坪月商60万円の恵比寿『co.flamingo』、“気軽さ”と“ガチ”を共存させる巧みな業態設計
グルメ激戦区・恵比寿のニーズの穴に目をつけ、予約難の人気店の座を確固たるものにしたナチュラルワインビストロ『Flamingo(フラミンゴ)』。その2号店『co.flamingo(コフラミンゴ)』は、規模を本店の約半分にした“だけ”にも関わらず、異なるお客の流れと需要を獲得し、坪月商約60万円を上げる。両店を手がける株式会社PPの専務取締役・岡田一歩氏と、総括料理長・大崎秀明シェフにその仕掛けを聞いた。
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描いたのは小さくて濃い『Flamingo』。より気軽に、もっと自由に
「フラリとドーゾ♪」
そんな甘い言葉に誘われて、「とりあえず」で立ち寄ったが最後、『co.flamingo』に訪れたお客たちは皆、“嬉しい誤算”を見ることになるのだろう。外観は小洒落たワインバー。しかし、その先で待つのは、グラスだけで30種類もそろうナチュラルワインと、前菜からパスタ、メインディッシュまで、レストラン級のクオリティとラインアップが楽しめる本格イタリアンだ。
好みや季節の料理に合わせてベストなワインを懸命に選んでくれるソムリエのそばで、厨房から全てのお客に細かな目を配りながら、魂込めて料理を仕上げていくシェフ。2人からビシビシと放たれる熱量に、思わず酒も箸も進み、結局フルコースで満喫していくお客や、「1軒目で来ればよかった」と、悔しがりながらも満足げに帰路につくお客たちの姿が絶えない。
「つくりたかったのは、小さな『Flamingo』です。恵比寿になかった“楽しくワインが飲めて、フラッと来られる上質なレストラン”をコンセプトに立ち上げた本店『Flamingo』を、ギュッと凝縮したのがこの『co.flamingo』。より気軽に、より自由に、『Flamingo』の世界を体感してもらえればと思っています」
1年半前の本店の取材にも応じてくれた、株式会社PPの専務取締役・岡田一歩氏は、変わらずの気さくな笑顔と熱い口調でそう語った。
2023年6月、『Flamingo』の2号店としてオープンした『co.flamingo』。きっかけは『Flamingo』の満席状態が続いたことや、“レストラン”としての色がより濃くなっていたことにあったという。当初から、「レストラン体験を届けたい」との願いを口にしていた岡田氏にとって、ワインと共に前菜からメインディッシュまで、コーススタイルで店を楽しむお客が増えたことは何より喜ばしいことだった。だがその反面、フラッと入りづらくなってしまったことにもどかしさを感じていたのも事実だったと振り返る。
「コンセプトや届けたいものは変わりません。ただ原点に立ち返って、『もっと気軽でいいんじゃない?』という思いが強くなっていきました」
意識したのは「ハコの大きさ」だけ
そんな岡田氏だが、2店目づくりにあたって意識したのはたった1点、物件の小ささのみだったという。
10坪ある本店に比べて、『co.flamingo』は約半分の6坪。厨房からはテーブル側のお客まで全員の顔が見え、満席になっても全ての人に声をかけることができるサイズ感だ。ハコが小さくなれば、必然的にお客との物理的距離は近くなる。そうすれば、何かを意図的に変えなくても自然とコミュニケーションが増え、心の距離が縮まって親しみやすさが生まれるはずだと睨んだのだ。
さらに、『Flamingo』がレストランとして確立した要因の一つは、広めに取ったカウンターの幅や席間、明るいライティングにあると考えた岡田氏は、『co.flamingo』では全体をギュッとコンパクトにしながら、身構えずに入れる落ち着いた照明に。「コンセプトは同じでも、物件の大きさだけで店の空気は変えられる」。それは、自他共に認めるレストラン好きの岡田氏が導き出した経験則だったのだろう。
好循環を生む最大のカギは、現場に任せ切ること
だがここまでシンプルに考えられるのも、ハコさえ整えれば、あとはスタッフ全員が自ら全力で考え・動き・さらにブラッシュアップを続けるという、計り知れない『Flamingo』の「チーム力」があるからに他ならない。
前回の取材でも、自らの役割はあくまでハコづくりとサポートであり、メニュー構成からワインの仕入れ、サービス、オペレーションに至るまで、全てを現場スタッフに一任していると語っていた岡田氏。店のビジョンだけを確かに共有した上で、「シェフやスタッフに、『自分がやりたい・やるべきだと思うことを、とにかく本気で考え実行してほしい』とだけ伝える」のが、岡田氏のやり方だ。
「結局、他人から何を言われても、現場がどこまで実践するかが全てです。それなら、彼ら自身がやりたいようにやってもらうのが一番いいものができると思っています」(岡田氏)
例えばオープン当初にシェフを務めていた塚本貴亮氏(現・虎ノ門店シェフ)は、料理のポーションを『Flamingo』よりもやや小さくし、単価も低めに設定。イタリアンをベースにしつつも自らが培ってきたフレンチやエスニックのエッセンスを取り入れ、バルに近い形で盛り上げてきた。その後、長く本店で腕をふるっていた大崎シェフにバトンタッチすると、その思いを受け継ぎながらもより『Flamingo』とシンクロするスタイルに。
「『Flamingo』に入れなかったお客さまが流れてくることが多くなって、しっかりとした食事を求める声が大きくなりました。最初はライトなメニューもあったんですが、岡田さんやソムリエとも相談しながらその声に本気で応えようと試行錯誤していたら結局、『Flamingo』と同じくパスタもメインディッシュも……って、なっちゃいましたね(笑)」(大崎氏)
まさに今、“小さな『Flamingo』”と化した『co.flamingo』。だがあくまで、軸に置くのは「気軽さ」だと、二人は口をそろえる。初めにオーダーを取り切ることもなければ、コーススタイルを勧めることもない。どのタイミングで何を飲んでも食べても自由だ。岡田氏・大崎シェフを含め、常にチーム全員で「お客が自由に過ごせる場」という意識を共通して持つことを徹底していると話してくれた。
熱量が伝播すれば、お客は全力で受け止めてくれる。結果、客単価も売上もUP
オープンから2年、こうして進化を続けてきた『co.flamingo』の客単価は当初の5,000〜6,000円から、今では本店とほぼ変わらない9,000円弱に。回転率がやや高いことも重なり、坪月商は約60万円を売り上げるまでに成長した。
「本店と同じく、料理も本気、ワインも本気、サービスも本気。ただこの規模感なので、お客さまは自然とより短い時間で、濃縮された『Flamingo』の世界観を楽しんでくださっているように感じます」(岡田氏)
「ハコが小さいがゆえに、僕らの熱量や、隣り合ったお客さまの高揚感が店全体に自然と伝播するんでしょうね。気がついたら、お客さまも含めて、ここにいる全員がまるでチーム『Flamingo』のように、全力で目の前のワインや料理を楽しんでいるんです。僕ら自身も不思議なくらい、お客さまにすごく親近感を抱いています」(大崎氏)
今年5月、恵比寿を飛び出して「虎ノ門ヒルズ」に新たな店舗をオープンさせた『Flamingo』。全ての店舗で、お客を巻き込む熱いライブ感と一体感を確かに生みつつ、そこに少しずつ個性が光るのは、シェフやスタッフが自ら考え挑戦し続けることを止めないからだろう。互いに仲間でありライバルでもあるというチーム『Flamingo』がこの先、どのように輝きを増していくのか、楽しみでならない。
『co.flamingo(コフラミンゴ)』
住所/東京都渋谷区恵比寿西1-13-5 ブラッサム大六天1F
電話/03-6416-1775
営業時間/15:00~23:00(L.O.22:30)
定休日/月曜日+月2回火曜
坪数・席数/6坪・14席+テラス4席
https://www.instagram.com/co.flamingo_ebisu/