「西日暮里駅前」で行われる市街地再開発とは?いつ完成し、どのように街が変化するのか
西日暮里駅前の再開発が本格始動
2025年1月31日、西日暮里駅前市街地再開発準備組合と東急不動産株式会社は、東京都知事から「西日暮里駅前地区第一種市街地再開発事業」にかかる市街地再開発組合の設立認可(都市再開発法第11条第1項)を受けたことを発表した。
JR西日暮里駅(にしにっぽりえき)は、東京23区内で2番目に面積が小さい荒川区の南西部にあたる西日暮里地域に位置し、30駅を有する山手線の一つでもある。
西日暮里駅に乗り入れている路線は、JR東日本の山手線および京浜東北線、東京メトロ千代田線(常磐線各駅停車・小田急小田原線との直通運転)、東京都交通局の日暮里・舎人(とねり)ライナーの4線となっている。
このうち、東京メトロ千代田線は、常磐線各駅停車および小田急小田原線との直通運転が実施されており、北は茨城県取手市の取手駅まで、南は東京都多摩市の唐木田駅や神奈川県箱根町の箱根湯本駅(小田急ロマンスカーの利用によりアクセス可能)まで結んでいる。
市街地再開発事業導入の背景等
今回、市街地再開発事業が行われる背景として、「西日暮里駅周辺地域まちづくり構想(改定)平成29年6月(荒川区)」では、主に次の課題を挙げている。
・駅前に集客施設や食料品・日用品の購入できる生活利便施設が少ない。
・交通(歩行者・自転車・車両)が錯綜している状況にある。
・広場空間やオープンスペースが少なく災害時の拠点となる場所が少ない。
・文化・交流施設が立地していない。
上位以外にも災害時における帰宅困難者を受け入れる施設やスペースが不十分であるなども課題として考えられる。
また、西日暮里駅周辺は、荒川区の都市計画の基本的な方針を定めている「荒川区都市計画マスタープラン(2009年3月)」において、広域拠点として位置付けられており、4線が乗り入れる交通結節機能を生かしたにぎわいのある街づくりとして“再開発による駅周辺の計画的な土地利用”を推進することとしている。
実際に西日暮里駅前の現地を訪れてみると、駅の東側には狭隘な道路や建築密度の高い市街地が広がっており、緑地や空地、広場など、防災や交通の視点から不可欠な都市基盤が不足している状況にある。
このような背景のもと、2007年に西日暮里五丁目まちづくり協議会が発足し、2014年6月には再開発準備組合が設立され、その後、調査や基本計画作成などを行い、再開発を推進するための都市計画(市街地再開発事業や高度利用地区、地区計画など)が2021年6月に決定した。
そして、2025年1月31日に東京都が再開発組合を認可し、本格的に始動するに至った。
西日暮里駅前地区の市街地再開発事業の概要
市街地再開発事業が行われるのは、JR線、道灌山通り、JR貨物線、都営日暮里・舎人ライナー西日暮里駅に挟まれた西日暮里駅北東部の西日暮里5丁目の一部。
施行面積は約2.3ha。その中において、商業棟(商業施設、文化交流施設、コンベンション施設、屋上庭園)、住宅棟(住宅、業務施設、保育施設、町会会館)、交通広場、駐輪場、日暮里・舎人ライナー西日暮里駅とJR西日暮里駅まで結ぶペデストリアンデッキなどに加えて、防災備蓄倉庫や帰宅困難者の受け入れスペースが設置される予定となっている。
事業計画書によると、具体的な整備施設については、建築物は延べ面積約16万m2、地下3階、地上46階、高さ約170mの超高層建築物となる予定。このうち、分譲住宅は979戸計画されている。また、合計約2,640m2の広場、幅員2〜9mの歩行者専用通路(ペデストリアンデッキ)、約1,800m2の交通広場などが計画されている。
総事業費は約1,342億円を見込んでおり、このうち補助金を約261億円、保留床処分金として約904億円としている。
荒川区内で最も高い建築物となる予定
市街地再開発事業のうち、建築物の整備についての計画は次のとおり。
・建築敷地面積:約12,340m2
・建築面積:約9,840m2
・延べ面積:約164,150m2(容積率対象延べ面積:約116,840m2)
うち、商業棟:約55,000m2、住宅棟:約109,150m2
・階数:地下3階、地上46階(商業棟は地上10階)
・建蔽率:約 80%
・容積率:約950%
・用 途:住宅、商業、業務、文化交流、保育、コンベンション施設等
・構 造:鉄筋コンクリート造、鉄骨造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造
・高 さ:約170m
・付帯施設:駐車場約520台、駐輪場約2,900台、自動二輪駐車場40台
当地区は、都市計画上「商業地域」に指定されており指定容積率は600%とされるが、市街地再開発事業に伴う高度利用地区の指定により上限値が950%まで引き上げられており、計画建物の容積率は指定容積率上限の約950%が予定されている。
また、現在、荒川区内で最も高い建築物は、日暮里駅前に立地する「ステーションガーデンタワー」の約160mであるが、本計画建物は約170mとなることから、荒川区内で最も高い超高層建築物(タワーマンション)となる。
住宅部分は、地上1〜2、8〜46階で配置され、分譲住宅979戸の内訳としては、次のとおりとなる。
・30m2〜50m2:298戸(戸あたり平均床面積約 36m2)
・50m2〜70m2:327戸(戸あたり平均床面積約 62m2)
・70m2〜90m2:326戸(戸あたり平均床面積約 76m2)
・90m2〜 : 28戸(戸あたり平均床面積約110m2)
スケジュール
事業計画書ならびに東京都の報道発表資料「西日暮里駅前地区市街地再開発組合の設立を認可します(2025年1月30日)」によると、権利変換計画(再開発前の土地等の権利を等価で新しい建築物の床の権利に置き換える仕組み)の認可を2026年、工事着手を2027年4月、建築物の竣工を2031年3月に予定している。
今後、どのような街の変化があるか
再開発が予定されているエリアは、JR西日暮里駅と都営日暮里・舎人ライナー西日暮里駅の間に位置し、これらをペデストリアンデッキで結ぶ計画が進められる。さらに、地域のシンボルとなる商業施設の整備も予定されており、西日暮里エリアの新たなランドマークとなることが期待される。
加えて、西日暮里駅周辺は、これまで災害時の対応拠点や帰宅困難者の受け入れ施設が不足していたほか、駅前には路線バスやタクシーの乗降スペースが十分に確保されておらず、渋滞発生の要因となっていた。これらの課題を解決するため、再開発事業では防災拠点の整備や交通広場の新設が予定されている点も注目される。
従来、西日暮里駅は乗換駅としての側面が強く、JR山手線・京浜東北線、東京メトロ千代田線、都営日暮里・舎人ライナーが乗り入れており、JRでは1日平均乗客数は約8.8万人(2023年度。降車客含まず)、東京メトロでは1日平均乗降客数は約15.1万人(2023年度)、都営では1日平均乗降客数は約3.2万人(2023年度)が利用する利用規模の大きいターミナル駅でもある。
にもかかわらず、駅前の広場や緑地、歩行者動線の整備が不十分と言わざるを得ない状況だったが、今回の再開発により、交通処理能力の向上や歩行者空間の拡充が進められ、荒川区の新たな玄関口としての機能が強化されることとなる。
また、西日暮里エリアは、近年、観光地として注目を集める谷根千エリア(谷中・根津・千駄木)にも近く、交通利便性が向上され、観光客や居住者の増加も見込まれる。再開発による新たな商業・文化拠点の形成により、西日暮里エリアの価値向上が期待される。
おわりに
西日暮里駅の西側には太田道灌の出城の地としての歴史がある道灌山の高台に神社仏閣が多く立地し、江戸時代には春の桜やツツジ、秋の紅葉が美しい地として、江戸庶民の行楽地であった。古くは「新堀」や「入堀」と表記されていたが江戸時代中期頃から「日暮里」と書くようになり、日が暮れるのも忘れてしまうということから、「ひぐらしの里」とも呼ばれていた
「日暮里(にっぽり)」と正式に表記されたのが明治に入ってからとなる。このように、西日暮里エリアは歴史的な特徴を持つ地域であり、さらに、駅西側にある諏訪神社境内の諏訪台や富士見坂からの眺望は現在もその美しさを残している。
最後に、西日暮里駅は日暮里駅を経由することで成田空港へのアクセスも良好であり、都心にありながら谷根千エリアや上野公園といった観光・文化スポットにも近い。こうした立地の特性を活かし、今回の再開発が起点となって、近接する日暮里や鶯谷、上野、三河島といった駅周辺での観光・居住の両面でエリアの魅力がさらに高まることが期待される。
再開発事業はまだ始まったばかりであるが、完成後には街の景観や利便性が大きく向上し、新たな都市拠点としての発展が期待される。西日暮里駅の進化に今後も注目していきたい。