の場合は抽選となる。そのほか、YouTubeとポッドキャストを使った音声コンテンツを配信するなど、会期中にさまざまなイベントを実施予定なので、併せてチェックしてほしい。

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