J1開幕戦で決勝アシストに加え計4ポジションで奮闘。清水エスパルスの22歳、DF高木践の新たな挑戦
【サッカージャーナリスト・河治良幸】
清水エスパルスは国立競技場で行われたJ1開幕戦で東京ヴェルディに1−0と勝利。2023年の昇格プレーオフで敗れた因縁の相手、そして昨年6位に躍進した相手に手堅く勝利できたことはここからの戦いに向けて、大きな自信になったはずだ。
決勝点となった北川航也のゴールをアシストしたのが、右サイドバックの高木践だ。左サイドの山原怜音から中央で横パスを受けたセンターバックの蓮川壮大が斜め前方にボールを送り込むと、右外から高木が一気に、相手ディフェンスの背後に飛び込んでボールをコントロール。中央でフリーになった北川に山なりのクロスボールを届けた。
「壮大くんに入った時に来てくれと願って、瞬間に裏抜け出そうと。そしたらすごいいいボールが来てくれた。キーパーもこっちになびいてたと思うので、あとは航也くんに、いいボールを出すだけでした」
「まずは守備。90分間で1本はチャンスをつくる」
高木は鹿児島キャンプの集大成となったジュビロ磐田との“静岡ダービー”でもFWドウグラス・タンキのゴールをアシストした。
本格的に右サイドバックをやって日も浅く、まだまだ攻撃のバリエーションが多くないことは本人も認めているが、右サイドで縦のコンビを組む中原輝が左利きで中に流れることが多くなる分、ヴェルディ戦のアシストのような、外側を追い越していく攻撃参加は狙っているという。
「スピードには自信を持ってますし、裏抜けは90分通して一本はチャンスを作ろうと。それが完璧なタイミングで来てくれた」と語る高木は、秋葉忠宏監督からも「まず守備から。チャンスは絶対来る。その一本をしっかりやれ」と言われており、まさしくその通りになった。
3バックの左でも安定感
テレビの取材でも、勝利に導くアシストに関する質問が続いたが、やはり高木の基本となるのは高い身体能力を生かしたディフェンスだ。この日はヴェルディが3−4−2−1で、4バックの清水とは非対称な関係だった。
高木は相手の左ウイングバック松橋優安や左シャドー福田湧矢が、入れ替わり立ち替わりで来るところに対応したが、ヴェルディが後半途中からFW染野唯月を投入して2トップ気味に。
秋葉監督は同じメンバーのまま3バックに変更すると、山原が右ウイングバックに回り、高木は3バック左にシフトした。高木は「去年はセンターバックをやってたので、後半3枚にした時は本当に、あんまりストレスなくできたというか。ジェラくん(住吉ジェラニレショーン)も壮大くんも安心感がありますし、何も怖くない感じでした」と語るように、安定した対応を見せた。
「ヴェルディのFWは本当に一人ひとり、能力があるのは分かってましたし、まずは裏にいかれないこと、足元に入ったら強くいくことだけを意識して。それ以外は何も考えずにやってました」
布陣変更のキーマンに
高木は3バック中央に高橋祐治が入ると、右ウイングバックに。そして後半アディショナルタイムにはベテランの吉田豊が右に入り、高木は左ウイングバックとして試合をクローズした。
結局4ポジションをこなした高木だったが、4バックをベースに、試合の状況に応じて3バックに形を変えたり、メンバーチェンジで配置を変えたりというのはJ1の戦いの中で、清水のスタンダードになっていくかもしれない。
その戦略におけるキーマンになっていきそうな高木は「本当にきつい戦いになると思いますけど、自分たちから崩れないというのは秋葉さんもおっしゃっている。崩れずにやっていきたい」と言い切る。
70番を引き継いだ覚悟
右利きだが、右足跳びという変則型の高木にとって、サイドバックというより右側の守備が慣れないところはあるという。練習では左足で跳ぶことにもトライしているが、試合ではこれまでの習慣から右足で跳んでしまうという。
攻撃面でも課題に一つ一つ向き合う立場だが、粘り強い守備とスピードという武器には自信を持っている。名古屋グランパスに移籍した原輝綺と比較されることに関しては気にしないというより、前向きに捉えているようだ。
「輝くんが抜けた穴は本当に大きいですし、自分にプレッシャーを与えるためにも番号を引き継がせていただきました。それに見合ったプレーを初戦でできてたか分からないですけど、試合でどんどん成長していけば、輝くんに追いつき、追い越せる存在に絶対なれると自分は信じてやっている。そこは肝に銘じてやっていきたい」
清水にとって3年ぶりのJ1で、いきなりエースの決勝点をアシストする大仕事をやってのけたが、基本は常にディフェンスだ。それをしっかりとやった先に、1試合に1回でも2回でも、攻撃での決定的な仕事が付いてくればいい。右サイドから清水の躍進を支える22歳の新たな挑戦がスタートした。