看護職・介護職のストライキとは?現場視点で考えるストライキの実態やこれからできることを紹介します!
本日のお悩み:看護職・介護職のストライキ、賃上げだけで現場の改善につながる?
先日、看護職・介護職の一斉ストライキがありました。 目的は賃上げの実現とのことでしたが、本当に改善されるのでしょうか。
また、賃上げだけで医療・介護・福祉業界の課題は解決するのでしょうか。
賃上げだけでは解決しない、なぜ、いま看護・介護職はストライキを起こすのか
執筆者/専門家(社労士)
山本 武尊
https://mynavi-kaigo.jp/media/users/23
看護職・介護職のストライキ。ストライキについて知らない人からすると、「人手不足の医療・介護・福祉業界でそんなことして大丈夫なの?」「そもそも法律とかには触れないの?」「効果はあるの?」などといった疑問も生じるかと思います。
この記事では、ストライキの基本情報に加えて、賃上げだけで現場の課題は解決するのか、これからできることは何かなどについて解説します。
1.ストライキとはなにか──労働者の「最後の声」
前述した通り、ストライキと聞くと「そもそもストライキって何?」「なんだか怖い印象がある」という方も少なくありません。
ストライキとは、労働者が使用者に対して、賃金や労働条件などの改善を求めるために、労働を一時的に停止することです。これは、労働基準法・労働組合法など法律に基づいた正当な権利であり、感情的な反抗手段ではありません。
つまり、ストライキは「もう声が届かない」と感じた労働者が、最後の手段として行う“行動によるメッセージ”であり‘’願い‘’なのです。医療・介護・福祉という業界で働く人々が、ストライキに踏み切ったという事実。それ自体が、現場の悲鳴であり、長年の沈黙の蓄積とも言えるでしょう。
2.なぜ今、賃上げなのか──“ありがとう”だけじゃ生きていけない
ストライキの主な目的は「賃上げの実現」です。しかし、一部では「賃上げだけでこの業界の問題は解決しないのではないか?」という冷ややかな声もあるようです。その通りです。賃上げだけでは解決しません。
ただし、これは視点の問題です。この業界の課題は複雑かつ多層的であり、「賃上げ」はその入り口にすぎません。しかし、その入り口すら閉ざされている現状では、他の議論は前に進まないのです。
介護業界に特化して日々現場に関わる私から見ても、「処遇改善」は決して“ぜいたくな要求”ではなく、“最低限の要求”です。働く人の生活が守られなければ、専門性の高い仕事も続けられません。優しさだけでは、子どもを育てられません。使命感だけでは、家のローンは返せません。
介護・医療・福祉業界の仕事は、感謝とやりがいに溢れた尊い仕事です。しかしそれに甘えて、「お金はいらないよね?」という空気が長年漂っていたのもまた事実です。
3.現場の「限界」──やりがい搾取のリアル
私がこれまで出会ってきた多くの現場職員たち(介護福祉士、看護師、ケアマネジャー、相談員など)には共通する言葉があります。
「好きな仕事だけど、生活がもたない」
いわゆる「やりがい搾取」とは、やりがいを盾に、正当な報酬や働き方の見直しがなされていない状態を指します。過去に行ったケアマネジャー向けのアンケートでは、管理職でも年収500万円に届かないという声が多く、年収が業務内容に見合っていない(やや見合っていないも含む)と答えた人が全体の7割以上にのぼりました。※
しかも、今や処遇改善加算などがあっても、それが職員一人ひとりに適切に還元されているかどうかは、また別の話です。こうした中、現場職員の「働きたい」という気持ちを裏切り続けてきたのは、制度と経営と社会の無関心だったのかもしれません。
※出典:一般社団法人日本介護支援専門員協会一般社団法人日本介護支援専門員協会
4.なぜ「賃上げだけでは足りない」のか
繰り返しますが、賃上げは必要条件であり、十分条件ではありません。では他に必要なのは何でしょうか?
1.労働環境の見直し
2.キャリアの見える化
3.制度そのものの見直し
4.世間からの理解と尊重
1.労働環境の見直し
夜勤明けに休みがなく連勤が続く。オンコールが常態化し、心が休まらない。職員同士の人間関係が悪化しても、相談相手がいない。
賃金だけでなく、こうした働く環境の根本を変えなければ、人は辞めていきます。
2.キャリアの見える化
専門職であるにもかかわらず、成長や昇進のルートが曖昧。経験を積んでも評価されない。このように介護業界では「このままでいいのだろうか…」と悩む若手が増えています。
キャリアを見える化できるよう、人事制度を整えたり、キャリアに関する面談を行ったりすることが必要でしょう。
3.制度そのものの見直し
介護報酬制度の複雑さや、加算の取得要件の厳しさから、利用者さんに提供したいケアが、制度上できないことも少なくありません。
このような制度が介護職の「やる気」を削いでしまっている側面もあります。
4.世間からの理解と尊重
コロナ禍で「エッセンシャルワーカー」と呼ばれた私たちですが、時間が経てば忘れ去られ、再び「誰でもできる仕事」と思われる風潮が戻ってきています。
社会からの評価が変わらなければ、志を持つ若者も減っていきます。
5.これからできること
介護職の声を見える化する
ここで私たち専門職や経営者ができることは、現場の声を可視化し、発信することです。
例えば、ケアマネの中には非金銭的な報酬(感謝・承認)を大切にする声もあります。しかしそれは、「金銭的報酬がきちんとある前提」で語るべき話です。やりがいや感謝だけに頼る経営は、もはや通用しません。
私は介護事業所向けの研修・コンサルティングの中で、「職員の声を見える化する」ことを重視しています。日々の感謝の言葉、仕事の中で感じた達成感、制度に対する違和感。それを経営者が「見る」「聴く」ことが大切です。
「お金がすべてではない、でもお金がなければ生きていけない」という現実。現場で聞いた利用者さんの家族の言葉です。職員もまた同じ想いを抱えているのではないでしょうか。生きること、暮らすこと、そして働き続けること。そのすべてを支えるのが処遇改善であり、それは賃金だけの話でもないのかもしれません。同時に職員側も声を上げる「準備」が必要です。闇雲に不満を言うだけではなく、具体的な課題と提案を持って対話をする。こうした歩み寄りも必要ではないかと考えております。
働く人のQOLも大切にした職場づくりを
賃金、働き方、キャリアパス、評価制度、組織文化。これらすべてを「総合的に整備」していくことが、私たち社労士に求められている使命です。 私たちは、介護・医療の「利用者のQOL(生活の質)」だけでなく、「働く人のQOL」も守っていく必要があります。
その実現のために、これからも声を上げ、制度を変え、現場の伴走者であり続けたいです。 これは職員の立場でもない、経営者の立場でもない、法人や会社組織、介護事業の発展をするためのサポートも社労士としての私の役割だと感じています。
6.賃上げの先にある未来へ
賃上げを行うのは、働き続けることを諦めさせないため
ストライキという手段は決して望ましい姿ではありません。けれど、それを選ばざるを得ないという現実を、私たちは直視しなければなりません。 賃上げが必要なのは、「もっと働いてほしいから」ではありません。働き続けることを、諦めさせないためです。
近年の物価高騰、伸び続ける社会保障費の適正化という中で介護保険制度は運営されております。経営者側もこれまでの感覚的な経営では立ち行かなくなっている現状があり、さらなる経営努力が求められます。そうした現状で「ヒト・モノ・カネ・情報」という経営資源をどのように分配していくのか。まさにこれまで以上に経営手腕が求められるのではないでしょうか。
金銭的な安定×やりがいが大切
ただし、まだ諦めるのは早いです。限られた経営資源の中でも「ヒト」の資源だけでは唯一成長ができる資源ではないかと考えております。介護、医療、福祉業界 この業界を支えているのは、専門性と、使命感と、なにより「人」です。そして、「人」は感情を持ち、生活がある存在です。
私たちが望む未来とは、「やりがいだけがある」現場でもなく、「お金だけのために働く」職場でもありません。福祉の仕事には「感謝」や「共感」といった非金銭的な報酬も大きなモチベーションになります。「ありがとう」「あなたがいてくれて良かった」これは何よりのご褒美です。
ただし繰り返しになりますが、これが「お金の代わり」になってはいけない。 現場で働く人たちが安心して働き続けられるようにするには、「賃金」「働き方」「人間関係」「評価制度」など、総合的な見直しが必要です。つまり、賃上げは「出発点」であって「ゴール」ではありません。 そして「賃上げ=コスト」と捉えるのではなく、「賃上げ=未来への投資」として見ることが必要です。
最後に:賃上げは「働き続けたい」と思う第一歩
看護・介護職は、AIや機械では置き換えられない仕事です。人と人とが向き合い、寄り添い、声なき声に気づくことは、まさに「人間にしかできないケア」の形です。 その人たちが安心して長く働ける環境を整えることは、すなわち社会全体の安心基盤の構築に直結します。賃金を含む待遇の改善は、現場で働く人たちが「続けたい」と思える環境をつくる第一歩です。
介護現場で働く人たちの生活が守られ、努力が報われ、そして心から「この仕事を続けたい」と思える現場。 その第一歩が、「賃上げ」というシンプルな、しかし大きな一歩であってほしいと切に願っています。
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