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転勤妻のキャリア戦略を専門家に聞く。ブランクがあっても「その期間何をするか」が大事

りっすん

夫の転勤に帯同し、各地を転々とする「転勤妻(転妻)」。働き方の多様化や共働き世帯の増加などで転勤制度自体が見直されたり、抵抗感を覚える方が増えている一方、いまだ46.2%の企業において転勤制度が現存しており(従業員500人以上の企業では77.7%)、妻が仕事を辞めるケースは年間2万件といわれています(※1)。

今回お話を伺ったキャリアコンサルタントの鈴木祐美子さんも、かつて「転勤妻」となり、仕事を辞めた経験があります。「結婚したばかりだし」「子どもがまだ小さいし」などの理由で夫の赴任先について行かざるを得ない、でも「仕事も続けたい」と考える女性のキャリア戦略とは?

(※1)参考:コラム 見直しが求められる転勤制度(ニッセイ基礎研究所)

見知らぬ土地でアイデンティティーが消失した気分に

鈴木さんが結婚当初、パートナーの転勤に帯同することになった経緯を教えてください。

鈴木祐美子さん(以下、鈴木):私と夫は同じ会社に勤めており婚約したばかりだったのですが、2006年に地方営業を担当していた夫に転勤の辞令が下りました。

これまで築いたキャリアを手離すことに迷いがあったため「夫の転勤先に配属してもらえないか」と上司に相談しましたが、転勤先の支社は立ち上がったばかりで職員数も少なく、「夫婦で勤めることは難しい」という回答で……。

また、私と夫は「子どもを持ちたい」と考えていたこともあり、離れて暮らすことは考えにくく「夫が大黒柱として収入を得て、私が家庭に入って子育てをするのが最適解だろう」と結論づけて、退職を決断したんです。

「働きたい」という気持ちを諦めての帯同だったのですね......。

鈴木:納得した上での帯同ではありましたが、結婚して苗字が変わり、住む場所も変わり、さらにはこれまで築いてきた人脈やキャリアも失ったことで、実際に転勤先での生活が始まると、自分のアイデンティティーを全て失ったような気持ちになりました。

一方で夫は、キャリアを継続しながら、転勤先で新しいプロジェクトにも挑戦できている。「ついこの間まで対等な立場で働いていたはずなのに、私ばかりが多くを失った」と空虚な気持ちになり、悲しくなったことを覚えています。

お子さんを出産してからは、約7年間の専業主婦期間を過ごし、その間も何度か転勤されたそうですね。どのように現在のキャリアに復帰したのでしょうか。

鈴木:2011年に夫が東京の本社に戻ることになったため、再就職のため専門学校に通い「キャリア・ディベロップメント・アドバイザー(CDA)」の資格を取得しました。その後、幸運にも専門学校のクラスメイトからオンラインカウンセリングの仕事を紹介してもらえたので、すぐに経験を積むことができました。

今はある会社で人事を担当していますが、正社員として働くことが私の1つの目標でもあったので、ようやく思い描いていたキャリアにたどり着けたと感じています。

「解像度の高い自己PR」を準備。転勤妻のキャリア戦略

鈴木さんの経験から、転勤妻が長期的なキャリアを築くことの難しさはどのようなところにあると思いますか?

鈴木:「パートナーがいつ、どこに転勤になるか分からない」という不安が、転勤妻のキャリア設計を難しくさせると感じています。パートナーの転勤先で仕事を探そうとしても、「いつか引っ越すことになるかも」と考えると、正規雇用から足が遠のいてしまう人も少なくないはずです。

さらに、転勤先が地方だった場合は、求人数の少なさもネックになってくるのではないでしょうか。

そんな状況の中で、転勤妻が長期的なキャリアを築くために必要なことを教えてください。

鈴木:まずは「人脈を絶たないこと」です。私が専門学校のクラスメイトから仕事を紹介してもらったように、周囲の知人や友人が、何らかのビジネスチャンスを持っている場合があります。ビジネスには関係ないと思える人脈でも、次につながる有益な情報を持っている可能性があるので、人間関係を大切にしてほしいと思っています。

それから、自分のキャリアに興味を持ち「解像度の高い自己PR」をできるように準備しておくことも大切です。

これまでのキャリアについて、具体的に説明できるようにしておくということでしょうか。

鈴木:そうです。キャリアの棚卸しをするように、具体的な業務内容を振り返り「自分ができること(CAN)」を明確にしておくことが重要です。

例えば、経理の仕事をしていたのなら「月次決算と年次決算を任されていた」、営業なら「IT企業の顧客に対して、法人営業を担当していた」など、具体的に業務内容を言語化しましょう。年間売り上げ目標と達成率、営業成績の社内順位など、数字に落とし込めるとより良いですね。

中には「自分にはアピールできるような専門性やスキルが何もない」と思ってしまう人もいるのではないでしょうか。

鈴木:専門的な知識や経験がなくても、仕事に対する「強み」は必ずあると思うので、そこに焦点を当ててみてください。

例えば、小売業の販売員の方なら、「売れる商品が目立つように陳列方法を変えた」といった分析力や「お客さまの希望に沿った商品を勧められた」といったコミュニケーション能力など、「売る」に関連した何かしらのスキルを発揮しているはずです。在職中のエピソードの中から自分の強みを発見し、それを自己PRに繋げてみてはいかがでしょうか。

このような実績の振り返りは、退職して日がたつほど記憶が薄れて曖昧になってしまいます。退職前から書き残しておくことがおすすめですよ。

「自分に足りない要素」を埋めるコツは、正規雇用にこだわり過ぎないこと

「自分にできること=CAN」を明確にした後のステップとして、やるべきことは何でしょうか?

鈴木:経済や雇用についての「情報をキャッチアップすること」です。業種のトレンドや働き方、求められる知識・経験は、ものすごいスピードで変化していくため、専業主婦になる前に持っていたスキルはあっという間に陳腐化してしまいます。

仕事から離れている間も新聞やビジネス誌などから情報を得ることができれば、「今の自分には何が足りていないか」が見えてきます。そうすれば、「将来やりたい仕事(WILL)」に向けて、具体的に行動しやすくなると思います。

「CAN」と「WILL」の間にある不足を補っていくイメージですね。

鈴木:そうですね。「知識」が不足しているなら、資格の勉強をするのも良いですし、「経験」が不足しているなら、正規雇用にこだわらず実務経験を積めるパートから始めるのも良いでしょう。

私の場合はCDAの資格を取得した後に、パートでカウンセリングの経験を積みました。正規雇用を望む気持ちもありましたが、7年のブランクを埋めるためには、雇用形態にこだわるよりも「実務経験を積むこと」の方が大事だと思ったからです。

スキルの陳腐化を防ぐ手段として、専業主婦期間に取っておくと良い資格はありますか?

鈴木:これまでのキャリアの延長線上にあり、付加価値をつけてくれるような資格が良いと思います。マーケティング系ならウェブ解析士の資格を取ることでより専門性が高まりますし、事務系ならマイクロソフトオフィススペシャリスト(MOS)の資格を取れば、「基本的なPC操作ができる」という証明になるはずです。

育児などの理由で、転勤妻がキャリアチェンジを望む場合におすすめの職種はありますか?

鈴木:保育園や介護福祉施設、小売店などの「エッセンシャルワーク」なら、自宅から近い職場を選びやすく、勤務時間が細かく区分されている所が多いので、「まずはパートから実務経験を積みたい」という人におすすめです。近年、エッセンシャルワークは人手不足となっているため、未経験でもチャレンジしやすい職種だと思います。

他にも、Webマーケティングやセールス(インサイド・カスタマーサクセスなど)といったパソコンを使う仕事はリモートワーク可能なことが多いので、子育てをしながらや、違う土地に転勤することになっても続けやすいと思います。

ただ実際にどこまでリモートワークが許容されているかは会社や職種によって異なるため、面接などの際に人事や先輩社員に確認する方が良いでしょう。

小さな行動でも“働く意欲”は伝わるはず。まずは一歩を踏み出してみて

夫婦の片方が転勤のある仕事に就いている場合、両者の今後のキャリアを考えるにあたって夫婦でどのようなコミュニケーションを取ればいいでしょうか?

鈴木:「自身のキャリアを断絶させたくない」と考えているのなら、まずはパートナーにその意思をきちんと伝えることが大切だと思います。また、辞令が下りた場合には「家族で帯同するのか」「帯同する場合は子どもを預けられそうな場所はあるか、費用はどのくらいかかるのか」など、細かくシミュレーションをして、状況ごとにどのような協力体制を築けるかを話し合ってみてください。

夫婦の話し合いが大切ということですね。帯同をきっかけに「今後、自身のキャリアを築いていけないのではないか」と不安を感じている方に、メッセージをいただけますか。

鈴木:たとえ帯同により数年ブランクができたとしても、「その期間をどう過ごしたか」が重要だと思っています。「0のままでいるよりは、0.1でもいいから動いた方がマシ」くらいの軽い気持ちで、動き出してみてください。

「隙間時間に資格の勉強をしてみる」「近くのスーパーで1時間だけ働く」でも良いでしょう。「この1冊は勉強し終えた」「自分の力で1000円稼いだ」という事実が、さらなる意欲につながると思います。小さくても何かアクションを取り続けていれば、いざ再就職活動を始めた時に「この人は働く意欲をずっと持っていた人なんだ」と採用側も少なからず感じてくれるはず。

小さな一歩だとしても、前に進んだからこそ見える景色がありますし、動いた人にしか掴めない気づきとチャンスが待ってくれていると思いますよ。


取材・文:佐藤有香編集:はてな編集部

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