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Char「新しく何かを始める第一歩になるかもしれない」『SOLILOQUY』ツアー直前インタビュー!

YOUNG

Char

デビューから46年目を迎え、今も精力的に活躍するChar。今年はこれまでに“Char LIVE 2023 ~Smoky Medicine~”や“JLC & PINK CLOUDトリビュート・ライヴ”という自身のキャリアを振り返るコンサートを行なってきたが、この秋にはセルフメイドの最新インストゥルメンタル・アルバム『SOLILOQUY』(2023年)を引っさげてのツアー“Char Live Tour 2023 ~Soliloquy~”が始まる。

『SOLILOQUY』は前作『Fret to Fret』(2021年)から2年2ヶ月振りとなる今年7月にリリースされた最新作で、全12曲がインスト・ナンバーで構成されている。そして、ギター、ベース、キーボードなどすべての楽器演奏はもちろん、アレンジからトラック・メイクまでをCharひとりで手掛けているのだ。

Charはスタジオ・レコーディングにおいて常に実験的精神や遊び心を忘れないアーティストだ。そのスタジオ・クラフトの結晶である本作がライヴにおいてどのような形で再現されるのか? 新しいメンバーを迎えてバンド・サウンドはどのように変わるのか? また、注目のセットリストはどのような選曲なのか? そして、どのようなギター・プレイを聴かせてくれるのか? ファンとして興味は尽きない。

そこで、“Char Live Tour 2023 ~Soliloquy~”の日程やメンバーが発表になったタイミングで、改めてアルバム『SOLILOQUY』についての考察、そしてこれから行なわれる同ツアーについての意気込みなどを語ってもらった。

いい曲を入れようというのではなく、ギターのいい音色を入れたいと思った

──今年7月にリリースされた『SOLILOQUY』は久々のインスト・アルバムでしたね。「普段から曲のスケッチは描いているから、次作は出そうと思えば意外と早く出せるかも」とおっしゃっていましたが、こんなに早く聴けるとは想定外で嬉しかったです。

Char:「出そうと思えば出せるよ」なんてもったいぶったこと言ったけど、気がついたらうまく言いくるめられて出されちゃったんだよ(笑)。

──歌モノとインストでは、作曲する時に何か違いはあるのでしょうか?

Char:毎日ギターを弾いている中で、曲の断片みたいなものを何かしらヴォイス・レコーダーで録ってるんだよ。何も思いつかない時はクラシックの曲やピアノの曲を練習したりしてさ。ちょっとテクニック的な弱点を補強しようと思っててね…(笑)。思いついた時に「あ、このフレーズ面白いな」と思ったらそれを録音しておいて、スタジオに持って行ってその先の展開を考える。

──それってまだほんのワン・フレーズだったりすると思うのですが、その時点でもうインストか歌モノか決まってるんですか?

Char:ほんの30秒くらいの断片でも、その先をどうしたいかは大体見えてるね。絵に例えるなら、スケッチというラフな構図があって、それを元にどんな風に描いてどんな色をつけてだとか、そういうことは大体見えてるんだ。だからその時点で、インストになるか歌モノになるかはほぼ決まってる。ただ、逆転することもあるけどね。インストにするつもりだったのに、中盤に差し掛かったら「あれっ、歌が聴こえてきちゃったかな?」とか、歌モノにするつもりだったのに、試しにメロディーをギターで弾いてみたら「あ、これはギターでやった方がいいな」とかね(笑)。だからインストだとか歌モノだとか、あるいは曲の長さとか、あまりこだわってないんだ。

──そういう時は、どういうアレンジにしたらいいか、そこまで考えているんですか?

Char:そのサウンドは頭の中でもう聴こえてる。以前はその聴こえてきた音を再現するためにシンセサイザーでストリングスだのホーンだの、擬似的に音作りをしていたんだよ。ただそれだと、どこまで行ってもデモ・テープにすぎない。ところが現代の“Pro Tools”だと、その頭の中に聴こえてくる音をそのまま引っ張り出すことができる。例えば、ドラムの音にしても、教会のパイプオルガンの音にしても、チェロの音にしても、非常にリアルな音色を出すことができる。俺の場合、元々すごく多岐に渡るジャンルの音楽に興味があって、大体の良い楽器の音やフレージングを知っているから、リアルな音色さえ手に入れば、それをキーボードで弾いてそれなりに再現してみせることができる。だから、デモの延長上で本物の楽器による差し替えを待つ状態ではなくて、実際の楽器奏者の助けを借りなくてもひとつの絵が完成するんだよ。

──以前のようにトラック数の制限や楽器の音色が不完全なことからのストレスを受けることなく、無制限に手を加えることができるのは便利なようですが、作業が無限に続いて筆の置き所が決められなかったりすることはありませんか?

Char:俺は昔からスタジオのことをアトリエって呼んでるんだけど、実際、画家にとってのアトリエはミュージシャンにとってのスタジオなんだよ。そんな風にアトリエでアイデアを絵にすることができるのは、今の時代だからこそだね。今の俺なら経験則もあるし、こうやったら絶対にいいサウンドになる、という引き出しもたくさんある。だから無尽蔵にトラックを使える環境であってもそはせず、あえて必要最小限で作ることができる。以前は、むしろ誤魔化すために重ねていたんだけどね。

──そのような制作環境の中から今回インスト・アルバムが生まれたことには、何か理由があるのでしょうか…?

Char:たくさんある音源データを1枚のアルバムとしてまとめるのなら、インストならちょっと手を加えるだけでできると思ったから。それに、今年の1月にジェフ・ベックが亡くなったことも関係している。俺の場合、(エリック)クラプトン、ノーキー(エドワーズ)、(ジミ)ヘンドリックス…と影響を受けたギタリストを挙げたらキリがないし、そもそも俺の弾いてるフレーズは元々誰かがやってきたことだけど、その中でも特にこの20年ほどはジェフ・ベックにすごく影響されてきた。ともすれば「もうこんな感じでいいだろう」と渋く収まってしまおうとする自分の気持ちを叩きのめしてくれて、改めてギターと向き合って練習することを教えてくれた。それはジェフのおかげなんだ。子どもの頃からずっと雲の上の人だと思っていたのに、実際に彼の家まで行ってセッションする経験も得たし、究極のBBA(ベック・ボガート&アピス)ごっこであるCBA(Char・ボガート&アピス)なんかもやらせてもらったしね。そんなこともあって、今の俺は『(JEFF BECK’S)GUITAR SHOP』(1989年)以降のジェフあってのものだと堂々と伝えたいなと…。だから、このアルバムにはいい曲を入れようというのではなく、ギターのいい音色を入れたいと思ったんだ。

──話は少し戻りますが…、“Pro Tools”などのアトリエにおける道具の進化について聞かせていただけますか?

Char:録音技術の進化とともに俺たち世代のミュージシャンは生きてきたんだけど、どこまで行っても基本がアナログ・テープだから、不可能なこともたくさんあった。ドラムを例に話してみようか。アナログ時代のレコーディングは、ドラムのいいテイクが録れたらそれを元に構築していくという作業だった。ドラムの差し替えはほぼ無理で、自分がいい演奏ができたと思っていても、ドラムの奴が納得しなかったらすべてやり直すしかなかったんだよ。その逆ができないわけじゃないけど、やりづらい。

──それが、“Pro Tools”の出現によって変わったんですね。

Char:それ以前に江戸屋(レコード)から出したソロ・アルバムの『彩気 Psyche』(1988年)は俺がひとりで作ったもので、アナログの時代だったから、(ヤマハ製シンセサイザー)“DX7”のブラスやストリングスじゃやっぱり音色としては物足りなかった。だから、後から本物の楽器を入れていたわけ。その後、“Pro Tools”を使い始めたのは『Sacred Hills〜聖なる丘〜』(2002年)のレコーディングから。あのアルバムはジム・コウプリー(dr)と2人で作ったんだけど、ジムいわく「“Pro Tools”がドラムを自由にしてくれた」ということなんだ。ドラムを最後にダビングすることだって可能だからね。これなら2人だけでも完成できると思った。だから、『聖なる丘』が今回の『SOLILOQUY』の原点になっているとも言えるね。

──デジタル・レコーディングの利点、逆に注意点などは?

Char:利点は、機材の引き出しが増えたということかな。しかもデジタルならではのスピードとクオリティを備えている。しかし、だ。こうなったら、もう手法としてはアナログなんだよ。どういうことかと言うと、以前はデジタル機材でアナログに近づけた音作りをして悦に入ってたのが、今では生で録ったドラムより俺がプログラミングしたドラムの方がリアルで人間っぽかったりするわけ。そうなると、道具を使う側のセンスが一番重要になってくる。ひと回りして、結局そうなった。スタジオでのレコーディングに関して、これまで長年やってきて良かったと思えるのはそこなんだよ。

──そういったおひとりでのスタジオ作業が、ライヴ活動に影響を与えることはありますか?

Char:俺のクローンが3人くらいいたら、ライヴも簡単にできるのにな(笑)。でも、それもなんだかややこしそう。まぁやっぱりライヴというものはライヴであるべきで、スタジオ・クラフトとは別のものだと思う。『彩気〜』を作った時も、その音をライヴで再現するにはバンドを作るしかなかった。今回のアルバムを作ったことで、そういう冒険がまた始まりそうな気がする。

──それは楽しみです。『彩気〜』の頃のバンドを懐かしく思い出しますよ。

Char:あの時は、まずいつも手伝ってもらってた佐藤 準(key/作編曲家)に頼んで、アン・ルイスの仕事をやってたジム・コウプリーを紹介してもらってね。ジムとプレイするのはその時が初めてで、あそこからPSYCHEDELIXに発展していったと思うと、やっぱり新しい人との出会いは大切だよね。新しい出会いは年齢とともにどんどん減っていく一方だし、仮に出会ったとしても一緒にセッションしたい人となるともっと限られてくる。

──そうして出会うミュージシャンに対して、Charさんが求めることは?

Char:どの楽器の人にも言えることなんだけど、その楽器を習得する段階において当然持っておくべきスキル、通っておくべき曲やアーティスト、というものがある。その辺りのことをしっかり分かっていることかな。以前にオーディションをした時のことだけど、若いミュージシャンに「Purple Haze」(ジミ・ヘンドリックス)を知らないと言われた時は参った(笑)。そういうのをまた最初から説明するのはもう面倒くさいんだよ。さらにその上に個性が必要なんだけど、なかなかいないね。みんな音楽学校で同じ勉強をして、同じ弾き方を習って、同じエフェクターを使って…。そんなんじゃ個性が育つわけないよ。

──それでは、自分のバンドのミュージシャンに求めることは?

Char:まずはバック・バンドとしてしっかりとやってもらいたいというのがあるけど、それは当たり前のことであって、それ以上のことをやってくれないと俺がつまらない(笑)。ジェフ・ベックのライヴを観てつまらない時があるなら、それはバンドのメンバーが当たり前のプレイをしている時。そんな時はジェフ自身が面白そうじゃないからなんだよ。逆にジェフが演奏中に面白そうにはしゃいでいる時はすごいプレイが次から次へと出てくるから、観ているこちらも面白い。だから俺の場合も、楽しいだけじゃなくて、俺から何かを引き出してくれるプレイヤーがいい。一緒に何かを作っているという関係になりたいね。

これまでやったことのない奴らとどんなセッションができるのか…

──11月17日の高崎公演からスタートする“Char Live Tour 2023 ~Soliloquy~”のバンド・メンバーがすでに発表されていますが、どういうつながりなのですか?

Char:実は、ベースの澤田(浩史)君以外のメンバーとはまだ会ったこともない。まあ、オンラインで「酒は飲むの? タバコは?」くらいの会話で人とナリは大体分かってるつもりだけど(笑)。柴田俊文(key)は佐橋佳幸がやってたバンド:UGUISS(ウグイス)のメンバーで、スタジオ・ワークを中心にアレンジやプロデュースでも活躍してる人。タリー・ライアン(dr)はオーストラリア人。

実は3~4年前からL.A.のプロデューサーとセッションしながらレコーディング作業をやってたんだけど、今年になって彼が別のドラマーを連れて日本に来てくれたんだ。その時は『SOLILOQUY』には入れてない歌モノのデモを元に、それをスタジオに入って生演奏でやったりしていた。そのプロデューサーが面白いのよ。彼は典型的なプロデューサーとは違ってて、あくせくしていない。昔のアメリカみたいな、’70年代っぽいノリ。アナログ・サウンドが大好きなくせして、デジタルの仕事も早い。俺の作りかけの曲に気がついたら、サビのパートを作ってくれてたりもして(笑)。「こんなアイデアあるんだけど、どう?」なんて乱暴なこと、日本のプロデューサーやエンジニアは言わないだろ? 日本人はその辺りを遠慮しちゃうのかな。それは逆に残念でもあるよね。その点がオープンで楽なのは、相手が外国人だと思ったことを言い合えるから。

──そのレコーディング・セッションでは、どんなことやってたんですか?

Char:「“Smoky”を日本語で歌ってみないか?」「No、それはやらない! 何でそんなこと考えたんだよ?」「だって、日本語の響きってカッコいいじゃん」とかね(笑)。あと実際に録音までやってみたのは、彼のアイデアで「Smoky」の間奏部分のテンポを思い切り遅くしてみたアレンジ。これまでは16ビートでカッティングするのが当たり前みたいに思っていたし、それ以外のアレンジなんて考えもしなかったろ? だから、これは新鮮だったよ。そうか、そういうやり方もあるのか!って。自分のことはよく分かっているつもりでも、客観的な視点で自分を見て扱うことができているかというと、そこまではできていない。結局は自分の好きな方向、気持ちの良い方向へ流れていってしまうからね。

話が逸れてしまったけど、そのプロデューサーがオーストラリアのコネクションをいっぱい持っていて、その中から推薦してくれたのが、今回一緒にやるドラマーのタリー・ライアン。

──ライヴは、どのような選曲になりそうですか?

Char:今それを考えてるところ。バンドは俺以外の3人のうち、初めて一緒にやるのが2人だからね。これまでやったことのない奴らとどんなセッションができるのか…、そういう意味では面白いコンサートになりそうな気がする。セットリストの中心とまでは言わないけれど、もちろん最新アルバムの曲もやりたいと思っているよ。

──『SOLILOQUY』からの曲をライヴで聴くのは初めてなので、楽しみです。

Char:言ったように、あのアルバムは俺ひとりで作っているから、実際に人とやったらどんなサウンドになるのか、まだ分からない。曲によっては思った通りにいかないかもしれない。それは、ひとりで作ったあのサウンドを超えなくてはメンバーと一緒にやる意味がない、ということ。リハーサルしてみて、そういう点での手応えが得られる曲かどうかで、選曲は決まってくるのかな。

──では最後に、今回のツアーへの意気込みを聞かせてください。

Char:今回のツアーは新しいメンバーと一緒にやることで、新しく何かを始める第一歩になるかもしれない。初めてやるメンバーというのは俺にとっても刺激になるからね。世界にはまだまだいろんなミュージシャンがいて、その中で縁あって出会うことができたんだから、まず俺はバンド・メンバーの彼らに「Charってすげえな」って思わせなきゃいけない。そういう点では気合いが入ってる(笑)。あとはスタジオ・クラフトの再現ではなく、ライヴなんだから、今回のメンバーそれぞれの個性を出せたらいいなと思っている。それがバンド演奏の面白さだから。その瞬間をぜひ、生演奏で体験してもらいたいね。

CHAR LIVE TOUR 2023 概要

群馬公演

日程:11月17日(金)
会場:群馬 高崎芸術劇場スタジオシアター

愛知公演

日程:11月18日(土)
会場:Zepp Nagoya

大阪公演

日程:11月23日(木・祝)
会場:Zepp Namba

東京公演

日程:12月2日(土)・3日(日)
会場:EX THEATER ROPPONGI

神奈川公演

日程:12月16日(土)
会場:KT ZEPP YOKOHAMA

詳細・お問い合わせ:ホットスタッフ・プロモーション
HOT STUFF PROMOTION

SOLILOQUY / Char

CD|zicca records | 2023年発表

アルバム詳細

公式インフォメーション
zicca.net

(インタビュー&文●近藤正義 Masayoshi Kondo Pix●GEKKO)

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