極上のワインと夜景に拍手!福岡を代表する名ソムリエの新たな舞台
ここはニューヨークのマンハッタン?
はたまた、シンガポールのマリーナベイサンズ?
およそ日本とは思えないような海辺の夜景を前にして、思わず仰け反りそうになりました。さらに驚くことに、カウンターでワインをサーブしているのは福岡を代表する名ソムリエではありませんか。こんなワインバーが福岡にあったなんて――!
福岡市の中心地から車で20分ほど、やって来たのは閑静な住宅街・東区香住ヶ丘。博多湾に浮かぶアイランドシティを一望する海岸沿いに、件の店「天使の拍手」はあります。こちらは2020年12月に開業して以来、金・土曜のみ営業していた紹介制のワインバーなのですが、この度、正式にソムリエを迎え入れたことで遂に本格始動。8月8日より紹介がなくても入店できる通常営業がスタートし、平日も週末もゆったりとワインを楽しめるようになりました。とはいえ、席に限りがあるため、事前に電話確認または予約をして出かけてくださいね。
店舗の建築と空間デザインは、警固の「ORTO CAFÉ」や小倉の「江戸前鮨 二鶴」などを手掛ける福岡の設計・デザイン会社「PLANNING ES」が担当。オーセンティックバーや会員制のサロンを思わせる、シックで上質な空間が広がっています。アフリカ産マホガニーの一枚板に職人の意匠を施した艶やかなカウンター、座り心地の良いアームチェア、そして何と言っても、夜景を美しく切り取るピクチャーウインドウが見事。陽が沈み深みを増す空、雲や月の動き、ゆらめく水面に行き交う飛行機まで、つい時間を忘れて見惚れてしまいます。
そして、笑顔で迎えてくれたのは8月から「天使の拍手」の店主としてカウンターに立つシニアソムリエの黒木昭博さん。黒木さんといえば、老舗「レストラン 花の木」(以下、花の木)で長らくシェフソムリエ、支配人として活躍し、過去には日本ソムリエ協会の九州地区・支部長を務めるなど、福岡のグルマンであれば知らぬ者はいない名ソムリエ。UMAGAでは、“From SNSの”記事「シニアソムリエのラーメンテイスティング」でもお馴染みですね。
大学生時代の4年間、「花の木」でのアルバイトをきっかけにソムリエを目指すようになったという黒木さん。卒業後、別業種の企業に就職するも夢を諦めきれず、退職して「ロイヤル」へ入社し「花の木」に配属、1995年25歳でソムリエ資格を取得しました。1998年には「第2回全日本最優秀ソムリエコンクール」のファイナリストに、2002年には「第1回ポメリー・キュヴェ・ルイーズ・ソムリエ・コンテスト」で準優勝を獲得。そして、2004年から2005年の約1年半はヨーロッパに渡り、イタリアのレストランやフランス・ボルドーの二つ星「シャトー・コルディアン・バージュ」にて研鑽。帰国後の2006年から「花の木」支配人を務め、2022年にその職位を後継に譲り、シェフ・ソムリエとしてサービスやスタッフの育成に携わっていました。
「花の木」といえば黒木さん、黒木さんといえば「花の木」。そう言われるほど、35年に渡り老舗の看板を支えてきた黒木さんですが、54歳を迎えた今年、転機は訪れます。2024年6月に「花の木」を卒業し、ワインバーの店主に就く決意をしたのでした。
「家庭の事情もありましたが、何より60歳を前に新しいチャレンジをしたいと考えたんです。『花の木』というブランドを離れ、“ソムリエ黒木”としてどれだけの仕事ができるか、挑戦しようと決めました。『天使の拍手』のオーナーとは旧知の仲で、ワインバーを作りたいと構想している頃から色々と相談に乗っていて。開店当時からこの素晴らしいロケーションや空間に心を奪われ、“いつかこのカウンターに立てたら”と密かに思っていたのですが、こうしてタイミング良くご縁をいただくことができました。バーのカウンターに立つのは人生初めての経験で、ワインの選び方からサービスのリズムもこれまでとは全く違います。レストランソムリエの役割をバンドで例えるならギターで、ベースとドラムがサービスと料理人。しかし、これからはソロシンガーとして舞台に立つようなものです。自分の色を出しながら、いかにお客様に喜んでいただけるかの勝負で、それが楽しみでもありますね。中心部に比べてアクセスが良いとはいえない場所だからこそ、挑戦のしがいがあると感じています」。黒木さんはそう話し、真っ直ぐな瞳をワインに向けました。
グラスメニューはシャンパーニュ(1980円〜)、赤白ワイン各2種(1430円〜)、デザートワイン(2200円〜)を揃え、ボトルワイン(8800円〜)は300本ほどを取り揃えています。料理はありませんが、チーズや生ハムといったワインのアテも少しだけ用意されていますよ。
「天使の拍手」は元々シャンパーニュとブルゴーニュルージュ(ピノ系)をメインにしたワインバーだったので、リストには貴重なボトルがズラリ。シャンパーニュのビッグ・ヴィンテージである2008年や2012年の「ボランジェ」ラ・グラン・ダネシリーズや、現在入手困難な「アルマン・ルソー」のグラン・クリュなど、ワインラバー垂涎の一本が揃っています。「わざわざこの場所まで来てくださるのだから、お客様には訪れる価値や喜びを感じてほしい」との思いから、ボトルワインの価格が通常より抑えられているのも魅力です。
「宝物を探すような気持ちでお越しいただけると嬉しいです。それに、これからはシャンパーニュやブルゴーニュ以外の魅力的なワインも増やしていきますよ。ドイツやカリフォルニアなど、年々進化している産地のワインをこれまでの経験を活かしながら選び、新しいワインの世界をご紹介していけたらと思います」と黒木さん。また、レストラン時代は「サービスの邪魔になるから」と遠慮していた方も、ここなら黒木さんとたっぷりワイン談義を楽しめますよ。
グラスにシャンパーニュを注いでいただくと、“天使の拍手”とも呼ばれているパチパチとした泡の音色が耳に心地良く響きました。シャンパーニュ地方では、湧き上がる泡は幸せの象徴とされているそうです。極上のワインと夜景、そして名ソムリエが揃えば、今宵の幸せは約束されたようなもの。行かない手はありませんね。
天使の拍手
福岡市東区香住ヶ丘6-39-22
092-692-4414 (訪問前に要電話)