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すべてはつながっているーーBRAHMAN、30年の時を経て再び颱風一家と対バン、初ライブの日・同じ下北沢シェルターで新たに始まった物語

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BRAHMAN 30th Anniversary BRAHMAN×颱風一家

BRAHMAN 30th Anniversary BRAHMAN×颱風一家』2025.8.9SAT)東京・下北沢SHELTER

30周年アニバーサリーの集大成となる『尽未来祭』のラインナップも発表されているBRAHMANだが、本当に重要なのはこの夏の夜である。1995年の8月9日。これがバンドにとっての初ライブで、会場は下北沢シェルター、対バンのひとつが先輩にあたる颱風一家だった。

当時のことを知っている人はもう少ない。颱風一家はその後ほどなく解散し、メンバーは200MPHなど別バンドになって発展していくのだが、エモとかポストハードコアとかAIR JAM系とか、そんな名前が付いて盛り上がる直前の、東京パンク/ハードコアシーンの片隅で蠢いていたのが彼らだった。そして、BRAHMANのこの企画のために颱風一家は16年前のBRAHMAN企画、そして14年前のmilkcowのレコ発以来となる復活を果たす。目撃者は250人。レア中のレアチケットを入手した元キッズの中高年たちは、開演前のシェルターに異様な熱気の行列を作っていたのだった。

「BRAHMAN、30周年おめでとう!」。マイクも通さない地声でそんなふうに言いながら登場した颱風一家。ドラム/ベース/ギター/ヴォーカルの他にノイズ担当メンバーも在籍する5人編成で、最初は曖昧模糊に宙を漂っていたノイズが、バスドラのキックによって次第にひとつの生き物のように躍動していく。たっぷり10分ほどを使った一曲目の見せ方は、このバンドがポストハードコアとして今も十分に刺激的であることを伝えてくれる。

狂おしい叫びと切実な語りかけの中間を行くボーカルスタイル。フロントマンUMEDAの佇まいはまるでイアン・マッケイだ。これは30年前、どれほど異端でどれほど新しかったのだろう。極端にヘヴィなリフは一見凶暴だが、繰り返しループすることで奇妙なトランス感覚が呼び覚まされていく。ハードコアを怒りの音と定義せず、何か新しいものを生み出せる可能性と考えていたバンドの復活に、総じてノスタルジーはなかった。ここから何かが起こるのではないかと思わせる30分のステージ。たった4曲程度だが、フロアはずっと異様なテンションを保ったまま、ひたすら轟音に嬲られていた。

そしてBRAHMAN。暗転と共に人の波が大きく動く。逃げ場のないシェルターは完全な臨戦状態。そこに火をつける一曲目は「順風満帆」。最新アルバム『viraha』のオープニングを飾る曲だ。昨年11月の横浜BUNTAIや先日の『フジロック』ではラストに配置されており、そのことが「困難だった長い歴史をすべて肯定する」というメッセージに繋がっていた。そんな曲から始めるのはどういう意図かとまず考えたが、続くセットリストがすごかった。2曲目は1996年発表の1stミニアルバムの一発目「ARTMAN」、続くは『viraha』の2曲目にあたる「恒星天」、さらに続くは1stミニアルバムの2曲目にあたる「BEYOND THE MOUNTAIN」なのである。これは……まさかの曲順通りか!

最新アルバムの曲順を踏襲しつつ、一曲ずつの間に、まだバンドが無名だった初期の楽曲を、CD発表順、曲順の通りに挟んでいく。この日のセトリはすべてその流れで組まれていた。シンプルだがなかなか思いつかない発想は、全アルバムを曲順通りに再現するところから始まった昨年のBUNTAI公演をヒントにしたものだろう。すべては繋がっている。端折っていい出来事やなかったことにする曲などひとつもない。そんな確認の仕方が実にBRAHMANらしい。寡作なぶんだけ一曲ごとの濃度が異様に高いのだ。

そしてまた、2025年の楽曲と1996年や1997年の楽曲が並ぶことで気づくのは、彼らの掛け声やリズムは常に肉体を鼓舞する一一励ます、という意味ではなく、考えるより先に飛び跳ねて踊りたくなる祭囃子のニュアンスを持っていることだ。特に1stミニアルバムや2ndミニアルバムの時代は、注目される人気バンドのプレッシャーと無縁だったぶん、踊りに対しての無邪気さが如実に残っている。誰の目も気にしない。ハッ!と大きく声を発し、まずは自らの肉体を激しく揺らす。自分の踊りを踊ってみせるだけだ。

当時は気づかなかった。ハードコアやパンクをベースに民族音楽をミックスしたバンド、楽曲は祭囃子っぽいのに妙に暗いことばかり歌っているバンドだと思っていた。ただ、「ARTMAN」の最初にはじける〈Go!And!Stop!〉の叫びは、現在のコーラス〈順!風!満!帆!〉の力強さとまったくイコールだったし、「晴眼アルウチニ」で〈我を照らせ/我を償え〉と叫ぶカタルシスは、続いての「charon」で、もういない誰かに向けて〈照らしてよ〉と歌う現在と当たり前に繋がっていた。進むことと立ち止まること、喪失や痛みにこそ希望の光を見出すことが、見事なくらい綺麗な一直線上にある。

曲やメッセージに温度差がないからリズムは崩れず、また、曲順が偶然の符合を見せることでさらなるドラマが生まれる。最新作にあるモーターヘッドの「Ace Of Spades」のあとに「FLYING SAUCER」が続いた瞬間は、できすぎの流れに思わず叫び声が出た。英国バンドのカバーなのに阿波踊り状態になったフロアが、ポルカのカバーで「ええじゃないか」状態に突入していく様子は爆笑もの。ただ可笑しい、というわけではなく、無我夢中の空間で全身が解放されていく、そのことが嬉しくて笑いたくなってしまう感覚だ。実際はみちみちのパツパツで不快なはずなのに、どこまでが他人のものでどこからが自分のものかもわからない汗すら生の実感になる。つまり、気持ちがいい。

最凶のハードコア「知らぬ存ぜぬ」から、1分半のポップチューン「SWAY」へ。グッとくるほど素直な言葉が並ぶ「最後の少年」の後に、英語の名曲「ROOTS OF TREE」。この日だけの特別セットリストにゾクゾクしっぱなしだったが、後半に来てふと気づくのは曲数のズレである。『viraha』は11曲入りだが、初期のミニアルバムは収録曲が2枚合わせても全9曲だ。どのように辻褄を合わせて最終ゴールを決めるのか。気づけば18曲目となった「笛吹かぬとも踊る」。ツアーを経ることでより一体感が増してきたナンバーに揺れながら終焉に向かうフロアは、しばらくの無音を経て、大きくどよめいた。

まずはRONZIのドラムが雄々しく響き、またしても無音へ。そこに重なるのはひときわ異国情緒の強い、南アジア風とも中東風とも言えそうなKOHKIのギター。通常は激しい動きが目立つMAKOTOもこの時間は目を閉じてイントロに身を委ねている。なるほど「TONGFARR」か! この日はコアファンばかりなので説明不要だったが、改めて書くと、結成直後TOSHI-LOWの前身バンドの曲を引き継いでいたBRAHMANが、初めて着手したオリジナル楽曲が「TONGFARR」となる。1995年のデモテープにも収録され、音源として初めて世に出た楽曲であり、記念碑的なライブではこの曲が必ず締めの一本になってきた。終わりだが、ここからの始まりを意味するものとして。

そんな「TONGFARR」を今ここに持ってきたことで、BRAHMANの周年アニバーサリーはより輪郭がクリアになっていた。30年前のシェルターが始まりだった。30年後の今もまたシェルターに立っている。ここから『尽未来祭』に向けて一気呵成に走っていく。そして、その翌年も余裕で走り続ける。何か輝かしくも晴れやかなエンディングの予感がないところが一番よかった。

本当のラストナンバーは『viraha』から「WASTE」。両手の中指を突き立て無駄無駄無駄!と叫び散らすTOSHI-LOWは、美しくゴールテープを切ることなど微塵も考えていないのだろう。祭りは続く。生きている限り続行させる。それがBRAHMANのやり方だ。

取材・文=石井恵梨子 撮影:Tsukasa Miyoshi (Showcase)

ーーーSPICEではBRAHMAN​の結成30周年を記念して、この初ライブの地で行われたレポートを皮切りに、さまざまな視点で30年の軌跡をたどりバンドを紐解く記事を多数公開予定。今後の詳細は、SPICE内の特集ページ「BRAHMAN 30th Anniversary」を要チェックだ。

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