築118年、文化財の廃校でプロレス!子どもから大人、みんなの夢をかなえた地域と、関係人口の力【秋田県湯沢市】
2024年9月14日、秋田県最南端の湯沢市院内地区で、「プロレスリングZERO1」による“いじめ撲滅チャリティプロレスinいんない”が、院内地域づくり協議会の主催で開催されました。今年で築118年を迎える同市指定の有形文化財、旧院内尋常高等小学校を舞台に、レスラーと子供たちの触れ合いイベントや、4試合のプロレス観戦が行われました。人口約1200人、高齢化率50%超と少子高齢化の進む院内地区で、このような大きな催しを開催できた秘訣(ひけつ)はどこにあるのでしょうか。イベントの模様と、地域づくりの裏側、地域を支える関係人口の関わりをレポートします。
「巨体が宙を舞った!」文化財の廃校で繰り広げられる本場のプロレスに子どもたちが大興奮
旧院内尋常高等小学校は、明治39年に建てられたロマネスク様式の木造校舎です。昭和54年に小学校としての役割を終えると、地域の交流の場として保存され、現在は院内地区センターとして活用されています。
地域のシンボルであり、市指定有形文化財の校舎の校庭が“いじめ撲滅チャリティプロレスinいんない”の舞台です。会場には地域内外から300人以上が集まり、院内放課後児童クラブの子どもたちによる「院内法領太鼓(いんないほうりょうだいこ)」や、リングサイドでのプロレス観戦を楽しみました。観戦者からは、「プロレスのレベルが高い」「チャリティでこんな熱い試合が見られるとは思わなかった」と驚きと感動の声が上がっていました。プロレスラーの巨体が宙を舞う姿は圧巻。子どもたちからも大きな拍手と声援が送られました。
プロレスリングZERO1は、2006年から全国でいじめ撲滅活動を続けています。今回、初めて湯沢市を訪れた馬場拓海(ばば・たくみ)選手は「夢を持って、何度も立ち上がることが大事。本当に強い人はいじめなんかしない」と子どもたちにエールを送るとともに、試合後のインタビューで「いじめ撲滅の活動で、全国の色んな地域に行きますが、市役所や老人ホームを訪問したり、地域の人との懇親会をしたのは初めてでした。地域の人たちに熱いプロレスを見せることができてよかったです」と、院内地区ならではの体験を振り返りました。
「地域にプロレスを!」10年来の夢がかなった瞬間。地域活動を楽しむ人たちの輪が大きな催しをつくる
文化財の廃校でのプロレスイベントは、地域内外で大きな話題となりました。
ZERO1誘致のキーマンである院内地域づくり協議会の柴田治(しばた・おさむ)さんは、「プロレスが大好きで、自分の地元にプロレスを呼ぶのが夢でした。今回は、それがかなった形です。なぜZERO1かと言うと、大谷晋二郎選手が掲げている『誰でも見られるプロレス』や、『いじめ撲滅』というコンセプトが魅力で、地域の子どもたちに、何度でも立ち上がる姿を見て勇気をもらってほしいと思ったからです」と、プロレスを地域づくりに活用した背景を語りました。
なぜ、このような大きな催しが可能になったのでしょうか。
「院内には、若い人から大先輩まで、地域を盛り上げたい、地域をよくしたいという人がたくさんいます。今回のイベントもスタッフは40名以上ですから、関わってくれる人がいないとイベントは成立しません。遠く(仙台や埼玉、神奈川)から来てくれるスタッフもいるので、すごい地域だと思います」と柴田さん。
関係人口も含めて、地域に人が集まり続ける秘訣について尋ねると、「やってる自分たちが笑顔で、楽しく。それが一番です。まず、自分たちが楽しくないと、来てくれる仲間、お客さんも楽しくないと思います」と、地域づくりに向き合う“姿勢”の重要性を強調しました。
多様な価値観を受け入れて生かす土壌と、地域団体の連携が院内地区の強み
かつて銀山で栄えた院内地区は、湯沢市内でも地域づくりが活発な地域として知られています。
銀山最盛期の明治時代には現在の約10倍、12000人を超える人が住んでいました。全国から多様な人が集まり都市を形成していったことから、新しい人やもの、異なる価値観を受け入れることに長けていること、ルーツを持つ人がたくさんいることが活発な地域づくりにつながっていることを指摘する識者もいます。
今回のチャリティプロレスを共催した「いんない未来塾」は、関係人口を含む地域内外の若者30名超で構成される地域団体です。副代表を務める高橋尚子(たかはし・しょうこ)さんは、「院内には、NPO法人おがちふるさと学校や、地域づくり協議会など、多様な地域団体があります。それらの団体が、『地域をよくしたい』『何か楽しいことをやりたい』という思いの下に連携をとっていることが地域の強みだと思います。また、市役所職員がいち地域住民として主体的に参加していることも大きいです。本来、素人がこういう大きなイベントを企画・運営するのは難しいのですが、色んな専門性を持った人が関わってくれることがイベントの成功につながったのではないでしょうか。普段、ほとんど人が来ない地域に人が集まることが嬉しいですし、驚きました」と、地域の強みやイベントの様子を振り返ります。
このような地域の土壌があって、「プロレスを地域に呼んで、子どもたちに勇気を持ってもらいたい」という、夢が実現するのです。
「夢がかなう地域」に関係人口として関わる
当日、リングアナウンサーとして会場を盛り上げたオッキー沖田さんは「今回のイベントは柴田さんを始め、地域の皆さんが十数年以上の長い間取り組んできたことが形になったものだと感じました。『夢をもったら、その夢が実現できる』ということを地域として体現していたように思います。熱さの中に深さがある、それが院内の魅力なのではないでしょうか。それから、米沢経由で東北中央道を通るとアクセスが良くて、『すごく遠い』という最初のイメージと違って来やすい町だな、と思いました」と、外から見た院内地区の印象を語ってくれました。
「秋田県にはもともと良い印象を持っていたのですが、地域の人に優しくしてもらえて、『また来てみたいな』と思いました」と話すのは、埼玉から6時間かけてプロレスを見に来たという藤﨑浩史(ふじさき・ひろし)さん。今回のチャリティプロレスを通じて、地域に特別な思いを持つ人の輪が広がっています。プロレスリングZERO1の運営を務める「株式会社ダイコーZERO1」の代表取締役社長の神尊仁(こうそ・じん)さんも「思った以上に熱を込めてプロレスをみていただいて感動しました。チャリティプロレスを年1回の恒例イベントにできたら面白いですね」と、まんざらでもなさそうな様子でした。
院内地区は、「夢が叶う地域」として、何か新しいことにチャレンジする人や、地域課題を解決しようとする人を応援していきます。今回のイベントを共催した、いんない未来塾では院内地区に思いを持つ「関係人口」の関わりを募集しています。
関わりしろ
・地域イベントの企画・運営支援
・団体のプロモーション活動支援
・その他、地域に関わること全般
ご興味のある方は、以下のご連絡先までお問い合わせください
いんない未来塾
公式Facebookページ:https://www.facebook.com/InnaiFutureCreation
写真は全て9月14日、筆者撮影
「あきたの物語(https://kankei.a-iju.jp/)」は、物語をとおして「関係人口」の拡大を図ることで、県外在住者の企画力や実行力を効果的に生かした地域づくりを進め、地域の課題解決や活性化を促進する事業として秋田県が2023年度から始めました。秋田県や秋田にまつわる「ローカリティ!」のレポーターや地域の関係者が、秋田県各地の人々の活動を取材し「あきたの物語」を執筆して秋田県を盛り上げています。