信念のある生産者さん達の材料を使い、地球に負担をかけないパン作りをする【パン屋塩見】(東京都・渋谷区)
「リジェネラティブ・ベーカリー」シリーズvol.18
『環境再生型農業』を応援するパン作りをしているベーカリーを紹介するシリーズ。
東京都・代々木にある「パン屋塩見」の塩見聡史シェフにお話を聞いてきました。
新宿駅から徒歩10分強の場所に突如現れる、蔦に覆われた趣のある建物。
2021年1月にもパンめぐ記事にお店のオープン間もない頃の外観写真を掲載していたのですが、そのときは木組みが表出していて時間の流れを感じます。
自家製の窯で薪を使ってパンを焼くため店の周りには薪が積みあがっていて、都会のパン屋ではなかなか見られない光景。
店内には小さなイートインスペースもあり、ほっと一息つける空間です。
お店のパンはカンパーニュと食パンの2種類のみという潔さ。
その日のパンの特徴や食べ方が書かれているので、こちらを参考にいつも美味しく食べることができます。
オーガニックの粉にこだわるようになったのは
僕が修業していた富ヶ谷「ルヴァン」では国産小麦を使うことが創業以来のポリシーで、“その土地のものを食べて生活する”という「身土不二」の考え方にも沿っているので日本人が食べるなら日本の小麦がいい、という考えです。
副材料は優先的にオーガニックを使っていました。
自分のお店を開くにあたり、窯作りの勉強に広島県にある「ドリアン」に見学に行った際に日本にもオーガニックの粉を作っているところがあると知り、
『いい材料を使って手数を少なく焼く』ことをしたかったから粉にはこだわろうと思っていました。
今の社会を見ていて、今までみたいに経済優先というかそういうことをしていたら、よく言われることだけれど『地球がヤバい』んじゃないかと感じ、じゃあ、パン屋としてできることはないかと考えてなるべく地球に負担をかけないものでパンを作ることにしたのです。
カンパーニュには、「アグリシステム株式会社」の転換期間中有機小麦ゆめちから、はるきらり、キタノカオリをブレンドした強力粉「オーガニック トイピリカ」を使っています。
実は、アグリシステムという会社について知ってから使い始めたわけではなく、最近よく耳にするなあとか、社長が若いし勢いがあるのかも、などなんとなく良さそうと感じて使ってみました。
北海道の圃場見学をさせてもらい、石臼挽きの製粉工場を見学したり伊藤社長と膝を突き合わせて食事をしたことで、会社自体に確固たる信念があることがわかり、その会社の作るものなら信頼できると思いました。
さらにはアグリさんがもっとやりたいことができるようになるには、いちパン屋としてアグリさんの粉を使い続けることだと思ったのです。
アグリさんの「トイピリカ」の粉袋に書いてある『環境再生型農業』について自分でも調べてみて農薬の問題を知りましたし、勉強会にも参加するようになりました。
粉袋に印刷するって相当訴えたいことなんだろうなと感じられましたね。
元々はオーガニックゆめちからとオーガニックきたほなみを自分でブレンドして全粒粉を混ぜて使っていたけれどもう少し安定するようなオーガニックブレンドってできないでしょうか?と伊藤社長にお伺いしていたので、望んでいた粉でした。
トイピリカにして感じたことは
・水分が入るようになりしっとりとした気がする
・キタノカオリがブレンドされているから甘みがあって味が出るようになった
というところでしょうか。
なるべく地元に近い粉を使いたい
開店前は東久留米の柳久保小麦を使ってみようと試していましたが、希少種のような日常っぽくない品種なのかなと感じ、僕は日常のパン作りとして量を使うから難しいかなあと思っていたところ、
「パーラー江古田」の原田さんが窯作りを見に来てくれた時に「うちでは秋田緑化農園(東久留米市)さんの農林61号を使ってるよ」と教えてくれて使ってみたらよかったんです。
農林61号はルヴァンのときから上野さん(栃木県にある無農薬自然栽培をしている上野長一さん)の粉を使っていたので、僕も上野さんの粉を使うことは決めていました。
自作の石窯について
この形の石窯はだいたいご自身で作られているものと思います。
「ドリアン」の研修生は皆この窯ですね。
僕は作るのに半年かかりました。
赤褐色の「グラ」と呼ばれる炎が噴き出る部分が左右に動かせるので満遍なく窯の中に蓄熱したら「グラ」をてこの原理で取り外し、穴をふさいでからパンを焼いていきます。
カンパーニュ→食パン→ビスケットの順で1日の量をそれぞれ一度に焼いていきます(温度が下がってくるのでその温度に合わせたパンを焼く)。
1日に使う薪の量はこの4箱。週に4日営業なので計16箱使います。
細かく言うと、休み明け最初の1日目は窯が冷えているので温まるのに5箱使い、最後の日は蓄熱があるので3箱で足りるのです。
なので、パンの焼き時間も窯の状態を見て1日目と4日目では変わってきます。
薪は薪の状態になっているものを八王子(東京都)、松田町(神奈川県)、青森県の3か所から入手しています。
青森の方は、毎月車で東京に来る用事があって地元に薪がたくさんあるから東京で使わないか?と営業に来られたんです(笑)。
試しに使ってみたらクオリティがよかったのでこの1年使うようになりました。
いわゆる薪屋からは薪を購入せず本業の傍らで薪を作っている人のものを使っているのは、「薪を作る」という大変な作業を楽しんでいらっしゃることが伝わってきて、僕がやっている「薪窯でパンを焼く」ということを理解してくれて想いを共有している感覚があるからです。
電気オーブンならボタン一つで安定して焼けるけれど、結局のところ薪窯で焼くことが楽しいからやっているんですよね。薪窯を使うことで薪を作ってくれている人と繋がっている、ご縁のようなものを感じられます。
いざ実食!
◆カンパーニュ
薪窯ならではのクラストの強く焼けた香ばしさや、ほんのり感じる苦みが味わいを深くしています。
クラムからは杏のような酸味が感じられ、みっちりむちっとした食感のあとに全粒粉のプチプチとした食感がきて奥行きのある味。
バターやクリームチーズなどを塗るのはもちろん、どっしりとした煮込み料理にも合いそうです。
◆食パン(写真奥)
乳酸菌のような軽い酸味は自家培養発酵種によるもの。噛みしめていくと酸味、甘み、旨みがじゅんわりと溢れてきます。
むっちむちのクラムと、塩見さんならではの甘みと酸味の往復書簡のような関係の味にハマる人が多いのです。
トーストすると水分がすーっと抜けてカリカリと歯切れがいい。
甘みを強く感じ、まるでお米やお餅をたべているかのよう。
◆かたい(ビスケット)
このビスケットがまたクセになる美味しさ。
バリン、ガリッゴリッという食感、全粒粉を使うことで小麦の風味が楽しめて、甘さも塩気もほんのりなのでついつい食べ進めてしまいます。
小さいときによく歌った「ポケットのなかにはビスケットがひとつ、ポケットをたたくとビスケットはふたつ♪」という童謡を毎回思い浮かべるフォルムも好きなところです。
アグリシステムさんの「オーガニックきたほなみ」をメインで使っているのだそう。
お話を聞かせていただいて
販売しているパンの種類が食パンとカンパーニュのみ、というお店は私の知る限りでは塩見さんだけです。
その潔さに、ご自分の想いを切れ味鋭くお話されるのかと勝手に想像していましたが、穏やかな口調でわかりやすく笑顔を交えながら話してくださいました。
北海道のオーガニック小麦を使うことで環境再生型農業(リジェネラティブアグリカルチャー)を自然と応援することになっていることを勉強会で知り、これからも地球に負担をかけないパン作りをしていかれる塩見シェフ。
唯一無二の「パン屋塩見」のパンをぜひ味わっていただきたいです。
SHOP INFORMATION
【店名】パン屋塩見
【住所】東京都渋谷区代々木3-9-5
【電話番号】03-6276-6310
【営業時間】12:00~18:00(売り切れ次第閉店)
【定休日】水・木、火曜は前日焼きのみ
※写真の商品の種類、価格は、2024年11月現在の情報となります。
※営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗もしくはSNSなどでご確認ください。