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介護施設における虐待の実態と対策、通報の重要性を解説

「みんなの介護」ニュース

藤野 雅一

介護施設における高齢者虐待の現状と課題

介護施設での虐待件数の推移

厚生労働省の調査結果によると、2023年度の介護施設における高齢者虐待の判断件数は1,123件で、前年度と比べて267件(31.2%)増加しています。また、市町村への相談・通報件数も3,441件と、前年度から646件(23.1%)増加しており、深刻な社会問題となっています。

この増加傾向は一時的なものではなく、過去5年間で見ても継続的な上昇が確認されています。特に相談・通報件数に占める虐待判断件数の割合は年々増加傾向にあり、2023年度では32.6%となっています。

虐待が発生した施設の種別を見ると、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)が352件(31.3%)と最も多く、次いで有料老人ホームが315件(28.0%)、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)が156件(13.9%)となっています。

特に注目すべき点として、2023年度の虐待判断件数1,123件のうち、過去に何らかの指導等を受けていた施設が296件(26.4%)存在し、そのうち215件(19.1%)では過去にも虐待事例が発生していたことが明らかになっています。この数字は、一度虐待が発生した施設での再発防止策の重要性を示しています。

虐待の種類と内容

介護施設での虐待は、大きく5つの種類に分類されます。2023年度の統計によると、養介護施設従事者等による被虐待高齢者として特定された2,335人のうち、以下のような割合で虐待が確認されています。

身体的虐待:1,198人(51.3%) 心理的虐待:568人(24.3%) 介護等放棄:521人(22.3%) 性的虐待:63人(2.7%) 経済的虐待:425人(18.2%)

被虐待者の基本属性を見ると、性別では「女性」が1,673人(71.6%)を占めており、男性の約2.5倍です。年齢層では90~94歳が512人(21.9%)、85~89歳が497人(21.3%)と、85歳以上の後期高齢者が多くを占めています。

要介護度で見ると、要介護度3以上の者が1,628人(69.7%)を占めており、重度の介護を必要とする高齢者が虐待のリスクが高い状況にあることが分かります。また、認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ以上の者が1,705人と、被虐待高齢者全体の73.0%を占めています。

このような状況から、特に重度の要介護状態にある高齢者や認知症の方々への支援体制の強化、そして定期的な状態確認の仕組みづくりが急務であると言えます。

虐待が発生する要因分析

本調査によると、介護施設での虐待発生要因は「虐待を行った職員の課題」区分に含まれる項目が上位を占めています。具体的な要因と割合は以下の通りです。

職員の虐待や権利擁護、身体拘束に関する知識・意識の不足:867件(77.2%) 職員のストレス・感情コントロール:763件(67.9%) 職員の倫理観・理念の欠如:750件(66.8%) 職員の性格や資質の問題:749件(66.7%) 職員の高齢者介護や認知症ケア等に関する知識・技術不足:714件(63.6%)

この調査結果から注目すべき点として、虐待を行った養介護施設従事者等(虐待者)の属性分析があります。2023年度に特定された虐待者1,351人のうち、年齢構成は「40~49歳」が206人(15.2%)、「60歳以上」が205人(15.2%)、「50~59歳」が204人(15.1%)と、比較的均等に分布しています。

特に重要な発見として、虐待者の性別分布が挙げられます。「男性」が736人(54.5%)、「女性」が601人(44.5%)となっており、介護従事者全体(介護労働実態調査)に占める男性の割合が23.0%であることを踏まえると、虐待者は相対的に男性の割合が高いことが分かります。

職種別では「介護職」が1,119人(82.8%)と圧倒的多数を占めており、現場での直接的なケアに従事する職員への支援や教育の重要性が浮き彫りとなっています。これらの数字は、介護現場における人材育成や職場環境の改善の必要性を強く示唆しているでしょう。

介護施設における虐待防止対策の現状と課題

施設での虐待防止体制の整備状況

虐待の事実が認められた1,123件の施設・事業所における虐待防止に関する取り組み状況を見ると、以下のような実施率となっています。

職員に対する虐待防止に関する研修の実施:843件(75.1%) 虐待防止委員会の設置:725件(64.6%) 虐待防止に関する指針の整備:607件(54.1%)

しかし、これらの予防的取り組みが実施されていたにもかかわらず虐待が発生している現状は、形式的な体制整備に留まっている可能性を示唆しています。

注目すべき点として、被虐待高齢者のうち「身体拘束あり」とされた事例が598人(25.6%)存在しています。この数字は、虐待防止の取り組みが行われている一方で、不適切なケアが依然として続いている実態を示しています。

施設種別ごとの虐待発生率を見ると、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、グループホームの順で多く、これらの施設種別の特性に応じた予防策の必要性が浮き彫りとなっています。

行政による指導・監督の状況

全国1,741市町村及び47都道府県における高齢者虐待防止対応のための体制整備状況について、以下のような実態が明らかになっています。

市町村レベルでの取り組みでは、「養護者による高齢者虐待の対応の窓口となる部局の住民への周知」が1,495市町村(85.9%)で実施されており、基本的な体制整備は進んでいます。

しかし、より具体的な支援体制については課題が残されています。

例えば、介護保険サービス事業者等からなる「保健医療福祉サービス介入支援ネットワーク」の構築は926市町村(53.2%)、行政機関や法律関係者、医療機関等からなる「関係専門機関介入支援ネットワーク」の構築は920市町村(52.8%)と、いずれも半数程度にとどまっています。

また、「高齢者虐待対応・養護者支援が円滑にできるよう保健所、精神保健福祉センター、発達障害者支援センター等の関係機関との連携強化」の実施率も1,013市町村(58.2%)と6割に満たない状況です。

都道府県レベルでの取り組みについては、「養介護施設・事業所の事故報告や苦情相談、指導内容等の庁内関係部署間での共有」が47都道府県で実施されており、情報共有体制は整備されています。

しかし、「養介護施設従事者等による高齢者虐待に関して、サービス利用者や家族、地域住民等への周知・啓発」は23都道府県と半数程度にとどまっており、予防的な取り組みには課題が残されています。

効果的な虐待防止策の提案

虐待防止に向けた取り組みを効果的に進めるためには、施設の実態に即した具体的な対策が必要です。虐待の発生要因を確認してみましょう。

まず、職員教育の質的向上が急務となっています。現状では職員への研修実施率は75.1%と比較的高いものの、依然として「職員の虐待や権利擁護、身体拘束に関する知識・意識の不足」が虐待の最大の要因(77.2%)となっています。これは、単なる研修実施だけでなく、その内容や方法の見直しが必要であることを示唆しています。

次に、職員のメンタルヘルスケアの充実が重要です。虐待要因の67.9%を占める「職員のストレス・感情コントロール」の問題に対しては、以下のような具体的な対策が考えられます。

定期的なストレスチェックの実施と結果に基づく個別面談 心理カウンセラーによる相談体制の整備 職場内での気軽な相談や情報共有の場の設定

さらに、施設全体での組織的な取り組みの強化も必要です。「虐待防止委員会の設置」(64.6%)や「虐待防止に関する指針の整備」(54.1%)の実施率は、まだ改善の余地があります。委員会を単なる形式的な会議体とせず、現場の課題を積極的に吸い上げ、具体的な改善策を講じる実効性のある組織とすることが求められています。

介護施設虐待の早期発見と適切な通報の重要性

虐待の兆候と発見のポイント

介護施設での虐待を早期に発見するためには、利用者の家族や施設職員が日常的な観察の中で変化に気づくことが重要です。調査結果によると、虐待を受けた高齢者の特徴として以下の点が明らかになっています。

施設種別による虐待の特徴を見ると、介護保険施設では全体に比して被虐待高齢者において身体的虐待、心理的虐待の割合が高く、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)では心理的虐待が含まれる割合が高い傾向にあります。また、その他の入所系施設では介護等放棄、経済的虐待が含まれる割合が高くなっています。

このような状況を踏まえ、特に注意すべき虐待の兆候として以下のような点が挙げられます。

説明のつかない傷やあざ 急激な体重の減少 脱水症状や栄養不良の兆候 不自然な身体拘束の跡 特定の職員の前での萎縮 表情の硬化や活気の低下 不安や怯えの様子 介護拒否の突然の出現 身体的な兆候 心理的・行動的な兆候

これらの兆候は単独で、あるいは複数組み合わさって現れることがあり、早期発見のためには家族や職員による日常的な観察と記録の積み重ねが不可欠です。

通報者の内訳と通報のハードル

同調査によると、養介護施設従事者等による高齢者虐待の相談・通報者3,917人の内訳は以下のようになっています。

「当該施設職員」が1,125人(28.7%)で最も多く、次いで「当該施設管理者等」が654人(16.7%)となっています。この数字は、施設内部からの通報が全体の45%以上を占めていることを示しています。

しかし、施設内部からの通報にはさまざまなハードルが存在していることが指摘されています。多くの職員は職場内での人間関係への影響や、通報後の不利益取扱いへの不安を抱えています。

また、日常的なケアの中で何が虐待に該当するのかの判断に迷うケースも多く、明確な基準がないことで通報を躊躇するケースも報告されています。さらに、具体的な通報窓口や方法についての知識が不足していることや、通報後の対応への不信感も、通報を妨げる要因となっています。

都道府県レベルでの取り組みを見ると、「市町村担当者のための養介護施設従事者等による高齢者虐待対応研修等の開催」は41都道府県(87.2%)で実施されているものの、「養介護施設従事者等による高齢者虐待に関して、サービス利用者や家族、地域住民等への周知・啓発」は23都道府県と半数程度にとどまっています。

この状況は、虐待の早期発見や通報促進に向けた取り組みにまだ改善の余地があることを示唆しているでしょう。

適切な通報の方法と通報者保護

高齢者虐待を発見した際の通報先は、各市町村の高齢者虐待に関する窓口が基本となります。

通報時に伝えるべき情報としては、虐待を受けていると思われる高齢者の氏名・年齢・住所、虐待の種類や頻度、虐待が行われている施設名などが重要です。なお、通報の際は、可能な限り具体的な事実を時系列で整理しておくことが、その後の調査をスムーズにする上で有効です。

虐待の事実が認められた場合、市町村等において施設等への指導、改善計画の提出のほか、法の規定に基づく改善勧告や指定効力の停止等の対応が取られることになります。

なお、これらの通報や相談を行った人の情報は守秘義務によって保護されます。市町村は、通報等をした人の秘密を守るため、関係者に対しても情報管理を徹底するよう指導しています。

また、同調査では、相談・通報件数41,747件のうち、市町村が事実確認を行った事例が39,283件(94.1%)となっています。この高い確認率は、通報が適切に処理され、必要な調査が行われているといえるでしょう。

具体的な調査方法としては、「訪問調査」が25,147件(60.2%)、「関係者からの情報収集」が13,991件(33.5%)となっており、状況に応じて適切な確認方法が選択されています。

このような体制整備により、通報者が安心して情報提供できる環境づくりが進められています。介護施設における虐待の撲滅には、行政、施設、利用者家族、地域社会が一体となった取り組みが不可欠であり、誰もが安心して通報できる体制の一層の充実が期待されています。

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