【後編】生成AIとは? 生成AIの必要性とビジネス変革の背景・リスク・活用実態を解説
ここ数年で知名度が急激に高まった生成AI。ニュースやインターネットなどで「生成AI」という言葉を耳にしたことはあっても、この技術が私たちの生活やビジネスをどのように変えるのかについて、具体的にイメージが湧かない方も少なくないのではないでしょうか?ここでは、社会に計り知れないインパクトを与えるといわれている生成AIについて解説します。
この記事では以下の5点をレポートします。
前編 生成AIとは? 生成AIが注目される背景と世界の導入状況 後編 生成AIビジネス利用の実態 さまざまな業界における生成AI活用事例 生成AIをめぐるリスクとITリテラシー
生成AIビジネス利用の実態
前編で紹介したIBMの調査によって明らかになったように、日本企業の多くの経営者は生成AIの導入に慎重な姿勢を示しています。IBMが2023年5月に米国、オーストラリア、ドイツ、インド、シンガポール、英国の経営層約400人を対象に行った調査によると、経営層は生成AIの導入にあたり、少なくとも3つの観点を重視しているようです。それは、生成AIが「セキュア」なサービスかどうか、「エンゲージ向上」につながるのか、「イノベーション」を生み出すのか、という3点です。
同調査の対象となったCEOの64%は「投資家や債権者、金融機関から生成AIの導入を急ぐべきだという大きなプレッシャーを受けている」と回答し、過半数の経営層は「従業員も迅速な導入を求めている」と述べたことからも分かるように、生成AIへの投資は今後2~3年で4倍に拡大すると見込まれています。
それだけマーケットからのプレッシャーがあるものの、生成AIへの投資をためらわせている要因はどこにあるのでしょうか?
前述のIBMの調査によると、5人中4人の経営層が生成AIの導入の妨げになっている要因として「信頼」に関係する問題が少なくとも1つあると考えていることが分かりました。具体的には、サイバーセキュリティ、データ・プライバシー、正確性、バイアス(偏見や思い込み)などがあります。(※1)
一方、ビジネスパーソンの中にはすでに生成AIを利用している人たちもいます。NRIが2023年5月にビジネスパーソン約2400名を対象に行ったアンケートでは、職場における業務で「実際に利用している」割合は3.0%、「トライアル中」は6.7%、「使用を検討中」は9.5%でした。
具体的に生成AIを利用している業務内容と、今後利用できると考えている業務内容を整理すると、「挨拶文などの原稿作成」が49.3%、「記事やシナリオ作成」が43.8%でテキストのアウトプットでの利用が多くを占めていました。テキスト以外の分野では、「プログラムの作成」で利用している人が23.8%、「挿絵やイラストの作成」が15.1%、「動画の作成」が9.6%で、テキストのアウトプット以外では今後活用の幅が広がることが期待されます。(※2)
出典:
※1 生成AIで企業が変わる:現状と課題(IBM)
※2 アンケート調査にみる「生成AI」のビジネス利用の実態と意向(NRI)
Googleが開発した最新の生成AI「Gemini」
Googleは、2023年12月に新たな人工知能モデル「Gemini」を発表しました。
OpenAIのGPT-4を凌ぐ性能だと話題の「Gemini」は、次世代の技術であるマルチモーダル生成AIシステムです。テキストはもちろん、画像、音声、動画などさまざまな種類のデータを高速で処理し、より高度で創造的なコンテンツを生成することに長けています。
初期バージョンである Gemini 1.0 は、 3つのサイズで発表されました。(※3)
Gemini Ultra — 非常に複雑なタスクに対応する、高性能かつ最大のモデル Gemini Pro — 幅広いタスクに対応する最良のモデル Gemini Nano — デバイス上のタスクに最も効率的なモデル
さまざまなクリエイターや有識者がその高度な自動生成システムをどのように活用できるか、SNSやブログなどでアイデアを発信しています。テキストやコード作成だけでなく、より専門的な事業領域やサービスを支援するクリエイティブを生成できると期待されています。
出典:
※3 最大かつ高性能 AI モデル、Gemini を発表 – AI をすべての人にとってより役立つものに
さまざまな業界における生成AI活用事例
2024年4月、Googleは医療向けAIモデル「Med-Gemini」をリリースしました。言語処理だけでなく、画像、ビデオなどマルチモーダルデータを扱う技術が組み込まれており、診断支援から医療記録の要約、紹介状作成、医療教育までといった医療現場での活用に大きな期待が寄せられています。
この最先端テクノロジーの活用はまだまだ未知数で、業界ごとにどのようなノウハウを駆使して、どういったシーンでの有効活用が可能か模索しているところも少なくありません。
株式会社日立製作所は、2024年5月29日に生成AIによる企業のイノベーションと生産性向上を加速するため、Google Cloudと戦略的アライアンスを締結しました。生成AIモデル「Gemini」やAI プラットフォーム「Vertex AI」といったクラウド技術を活用し、全社の業務効率化や生産性向上を推進する狙いがあるようです。(※4)
デロイトトーマツの調査レポートでは、消費財・エネルギー・資源・生産財等の6つの主要業界における生成AIの活用事例を掲載しています。例えば、金融サービス業界においては、生成AIによって強化されたパーソナルバーチャルアシスタントを用意し、顧客の日常的なニーズに対応する「顧客サポートの強化」といった活用事例を提示しています。(※5)
出典:
※4 日立と Google Cloud、生成 AI を活用したイノベーション加速、生産性向上をめざし、戦略的アライアンスを締結 | Google Cloud 公式ブログ
※5 業界別生成AI活用のすゝめ|デロイト トーマツ グループ|Deloitte
生成AIをめぐるリスクとITリテラシー
各国において生成AIを巡る動きが活発化する一方で、機密情報の扱いや個人情報の保護、回答の正確性などの課題が指摘されています。
総務省の「情報通信白書(令和5年度版)」には、2022年9月にプロンプト型画像生成AI「Stable Diffusion」を利用した静岡県の台風洪水デマ画像がSNS上に投稿・拡散され、混乱を引き起こしたケースや、ラディウス・ファイブ社が元となるイラストを学習させることで、その特徴をとらえた画像を自動生成できるAI「mimic」をリリースしたものの、悪用を懸念する声が多く寄せられた結果、1日で配信を停止した事例などが挙げられています。
また、2023年1月には、米・サンフランシスコで複数のアーティストが、画像生成AI開発会社を「著作権で保護されたアーティストの作品をコピーし、アーティストの画風で画像を生成することにより、何百万人ものアーティストの権利を侵害している」と訴えました。この事例が示す通り、知的財産権の侵害やコンテンツ生成者への経済的影響も生成AIが生み出すリスクとして指摘されています。(※6)
こうしたリスクを軽減するには個人の生成AIに対する正しい理解やリテラシーの向上が求められるのと同時に、専門の人材の育成が急務です。しかし、コンサルティング会社のPwCが2023年12月に発表した調査結果によると、回答者の62%が「必要なスキルを有する人材不足」をかかえていることが明らかになりました。(※7)
生成AIを取り巻く環境が大きく変化し、可能性とリスクが取り上げられる中、私たちはどのような視座を持つべきなのでしょうか?
印刷会社で情報処理ソフトウェアエンジニアとして働きながら、AIと人の可能性を独自に研究する小林秀章さんは「AIで仕事を奪われるリスクより、活用することで新しい価値の実現につなげる」ことが大切だと言います。
出典:
※6 情報通信白書(令和5年版・総務省)
※7 生成AIに関する実態調査2023 秋 ―生成AIは次のフェーズへ:勝つための人材育成/確保と導入効果の追求が最重要課題― | PwC Japanグループ
まとめ
日本国内での生成AIの導入に関して、企業への浸透はまだまだで、リスクに対する温度感においても欧米との間で乖離があるようです。もちろん、リスクを検討することは大切ですが、可能性を広げ、新しい価値を生み出すためには、まず個人がリテラシーを高めていくことが欠かせません。同時に、企業も専門人材の育成に力を入れ、ルールを策定するなどしながら積極的に新しいテクノロジーを活用していくことが求められるでしょう。