Yahoo! JAPAN

『8cmCDで聴く、平成J-POPディスクガイド』著者が語るホントの90年代と平成という時代|長井英治インタビュー

Dig-it[ディグ・イット]

今年は令和7年、昭和の思い出は益々我々の記憶の彼方になりつつあるなか、最近は昭和レトロブームに続いて、平成も再評価の対象となっているという。平成元年からすでに35年ということで、それなりに熟成されてきたということだろう。失われた30年といわれる平成ではあるが、様々なムーブメントやトレンドが生まれては消えていった。それを象徴するもののひとつが8㎝CDである。コンパクトなサイズ感、カラオケ人気などを背景に90年代の音楽産業に大きく貢献したメディアこそ、当時の空気が最も詰め込まれたアイテムといえるだろう。今では完全になくなってしまったが、当時を知らない若者たちに受け、8㎝CDのみのDJイベントが行われていたり、復刻8㎝CDがリリースされるなど再評価が進み、先日は『8cmCDで聴く、平成J-POPディスクガイド』なる書籍がDU BOOKSより刊行された。その著者、長井英治さんに本書の狙い、8㎝CDの魅力を聞いた。

長井英治監修『8cmCDで聴く、平成J-POPディスクガイド』(DU BOOKS)

8cmCDは捨てやすいサイズ

――最初からなんだけど、付き合いが長すぎて、2人で会うとなんか気恥ずかしいよね。なんかベテランの漫才コンビみたいな感じかもね(笑)。しかもインタビューとなるとさらに変な気持ち。

長井:楽屋は別でお願いします、みたいなね(笑)。そうか、このインタビューはそのまま記事になるんだよね。

――そう。ほぼほぼノーカット。

長井:でもちゃんと質問を考えてきてくれたみたいで嬉しいな(笑)。

――では質問を始めます。長井にとって『8cmCDで聴く、平成J-POPディスクガイド』は2冊目の著作になるけど、それについての率直な感想はどう?

長井:嬉しい。もう自分の本を出すことは二度とないと思っていたんだけど、2冊目を出すことができてホント嬉しい。まさか本になるとは思ってなかったから。この本を出せたので、もういつ死んでもいいみたいなところはある(笑)。

――8cmCD で本ができるとは思っていなかったということ?

長井:全然思ってなかった。去年、同じDU BOOKSから8cmCDのネタ本的なものが出たんだけど、それはマニア向けだったんです。ディスク百合おんという人が監修した『短冊CDディスクガイド 8cmCDマニアックス』っていう本。自分の企画が通ったときには、もうすでにその本の発売が決まっていたんだけど、それはヒット曲が全然紹介されていなかったんですね。だったらヒット曲を中心に構成したらいいかもと思って提案したら、すぐに企画が通った。こういうタイプのガイド本はまだ世の中に存在してないからって。

――誰もやってない企画というのは強いね。

長井:アーカイヴァー鈴木さんが『昭和50年男』で8cmCDの連載していたじゃない。8cmCD本は鈴木さんが出すんだろうなって勝手に思ってた。8cmCDはノベルティソグの宝庫だったという側面もあるので、鈴木さんがそういう本を書いた方がいいのかなと思っていたんだけど、世の中から求められているのはそういうことじゃなかったみたいで。フカミマドカさんに言われたんだけど、「8cmCD本って前例がないから、まず王道をやってからマニアックなものを出さないと」って。

――確かにね。そもそもどういうきっかけで8cmCDを集め始めたの?

長井:コロナのときに父親が死んで、断捨離を始めたのね。そのときにLPを全部売っちゃったわけ。そうしたら、また何か集めたくなって最初は紙ジャケを集めようと思ったんだけど高くて続かなかった。だったら8cmCD が手軽かもと思って始まったの。で、コロナで時間があったから、しょっちゅうハードオフに行って買いまくって、その期間に1500枚ぐらい買ったかな。

――集め始めたとき平均的な価格って。

長井:2010年代はハードオフで22円だったんだって。だけど、自分が集め始めたときは55円になっていて。それでもそんなに高くなかったからわりと手に入りやすいけど、最近はどんなに安くても290円ぐらいになっているかな。ディスクユニオンで100円盤というのもあるけど。全体的に市況が上がっちゃっている気がする。

――なるほど。再評価が高まっているんだね。

長井:途中から8cmCDのミリオンセラーを意識的に集めだして170枚ぐらい買ったの。それでスイッチが入って、オリコンの1位獲得曲を全部集めようと思って調べたら310曲ぐらいあって、それが思った以上に難関で。1位と言っても、枚数が売れているとは限らなくて……。

――1位っていうのはリリースタイミングもあるからね。90年代はミリオンでも1位取れない曲もあったよね。

長井:いっぱいあったよ。シャ乱Qの「シングルベッド」ってミリオンセラーだけど、最高位9位だから。ロングセラーだったというのもあるけど、そういう曲たくさんあるんだよ。それで自分が買った8cmCDを色分けしてSNSにアップしていたら、クスオさんっていう人から「この色ついていない8cmCD、僕持ってますよ」っていう反応があって、40枚ぐらい送ってくれたの。その人、自分より15歳ぐらい年下なんだけど、「自分は4万枚持っている」って。加えてCDを6万枚も持ってるって。8cmと12cm合わせて10万枚。

――10万枚!

長井:それから仲良くなって、この本に載っている8cmCDは全部そのクスオさんから借りたものなんだ。

――長井のコレクションじゃないんだ?

長井:8cmCDは状態のいいものは本当に珍しいの。レンタル落ちも多いし、だいたい汚い(笑)。でもクスオさんの8cmCDは状態よく保管されていて、クスオさんのコレクションはすごく貴重なんだ。この本にジャケットがきれいに載せられたのはそのおかげ。

――状態のいい中古8cmCDって見ないかも。

長井:おもしろいのが『SLAM DUNK』の主題歌はだいたい汚い。なぜかというと、子ども聞いていたから。それで今はアニメのタイアップ曲の8cmCDはやたら高い値がついているんだ。まんだらけなんか行くと、1枚1万円以上する8cmCDがガラスに入っていたり。

――カラオケで使うとか、実用性もあったからかね。

長井:カラオケも大きかったよね。8cmCDで歌詞を覚えてカラオケで披露するということは、当時みんなやっていた。だから汚い。

――で、使わなくなった8cmCDは捨てられてしまうと

長井:引っ越しとか、結婚をしたりして環境が変わるときに最初に捨てられるのが8cmCD。レコードって捨てにくいじゃない。でも8cmCDは捨てやすいサイズなんだよね。

8㎝CDでわかる90年代の面白さ

「おどるポンポコリン」/ B.B.クィーンズ

――悲しい。文字通り消耗品だったんだね。8cmCDはあのサイズだからこそ捨てられるし、あのサイズだからこそあれだけ大きなマーケットなったんだろうね。

長井:CDショップで働いていたときのことなんだけど、レジ横に新譜の8cmCDを置いておくじゃない。そうすると、会計するときに一緒に買っていってくれるの。だから、スーパーのレジ横に置いてあるチューインガムみたいなだねって言ってた。本当にそういう感覚だったんだと思う。

――おれも1枚も残ってないな。残ってた8cmCDは全部長井にあげたよね。ところで、集め出した頃って8cmCD再評価の機運はあったの?

長井:2018年ぐらいに若い人たちが8cmCDだけのDJイベントをやっていて、それに遊びに行くようになって、こんなに8cmCDって若い人たちに支持されているんだと思ったのも、こういうことをやろうと思ったきっかけでもあるかな。

――若い人たちは8cmCDの時代を知らない世代なわけだ。

長井:それが新鮮だったみたい。

――こうやって見ると、8cmCDという長方形のフォーマットは異様だよね。その時代感を感じるよね。正方形に慣れていたから当時は違和感あったもん。

長井:この形でデザインしろという方が無理あるよね、本当はね。

――デザインしにくかっただろうな。デザイナーさんの苦労と凄さを感じるよ。

長井:信藤さんは偉大だよね

――そういう特異なフォーマットであることも8cmCDが注目される一因なのかもね。この本に並ぶ8cmCDを見ていると90年代オマージュというのを強く感じたんだけど、冒頭の1年ずつの検証がいいね。

長井:それは嬉しい。冒頭の検証文は全部自分で書いたんだけど、ここをまずやりたくて。90年から2000年までCDショップの店頭に立っていたので、8cmCDが当たり前だと思っていたから、当時はまったくありがたみを感じていなかったんだけど、そうじゃなかったのかもと思って。携帯からスマホに変わって、ガラケーっていう言葉が生まれたけど、8cmCD はガラパゴスCDなのかなって思ったり。

――もう30年も前のことなんだよね。世の中が全然違う。

長井:最近の世の中を見ていると、90年代ってまだいい時代だったんだなって思う。エンタメ業界も街も面白かったし。たとえばHMVの渋谷店で働いていたとき、ちょうどアムラーブームでセンター街に普通にコギャルがいたのね。でも片やオリーブ少女もいて、という感じでいろいろな人種が混在していて、それが当たり前だったときはとなんとも思わないっていうね。本の中で分析したり、こうやって話をしたりしていると、90年代の面白さがわかるけど、リアルタイムでは、なんてつまんないんだろうって思っていたよ。

――まあそういうものだよね。90年代はまだ日本は元気だったのかな。何事もそうだけど、ブーム時はバカにされて、時間が経ってから評価されるというのはあるよね。

長井:うん。売れ線は正当に評価されない傾向にあるんで、ちゃんと評価したいっていう気持ちがあった。去年、B’zが『紅白』に出たとき、SNSで「B’zダサい論争」が起きたのよ。それを見て、王道を真正面からやることが90年代だったんだろうなと改めて思ったの。

――『紅白』のB’zは普通に感動したけど。とくにファンではないのに。90年代の勢いを感じた。

長井;90年代の音楽はジャンルも幅広いしさ。なんだろう、業界自体が潤っていたから予算にも余裕があって、新人でもアルバム1枚作るのに1000万ぐらいかけられていた時代だった。先行投資もできたから才能のある人が音楽業界に寄ってくるっていうのはあったと思う。たとえば、小室哲哉が華原朋美のためにレコード会社作ってデビューさせたりしていたでしょ。今では考えられないよね。

――ORUMOKね。

長井:ヒット記念パーティーのお土産がMDプレイヤー。そういう豪華なパーティーやコンベンションもたくさんあって、音楽業界には夢があったよね。

――小室哲哉で思い出したけど、オリコンで1位から5位まで小室作品が独占という週があったんだ。オリコンの業界誌でその見出しを書いたことを覚えているよ。

長井:96年。あれはすごかったよ。90年代はエイベックスとビーングがシーンを引っ張っていた印象だけど、どちらも最初はいちレーベルだったんだよね。そこからヒットを量産して独立して巨大になっていく様子をCDショップの店員として見ていたことになるんだ。

――90年代はこの2社を抜きには語れないとても大きい存在。とにかく売れていたからね。

長井:90年代のJ-POPって、「ポンポコリン」から始まって、2000年に倉木麻衣がミリオンを記録して終わるんだけど、そういう意味でいわゆる平成J-POP、90年代 J-POPの象徴はビーングだったのかなっていう感じもして。

謎だった「だんご3兄弟」の異常な売れ方

「SAY YES」CHAGE&ASKA

――確かにね。今聞くとヒット曲としてよくできた曲が多い。オリコンのとき、ヒット曲を知るために部内でいつも有線が流れていたんだけど、そのときは好きでも嫌いでもなく仕事として普通に受け入れていたのね。でも、こうやって時間経ってみると、いい曲だったんだなと。そこはリアルタイムじゃわからなかった。不思議だよね。

長井:90年代のサウンドに耳慣れちゃうと、2000年代以降の曲ってすごい音がスカスカに聞こえてしまうんだ。それが90年代の違いなんだろうなと。今の人たちはああいう音数の少ない音楽が好きなんだろうなっていうのを思った。だから、90年代の曲を今聞くと暑苦しく感じるのかも。ギターソロ多いし。

――アーティストとクリエイターとA&Rが三位一体となった、さらにはタイアップ側の企業やメディアも加わった一大産業となっていた印象があるね。

長井:それはある。小室哲哉、小林武史、織田哲郎、つんく♂、奥田民生とか、有名プロデューサーの名前と才能で曲を売っていたという背景もあったよ。

――自分はミュージック・リサーチからオリコンっていう経歴で、この辺の売り上げ状況を近くで見ていたから、CDが飛ぶように売れる状況が数字として入っていたんだけど、長井はその現場にいたわけだから、もっと身近に感じていたわけだよね。

長井:あの頃、話題曲の発売日って1日中その曲しかお店でかけちゃいけないのね。流していれば売れるから。池袋パルコの山野で働いていたとき、CHAGE&ASKAの「SAY YES」の発売日に一日中店内でかかっていたの。それを目当てにお客さんがにひっきりなしに来るから、酸欠で倒れちゃった。空気が薄い場所で、同じ曲を繰り返し聞いていたら気持ち悪くなってきちゃって。

――広い売り場じゃなかったしね。

長井:CHAGE&ASKAのせいじゃないよ(笑)。「SAY YES」は異常な売れ行きだったから。とにかく月9ドラマの主題歌の発売日はすごくて、売り場にいる人全員が同じCDを持っていたのを見たことがある。

――月9神話あったよね。

長井:あと謎だったのが「だんご3兄弟」の売れ方。なぜ300万枚も売れたのか、いまだにわからない。

――集計日、上司に「本当に売れているのか。お店に電話して調査して」って言われて、みんなで手分けしてお店に電話した記憶がある。

長井:品切れになったんだよ。それで再入荷日に渋谷のHMVに行ったら、みんなそれを持ってレジに行列していた。

――発売日前からある程度のヒットはわかっていたけど、想像以上だったってことだよね。

長井:イニシャルもある程度予測して積んでいたけどもそれ以上の反響だったんだろうね。子ども向け曲がそんなに売れるなんて思わないよね。

――「たいやきくん」も子ども向けで大ヒットしたわけだけど、「だんご3兄弟」人気も異常だった。

長井:「だんご3兄弟」が99年の3月3日で、宇多田ヒカルの『First Love』が3月10日。あの頃は売り場がパニックになるくらいだった。あそこがCDのピークだったのかな。8cmCDは「ポンポコリン」で始まり、「だんご3兄弟」で終わったといってもいいかも。

――オリコンのときに年末の年間チャート発表する号にマーケティングリサーチっていう原稿を書いていてね。それがそのまま『オリコン年鑑』に流用されるんで、当時すごく真剣にマーケット状況を分析していたのよ。で、その前の年にB’z の『Treasure』『Pleasure』が出て、これがすごく売れて。その原稿で「もうこの2枚以上のセールは出ないのではないかと書いた3ヵ月後に『First Love』だから(笑)。

長井:誰も宇多田ヒカルの『First Love』があんなに売れるとは思わないよね。

――当時ネットはまだ影響力が少なくて、店頭に行かないと情報が取れなかったわけで、CDショップがメディアだった。しかも外資系の影響が大きかった。宇多田ヒカルあたりの女性シンガーのヒットは外資系CDショップの力もあったよね。

長井:自分は96年に山野楽器からHMVに移ったの。だから、その過渡期にいろんな売り場を見ていたから、すごくおもしろかった。山野とHMVでは売れているCDが全然違うから。

――当時は外資系CDショップの出店攻勢がすごかったよ。

長井:イニシャルも必然的に増えていくわけで。だから、当時のバイヤーってすごくもてはやされて調子に乗っちゃうわけよ。自分も若かったから、調子に乗っていたと思うよ。嫌なやつだったんだろうなって(笑)。生意気だったと思うよ。よく刺されなかったよ。だから、いい時代に生きていたなと思って。今月の『昭和40年男』の特集を読んでも思うけど、少しぐらい不適切なことがまだ許されていたいい時代だった。ネットも普及していなかったし。不適切なことが許されていたっていうわけじゃないけど、いい悪いちょっと置いといて、それがエンタメを作っていたんだろうなと思う。だから、今は窮屈だよね。

「だんご3兄弟」

80年代のレコード漁りはハンターかレコファン

――必要悪とういのは確かにある。当時長井の悪評は当時おれのところにも伝わっていて、責任を感じていたよ。そもそも長井はおれの一言でレコード屋に就職したんだものね。「そんなに音楽が好きだったらレコード屋に勤めればいいよ」って言ったら本当にそうなった。

長井:そうだね。それで山野楽器を受けて人生が変わった。竹部くんはプロデューサーなので、その人の才能を見出すのが上手なの。ずいぶん人生の指南をしていただきましたよ。

――それほどじゃないけど、喫茶店で一緒にバイトしていたときに言ったんだと思う。夜は居酒屋でね。

長井:そうだった。

――話に夢中で、お客さんから「日本酒熱燗で」と言われたのに間違えて焼酎をお燗して出しちゃったりね。

長井;でもお客さん気づかない。顔が真っ赤になっちゃってね。

――最後まで気が付かなかったんだ。悪いことしたよ。あと、メニューに焼売って書いてあるのに読めなくて、「餃子みたいなものだと思います」とか適当に言ったら「それで」と言われて、シュウマイ持って行ったとか。

長井;ランチのときの話もあるね。数量限定ランチなのにひとつ余ってしまって、どうしたんだと思ったらサンプルケースに入れていたサンプルをお客さんに出してしまったらしく。

――ランチが終わったらサンプルケースからサンプルを下げてお客さんから見えないところに置いておくのに、誰かが間違えて出してしまったんだよね。カピカピになってしまったやつを。それでもお客さんは普通に食べてしまっていた。文句も言わずに。ひどい話だけど笑える。それが許された時代なんだよね。あと、消費税が導入された89年4月1日の土曜日。一緒に出勤したらレジがパニックになったよね。

長井:その日の混乱をリアルに見ているからね。消費税3%。あのとき、1円を用意するのが大変でね。慣れてないからレジが遅くて行列できちゃって。

――この本はそういう時代感を思い出すんだ。

長井:あの喫茶店のバイトから始まってる気がするよ。

――長井はその頃からコレクターだったよね。

長井:それは変わってない。

――エピソードとしては、友達と皆で河口湖に旅行に行ったことがあって。車で。帰りが渋谷解散だったの。それで、渋谷の公園通りにあったハンターに行って、旅行帰りなのにたくさんレコード買って(笑)。

長井:あのときLPを10枚ぐらい買ったんだ。どこに行ってきたんだよって話で(笑)。

――渋谷のハンターって意味不明の飲み物の自動販売機があったよね(笑)。あれ、86年のことなんだけど。あと、二人で吉祥寺に行ったとき、ちょうどレコードからCDに切り替わる時期で、YOU&Iが閉店セールやっていて、レコードが投げ売り状態でね。

長井:あった。一枚100円。

――そこでもまた買いまくって。そういう思い出が尽きない。当時ってまだディスクユニオンってあまり意識なかったよね。

長井:全然。ハンターかレコファンだった。ユニオンは洋楽が好きな人が行くレコード屋ってイメージがあったからね。ユニオンは昭和歌謡館ができた辺りから頻繁に通うようになって、レコード収集が再演した感じだった。

――それからの8cmCD収集と。

長井:まさかこんなにはまると思ってなかったんだけど。

――8cmCDのピークはたった10年だけど、リリース数は半端ないよね。

長井:それも把握している人がいなくて。あの時代、ピークは年間にアルバム含めて数万タイトル出ていたらしくて。誰もその全貌を把握できてないっていうところも8cmCDの魅力のひとつ。だから今もう女性アーティストのものしか買ってないんだけど、探していると見たことないようなものたくさんあるよ。

――小室哲哉のプロデュー作品はすべてがヒットしている印象だけど、そうでもないよね。

長井:結構あるよ。アルバムからシングルカットされてるものはプレス数が少ないから見かけることが少ないしね。CDシングルは2000年に入ると8cmから12cmのマキシングルになって、そのとたんヒット曲が少なくなる。

――シングルとアルバムの差別化ができなくなってくるでしょ。

長井:iPodが出てきたのが大きかったと思う。2003年ぐらいだったかな。自分もすぐにiPodに移行しちゃったから。

――で、コピーコントロールCD問題。

長井:そうそう。で、2004年にミリオンがなくなっちゃうのね。その年、平井堅「瞳を閉じて」が80万ぐらいで1位を獲ったんだけど、そこでひとつの時代が終わったなと思っていて。それで、2010年にHMV渋谷が閉店したでしょ。古巣ゆえに寂しかったな。2000年代はもうCDが売れなくなっていたから、厳しかったんだろうなと思っていたけど。

――CDって2007年ぐらいから急に売れなくなった印象があるね。

長井:自分は2006年にHMVを辞めてフリーになったんだけど、リーマンショックの影響で、翻弄された感はあるね。苦労したっていうか、辛い日々を送りました。5年ぐらい。

――おれも2007年にオリコンを辞めていて。

長井:同じ境遇を味わっているよね。

90年代カルチャーを残しておきたい

ロフト9が平日お昼に営業している「Cafe9」にて

――喫茶店のバイト時代から運命共同体的な(笑)。でもこうやって話を聞いていると、8㎝CDの推移=ヒストリー・オブ・長井90’sだね。

長井:それは別に意図したものじゃなくて、たまたまそうなっちゃったっていうか。繰り返しになるけど、8㎝CD=90年代というのが本当におもしろくて。たまたまなんだけどね。この本はその時代のヒット曲を僕も含めたリアルタイム経験者が真剣に原稿を書いているところが面白いと思うんだ。1曲400字。ウィキペディアで読む必要はないくらい充実した資料にもなっているのでぜひ読んでほしいです。

――読み応えありました。今後も8㎝CD再評価は続くのかな。長井の活躍の場も増えそうだけど。

長井:今は昭和レトロが人気で、昭和は語られるけど、90年代カルチャーってまだあまり語られていないから、残しておきたいなっていう気持ちがあった。今後は昭和レトロが落ち着いて平成がレトロの時代になるんじゃないかな。でもこれからは、自分より下の世代に平成を再評価してほしいなって思う。平成は彼らの時代だから。リアルタイム世代じゃないとわからない文化があるからね。そういう彼らをサポートしていきたいなって思う。

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. セントシティにサンリオキャラクター登場 <シナモロールやクロミのステージショー&写真撮影会>開催【北九州市小倉北区】

    北九州ノコト
  2. 自然に若く見える!大人女子必見のショートヘア〜2025年春〜

    4MEEE
  3. 【菜の花、まだ普通にゆでてるの?】「こっちの食感の方が好き」「栄養も旨味もたっぷり」フライパンひとつで作れる副菜レシピ

    BuzzFeed Japan
  4. 【豆腐でご飯が100杯はイケる】「子供が全部食べた」「コスパもボリュームも文句なし」フライパンひとつで作れる節約おかずレシピ

    BuzzFeed Japan
  5. 住宅の庭から災、枯草火災を消した3人に四日市の南消防署が感謝状

    YOUよっかいち
  6. 新社会人は「仕事」と「私生活」二刀流でワークライフバランス重視 第一三共ヘルスケア調査

    J-CAST会社ウォッチ
  7. 【香ばしさが食欲を刺激!】ブロッコリーと鶏肉の組み合わせ想像以上にハマる♪ 一度食べたらリピート確定の絶品レシピとは?

    BuzzFeed Japan
  8. 餃子の皮は使わない!ジューシーでシャキシャキ食感も楽しめる“意外な餃子の作り方”

    saita
  9. かわいさMAX! 日暮里駅で“招き猫もなか”を発見『錦糸町 白樺』 ~黒猫スイーツ散歩手土産編~

    さんたつ by 散歩の達人
  10. スマホから目を離して見えたのは……小田急・JR横浜の車両に桜 『どんな未来へ、伸びていくんだろう』素敵な言葉で新生活者を後押し

    鉄道チャンネル