『ルパン三世』は限界や垣根を越えていく――『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』ルパン三世役・栗田貫一さんインタビュー
『ルパン三世』約30年ぶりとなる2Dアニメ劇場版『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』が、2025年6月27日(金)より全国ロードショー!
世界地図に存在しない“謎の島”を目指し、バミューダ海域へ向かうルパン一味。目的は彼らに刺客を送り続けてきた黒幕の正体と、隠された莫大な財宝を暴き出すこと。しかしその島に待ち受けていたのは、人間にも似た不思議な生物と彼らを率いる不死身の男・ムオム。更に霧に覆われたその島は死をもたらす毒が充満し、脱出までのタイムリミットは24時間――。果たしてルパンたちは黒幕を暴き、生きて島を脱出できるのでしょうか?
『LUPIN THE IIIRD』シリーズの小池健監督に加え、主題歌にはB’zさんの「The IIIRD Eye」、片岡愛之助さん、森川葵さん、お笑いコンビの空気階段さんらがゲスト声優を務めるなど、劇場版に相応しい豪華な作品となっています。
アニメイトタイムズでは、ルパン三世役・栗田貫一さんに、これまでの30年を振り返っていただきつつ、劇場版の魅力や前日譚『LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン』の注目ポイントなどについて語っていただきました。
【写真】『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』栗田貫一インタビュー
30年の中で「ルパンも変化してもいい」と思えた
ーー今年は『ルパン三世』約30年ぶりの2D劇場版アニメーションが公開されるとともに、栗田さんが初めてルパン三世を演じてから(1995年『ルパン三世 くたばれ!ノストラダムス』)30年目になります。
ルパン三世役・栗田貫一さん(以下、栗田):ご存知の通り、最初は山田康雄さんのモノマネをしていただけでした。それなのに突然「山田さんの代わりにルパンを演じてほしい」と言われて、「できるはずない!」と。僕の中では「作品を壊してしまった」と思うくらい、何もできなかったんです。山田さんがどんな風にアフレコしていたのかも見たことがなかったので、今思えば無理もないですよね。スタジオに立って、キューが出ても何をどうすればいいのか……見当もつかないところから始まりました。
その1年後にもう1本(1996年『ルパン三世 DEAD OR ALIVE』)を収録して。そんなことが毎年1回ずつある感じでした。当時はものまねの仕事がメインでしたから、普段は瀬川瑛子さんや五木ひろしさんをやって、1年の中の2日間だけ山田康雄さんをやるような生活でしたね。上手くなりようもないし、どうしたら良いのかもわからないまま、山田さんを介してルパンをやっていたような感覚でした。
そこから山ちゃん(山寺宏一さん)や大ちゃん(浪川大輔さん)、沢城みゆきちゃん、明夫ちゃん(大塚明夫さん)が入ってきて、ようやく「ルパン三世のお芝居ができるな」と思えるようになったんです。
ーー自分が思い描くルパン三世を演じるまでの30年だったと。
栗田:ルパン三世と言えば、「ルパン三世 PART2」(1977)や『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)の頃に山田さんが構築したお芝居の印象が強いと思います。
自分としてもマネしなければいけないテイストですし、その頃の山田さんが発していたルパンの声を絶対に忘れてはいけない。ただ、作品ごとにテイストも変わっていくので、ベースは守りつつも「変化はしていい」と思えるようになりました。
例えば峰不二子にも、増山江威子さんが演じたグラマラスでセクシーな不二子、沢城みゆきちゃん演じるシャープでクールな不二子がいます。
山ちゃんも銭形、明夫ちゃんも次元になっているし、みんなが加わってくれたことで、僕自身も「少しずつ変化していいんだ」と楽になれたんです。僕も含めて、それぞれ初代の方々から教わった訳ではないですし、完璧にマネしようにもできないですから。
ーーこの30年に制作された作品の中でも、2012年に放送された『LUPIN the Third ~峰不二子という女~』は特に印象的でした。
栗田:山本沙代監督には「山田さんに寄せないでほしい。“悪いルパン”を演じてほしい」と言われました。「こういうルパンもあるんだな」と思いながら演じていた記憶があります。
ーーアダルトな『ルパン三世』が描かれましたね。その流れを受け継いだ小池健監督による『LUPIN THE IIIRD』シリーズの印象についてもお聞かせください。
栗田:振り返ってみると、最初にモンキーさん(モンキー・パンチ先生)が考えた『ルパン三世』を現代に持ってきた作品なのかなと。劇画チックな作風とハードボイルドな音楽で、もしモンキーさんがいらっしゃったら「よくぞ作ってくれた」と小池さんのことを褒めるんじゃないでしょうか。
「不死身の血族」が描く、謎に満ちた不可思議な世界
ーー『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』の収録はいかがでしたか?
栗田:僕が収録した時はまだ絵も完成していないですし、誰の声も入っていない状態でした。ゲストキャラクターの配役も決まっていなくて、小池監督の説明を聞きながら探り探りで収録していたんです。
声から人間性や温度を多少なりとも感じ取ることができますが、掛け合いのシーンも「これで正しいのかな?」と常に半信半疑でした。
ーー今作は地図にない島が舞台でムオムのような人とは思えない生物もいて、今までよりも現実離れしている感じがしました。
栗田:何とも不可思議な世界に迷い込んだものだなと。今回は謎や不可解なことがたくさんありました。ただ、それを上手に繋げて、納得できるものにできるのが小池監督ですから。
ーー片岡愛之助さん、森川葵さんら豪華ゲスト声優の参加も注目ポイントだと思います。
栗田:収録からしばらくして、ムオム役が(片岡)愛之助さんに決まったことを知りました。演じた声も聞かせていただいたんですけど、もし愛之助さんだと明かさなければ誰も気付かないんじゃないでしょうか(笑)。
森川さんが演じたサリファも見た目は少女だけど、子供なのか大人なのかもわからないし、敵なのか味方なのかも分からない。どっちつかずのキャラクターでありながら、何の動揺や揺れもない不思議な存在でした。
ーー愛之助さんがルパン三世役を演じた歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』も観劇されたそうですね。
栗田:「どうやって成立させるのかな」と思っていましたが、愛之助さんらしいルパンを演じつつ、歌舞伎ならではの演出も素晴らしかったです。
ーー愛之助さんにインタビューした際、ルパン一味の皆さんが観劇された回は役者陣も緊張していたとおっしゃっていました。
栗田:花道の横に座っていたんですけど、愛之助さん演じるルパンが「今日は本物がいるらしいぜぇ!」と言っていて、照明まで当てられました(笑)。「勘弁してください!」って感じでしたね。そんな愛之助さんが不気味なムオムを演じ切っていたのはすごかったです。
ーー6月20日より、今作の前日譚にあたる『LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン』も配信中です。
栗田:映像を観た瞬間、『ミッション:インポッシブル』や『007』シリーズのスパイ映画みたいなリアルさを感じました。銭形も格好良いし、(堀内)賢雄さん演じる偽ルパンもミステリアスで、賢雄さんの素敵なお芝居が、銭形をより魅力的に見せるんです。
ーー「不死身の血族」の前に「銭形と2人のルパン」を観ると更に楽しめますよね。
栗田:そうですね。更に言えば、「次元大介の墓標」から観ておいたほうがいいと思います。「不死身の血族」まで、全てが繋がっているし、それぞれのキャラクターもフィーチャーされていて面白いですよ!
『ルパン三世』は限界や垣根を越えていく
ーー『LUPIN THE IIIRD』や『流白浪燦星』はもちろん、日曜劇場『御上先生』では栗田さん演じる人工知能のルパンも登場しました。令和になっても『ルパン三世』という作品は様々な方向に広がり続けています。
栗田:モンキーさんは昔から「皆さん、『ルパン三世』を自由に使ってください」とおっしゃられていたようです。「『ルパン三世』を作りたい」という監督たちに任せて、委ねたからこそ、作品自体も広まったのだと思います。これまでも十人十色、様々な『ルパン三世』が描かれてきました。
2Dだけではなく、CGアニメ(2019年公開『ルパン三世 THE FIRST』)にもなりました『名探偵コナン』や『キャッツ・アイ』とも対決しています。モンキーさんの懐の広さと寛容さがあったからこそ、色々な世界に『ルパン三世』が参上できたんじゃないかなと。TBS系列のドラマに出るのはファンもさすがにビックリしたと思いますけど(笑)。
思えば、山本監督がおどろおどろしい女の世界を描いた『LUPIN the Third ~峰不二子という女~』からこれまでと全く違う『ルパン三世』が作られるようになった気がします。まさに“きっかけ”と言いますか。広がり方もヨコではなくてどんどん深く、果ては深海で深海魚まで食べちゃったみたいな(笑)。そういった限界や垣根を越えていけるのが『ルパン三世』ですし、モンキーさんも喜んでいるのではないかと思います。
ーー最後に、『LUPIN THE IIIRD THE MOIVIE 不死身の血族』を楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
栗田:多分、誰よりも僕が劇場公開を楽しみにしています。
映像が相当こだわったものになっています。あくまで噂ですけど、小池監督は「こんな感じでCGを作ってください」という絵を細かく描かれるようで、「もうこれを使ったほうがいいのでは?」と(笑)。
今回初めて『ルパン三世』を観た人はハードでクールな作品という印象を持つかもしれないし、以前から観ている人は「いつもと違うじゃん!」と思うかもしれません。色々な方に観ていただいて、それぞれの形で楽しんでいただきたいです。
[インタビュー/永井和幸]
栗田貫一さん
【ヘアメイク】
小林潤子
【スタイリスト】
鎌田里美