「ほかの子と違う」「落ち着きがない」保育園からも指摘が。習い事に読み聞かせ…試行錯誤した結果
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
好奇心旺盛?先生から注意されることが増えてきた年中時代
コチ丸が保育園の頃、私は遠方の会社にフルタイムで勤務していました。コチ丸は保育園の預かり時間を目一杯に使い、平日は開園から閉園まで保育園にいるという“保育園の主”のような生活を送っていました。そういう事情もあり、保育園の先生方にもコチ丸のことは日頃からよく見ていただいていました。
コチ丸が年中になる頃、先生とやりとりする保育園の連絡帳には「⚪︎⚪︎が気になったのか、触ろうとして突然走り出した」とか「お昼寝の時間に一人だけ興奮して眠れなかった」という言葉がちらほら目立つようになってきました。
また、年長に上がる際に行った担任の先生との面談の際には、「少しほかの子に比べて落ち着きがないのかもしれないですね」と言われました。先生なりに気を遣った遠回しな言い方ではありましたが、私も仕事で子どもの発達に関わる仕事をしていたので先生の言いたいことにはピンときました。
たくさんの子ども達を見てきている保育園の先生があえて言うくらいなのだから、コチ丸はやっぱりちょっと発達が気になる子なのかもしれないな……と思いましたが、当時は病院に連れて行くとか療育を始めるという、具体的な方法をとるということはしませんでした。
周りを見ると、コチ丸以外にも手がかかりそうな子はまだたくさんいましたし、どこかで、私があまり一緒にいる時間がないから、こうやって人の気を引こうとしているんじゃないのかな?という自分を責める思いも強かったからです。
オムツはいつはずれるの?生活のなかで「できること」の遅れにも悩まされ……。
保育園の頃の悩みといえば、もう一つ、コチ丸のオムツがなかなかはずれないのも私の悩みの種でした。年中頃になるとオムツがはずれる子も多い中、コチ丸は年長に上がる頃でもまだオムツが必要でした。
保育園に頼りきりで、日頃トイレトレーニングにしっかり付き添えないことが原因かなと考えたり、小学校に入ってもオムツだったらどうしようという焦りも出てきたりしました。
思い切ってパンツに変えてしまえば、漏らした時に気持ちが悪いのが嫌でトイレに行けるようになると聞き、思い切ってパンツに変えてみたのですが、漏らしても気にならないのか、コチ丸には効果がありませんでした。
なんだかんだとそれからもオムツがはずれるまでは苦戦しましたが、年長の秋が終わる頃にはオムツもなんとかはずれました。
落ち着いた性格になるために習い事で情緒を育てられる?いろいろ試した2年間
この頃、落ち着きのないコチ丸も何か習い事を始めれば変わるかもしれない!と思い、いくつか習い事を始めることを検討するようになりました。
私が幼稚園の頃からピアノを習っていたこともあり、「音楽をやれば情緒が安定するかも?」とリトミックを始めたり、「武道をやれば少しは落ち着いて座っていられるようになるかも」と思い、空手を始めたり……。
が。どちらも何回通ってもコチ丸は私の横から離れることはなく……。空手に至っては2ヶ月ほど通って、コチ丸がお稽古に参加したのは1回だけ、それも数分。それ以外はずっと泣き続けるだけという毎週地獄絵図のような状態が続いたので諦めました(笑)。情緒が落ち着く以前に、息子は新しい環境に馴染むのに時間がかかるのだということも発覚しました。
逆に科学館や美術館などで行われるワークショップなど単発のイベントは、コチ丸も集中することができたので、よく参加しました。
運転が苦手な私でしたが、とにかくコチ丸に何か夢中になれるものが見つかれば……という思いからいろいろなところに出かけました。
また、寝る前の絵本の読み聞かせも毎晩欠かさず行っていました。読み聞かせは情緒が安定すると聞き、コチ丸に知識がつけば一石二鳥だなという思いから、小学校の高学年になる頃まで続けた習慣でした。その甲斐あってか、コチ丸は高校進学で家を出るまでたくさんの本を読みました。
今でも何か気になることがあればすぐに調べたり、知識が豊富だったりするのは読み聞かせの賜物かなと思っています。なにより、忙しかった私にとって、寝る前の1時間ほど、コチ丸といろんな本を読むのが一番落ち着く幸せな時間でした。
感受性豊かなコチ丸、ギャン泣きの卒園式
いろいろと落ち着かないところはあったものの、無事に卒園式を迎えることができたコチ丸。私たち親子は、コチ丸の小学校入学を機に、私の実家に戻ることになりました。引っ越すこともあり、先生方やお友達とはこれで一旦お別れ。
まだ幼いコチ丸がその別れの意味をちゃんと理解できていたのかは分かりませんが、卒園式では誰よりもギャン泣きしていました。顔を真っ赤にして大粒の涙をポロポロ流している写真を見ると、今でもあの日のことをリアルに思い出せます(笑)。
当時は、なんでこんなに泣くのかと呆れるほどでしたが……今思うと感受性が豊かというか、人目を気にするという感覚も少ない幼少期は、感情の昂りが制御されることなくしっかり出てしまったのかもしれません。
高校生となった今でも、私のスマートフォンへセンチメンタルなメッセージを唐突に送ってくるコチ丸(←きっと自覚なし)。とはいえ、今は人並みに気持ちの制御ができ、冷静に自分と向き合えているのかなと思います。そう思うと、なんでも気づけばちょっとずつ、のんびりではあるけれど成長しているのかもしれません。
ちなみに、コチ丸のじっとしていない感じはいつまで続くのかと不安になった時期もありましたが、中学に入った頃にはすっかり落ち着き、今となっては悩まされていたのが嘘のように穏やかな性格をしています。なんなら私のほうが慌ただしいのをコチ丸からたしなめられるくらいです……(汗)。
執筆/あき
(監修:室伏先生より)
あきさん、保育園の頃のコチ丸くんのご様子を共有くださり、ありがとうございました。フルタイム勤務をされながら、習い事を試してみたり、じっくりと読み聞かせをする時間をつくられたり、コチ丸くんと向き合ってこられたのですね。現在のご様子も共有いただいたことで、発達障害のあるお子さんを育てられている親御さんにとって、この記事がとても心強く感じられたのではないかと思います。ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)のお子さんに、いつまでこんな状態が続くのだろうか、と将来への強い不安を感じられる親御さんも少なくないと思います。しかし、子どもは大きく成長します。ASD(自閉スペクトラム症)のお子さんで幼児期に周りの人への興味が広がらなくても、年中、年長、学童期と年を経るごとにお友達が大好きになったり、ADHD(注意欠如多動症)のお子さんで、幼児期には落ち着きがなくて親御さんがいつも走って追いかけているような状況でも、学童期になると学校で座って授業を受けていらっしゃったり、と状況は変わっていきます。
一方、以前困っていたことは成長とともに困らなくなったけれど、年齢が上がるにつれて課題が変わってくることもあります。とはいえ、同じ診断を受けていても、知的能力や性格、得意なこと、苦手なことはその子によって異なります。経過もそれぞれで予想が難しいことも多いので、見通しが立たないことで不安が募ってしまいますよね。将来を見通すことは難しいことかもしれませんが、このような経験談を共有していただくことで、ほかの親御さんの不安や焦りが少しでも軽減されることを願います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。