広域防災拠点として整備が進む「防災道の駅」。2025年5月に新たに40駅が追加
広域的な防災拠点に位置づけられている「防災道の駅」
「防災道の駅」という施設をご存知だろうか?防災道の駅とは、広域的な防災拠点として国が選んだ道の駅である。
全国に1,200以上ある道の駅の中でも、都道府県の地域防災計画などで広域的な防災拠点に位置付けられている施設が対象となる。
選定された防災道の駅には、災害時に自衛隊や警察、テックフォース(国土交通省の緊急災害対策派遣隊)などが活動拠点として利用できるよう、物資の集積や救援活動の基地としての機能や、復旧・復興活動の拠点としての機能が求められる。
この制度が導入された背景には、近年の大規模災害の頻発化がある。例えば能登半島地震では、複数の防災道の駅が支援物資の集配や避難者への物資を提供する拠点や、道路啓開活動の拠点となる「道路啓開支援センター」として実際に活用された。道路啓開活動とは、災害によって道路が塞がれてしまった場合に、緊急車両などの通行を確保するために、道路上の障害物を早急に除去し、救助・救援ルートを確保する活動のことである。
このような背景から、国土交通省は2021年に初めて39駅を選定し、2025年5月には新たに40駅を追加した。計79駅に拡大したことにより、さらなる防災ネットワークの拡充と防災機能の強化が期待されている。
「防災道の駅」には厳格な選定基準が設けられている
防災道の駅の選定基準は、広域的な防災拠点としての機能を十分に果たせるかどうかにある。
まず、都道府県が策定する「地域防災計画」や「受援計画」、国土交通省と都道府県で策定する「新広域道路交通計画」で、広域的な防災拠点として位置付けられていることが前提となる。加えて、ハザードエリアに位置する場合は、災害リスクへの適切な対応策が講じられていなければならない。
具体的には、災害時に業務が継続できる建物の耐震化や無停電化、通信や水の確保などが求められる。さらに、支援活動や物資の集積に対応するため、2,500m2以上の駐車場を備えていることも条件となる。また、市町村や道路管理者の役割分担を明確にしたBCP(業務継続計画)の策定も必須だ。
ただし、これらの基準をすべて満たしていない場合でも、今後3年程度で必要な機能や施設、体制を整備する具体的な計画があれば選定の対象となる。
例えば、最寄りのインターチェンジから5km圏内かつ重要物流道路に接している道の駅や、道路啓開計画で拠点とされている場合は、次回の計画見直し時に防災拠点として位置付けることを条件に選定される場合がある。
このように、防災道の駅は、災害時の広域的な支援活動や物資輸送、復旧・復興活動の拠点として機能するために、厳格な選定基準が設けられている。
2025年5月、新たに40駅の「防災道の駅」を追加
2025年5月、新たに40駅が防災道の駅として追加選定された。
これにより、全国の防災道の駅は合計79駅となり、広域防災拠点のネットワークが一層強化されたことになる。追加された背景には、能登半島地震など近年の大規模災害で防災道の駅が果たした役割の大きさがある。災害時、道の駅は物資集積や救援活動の拠点として、地域の防災力向上を支えてきたのだ。
今回追加された40駅は、北海道から九州まで全国各地に広がる。例えば、北海道の「忠類」「ハウスヤルビ奈井江」、東北の「三本木」「やまがた蔵王」、関東の「かさま」「しもつけ」、中部の「伊豆月ケ瀬」「筆柿の里・幸田」、近畿の「シーサイド高浜」「妹子の郷」、中国・四国の「掛合の里」「源平の里むれ」、九州の「みやま」「錦」「北川はゆま」など、各地の交通・物流の要所が選ばれている。
今回の追加により、全国の防災道の駅ネットワークはより強固なものとなった。今後も各地で防災機能の強化が進み、災害時の迅速な支援体制の構築が期待されている。
道路啓開活動の拠点にもなった防災道の駅「のと里山空港」
ここからは、災害時に大きな役割を担った防災道の駅を紹介していく。
まずは、石川県輪島市に位置する防災道の駅「のと里山空港」だ。この防災道の駅は、能登半島地震の際に、避難者へ水や毛布などの備蓄品を提供した拠点となった。その後、支援物資の集配拠点として機能し、さらに道路啓開活動の拠点となる「道路啓開支援センター」として活用された。
震災発生時、のと里山空港に災害対応車両が集結し、物資や人員の迅速な輸送を支えた。実際、空港や周辺道路を活用し、孤立した地域への支援ルート確保や、復旧活動の加速につながったのだ。
このように、「のと里山空港」は災害発災直後から地域と広域の両面で防災拠点として機能した防災道の駅である。今後も、災害時の道路啓開や物資輸送の拠点として活用されるだろう。
被災地への物資輸送の拠点となった防災道の駅「あらい」
防災道の駅「あらい」は新潟県妙高市に位置し、被災地への物資輸送拠点としての役割を担っている。「あらい」は国道18号と高速道路が直結するエリアに位置し、広い駐車場や立体駐車場、直売所や宿泊施設など多くの機能を備える防災道の駅だ。降雪期にも対応できる構造で、観光客や地域住民の一時避難場所としても活用できる。
能登半島地震では、地域や全国の道の駅が連携し、各地の備蓄品を「あらい」に集積、そこから被災地の道の駅「のと里山空港」などへ輸送するハブ拠点となった。実際の支援物資には、水や非常食、トイレットペーパー、おむつ・生理用品、マスク、タオルなど、被災地で切実に求められる品が含まれていた。災害時、物資の迅速な集約と輸送は被災地支援の要であり、「あらい」はその中核を担ったのだ。
この連携の背景には、日頃からの防災に関するネットワーク構築がある。
2023年10月に防災道の駅「あらい」で行われた「リレー防災セミナー」やにいがた下越駅長交流会、全国「道の駅」女性駅長会などの活動を通じて結びついた各駅が連携して、支援が実現したのである。
このように、防災道の駅「あらい」は、日頃からネットワークを活かした防災訓練や連携を重ね、災害発生時には物資集積・輸送拠点として機能している。
高付加価値コンテナを活用した防災道の駅「うきは」
福岡県うきは市に位置する防災道の駅「うきは」は、停電や断水といったインフラ障害時にも対応可能な高付加価値コンテナの活用で注目されている。その中でも防災用コンテナ型トイレは、停電や断水時でも使用可能な全自己処理型で、太陽光発電やバッテリーを活用し稼働している。自動浄化システムを搭載しており、汚水の処理・再利用が現地で完結する点が特徴だ。
能登半島地震では、「うきは」が備える防災用コンテナ型トイレが石川県穴水町の道の駅「あなみず」へ設置され、被災地支援の現場で大きな役割を果たした。設置後は1日あたり300回以上利用され、「うきは」での利用の約10倍の需要に応えた。
さらに、道の駅「あなみず」での活用が終了した後も、能登半島内の別の被災地へ移動し、継続的に活用された。被災地に高付加価値コンテナが導入されたことで、従来の仮設トイレに比べて、災害現場での衛生環境や利便性が大きく向上した。
「うきは」では、日頃から防災設備の整備と運用訓練を重ねており、災害時に早急に対応できる体制が確立されている。能登半島地震での実績は、全国の防災道の駅における先進的な取り組みの一例といえるだろう。
全国的に整備が加速している防災道の駅。
今後は、南海トラフ地震や首都直下地震などの大災害に備え、防災道の駅の役割はさらに重要性を増すだろう。能登半島地震での実績を踏まえ、防災道の駅を活用した災害対応能力の向上に注目していきたい。
この記事では画像に一部PIXTA提供画像を使用しています。