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湯けむりのすたるじぃ 〜記者が巡る銭湯ハシゴ旅〜

タウンニュース

午後3時の開店とともに、カウンターで常連客を待つ「富士見湯」3代目店主の白石重治さん(50)。タオルや洗面用具なども随時販売している。その前には「銭湯の定番」とも言われる大塚製薬(株)の自動販売機も稼働。存在感を放っている。なかには「ポカリ」がたくさん

なぜだろう。心惹かれるものがある。すっくとそびえ立つ古びた煙筒。北風に運ばれ、薪の燃える匂いが鼻腔に流れ込む。手繰り寄せられるように向かった先は銭湯。ここでは健康ランドやレジャー施設(その他の公衆浴場)ではなく、地域住民の日常生活で保健衛生上必要な場として利用される「ザ・銭湯」(一般公衆浴場)を指す。日本の古き良き文化だが、生活様式の変化やコロナ禍、燃料費高騰などのあおりを受け、その数は減少傾向にある。一方で、歴史と伝統を何とか次世代に残そうと奮闘する店主もいる。手足かじかむ1月下旬、市内2軒の銭湯に記者が潜入取材。そこにはポカポカとした交流があった。

「美肌と健康に」藤沢・富士見湯

湯気の向こうに見えるのは、壁一面を彩る巨大な西洋画タイル。「ケロリン」の文字が踊る桶で湯を一杯にすくって肩にかけると「嗚呼」。思わず声が漏れる。「超軟水の湯〜美肌と健康に〜」という説明書きによると、肌に優しく保温・保湿に優れているという。超音波風呂や気泡風呂、座風呂、寝風呂、水風呂、サウナもある。

終戦した1945(昭和20)年に創業した「富士見湯」。藤沢駅北口徒歩7分に立地し、3代目の白石重治さん(50)が店主を務める。祖父の竹次郎さんが開店。重治さんは20歳から父・武志さんと共に働き、40歳の時に代を受け継いだ。

開店当時は風呂のない家も珍しくなく、暖簾を掲げる前から客が列をなすなど、戦後の暮らしぶりを如実に表していた。「『サザエさん』のように3世代で暮らす家庭が多く、『順番を待っていられない』というおじいさんが来ていた」。重治さんは幼い頃の記憶をこう振り返る。

現在は早い時間に高齢者、日が暮れるとサラリーマンが利用するそうだ。飲食店で働く人も多く、裸の付き合いで「今度食べに行くよ」と客同士のつながりもあるという。「常連さんの中には『あの人、きょう来てないな。家行ってみようかな』と他人を心配する人もいる。高齢者の独り暮らしが多い世の中で、銭湯は安否確認の意味合いもあるのかもしれない」と重治さんは語る。

一日の仕事の流れは、起床後すぐに水を張り、湯を沸かし、タオルを畳むなど開店準備に取り掛かる。カウンターに座り、接客。閉店後は売上整理、そして掃除、掃除、掃除。タワシ一つでも清潔に洗い、乾かす。

かなり重労働だが、「気持ちよかった」「ありがとう」という客の声が両足を支えている。

最近では外国人客も訪れるという。「興味はあるが、恐る恐る入口からのぞく人も見かける。いつ来ても、いつ帰ってもいい。ここは自由に語り合う憩いの場。気軽に利用してもらえれば」

【店舗情報】藤沢1003の8/営業時間午後3時〜10時/木曜定休

「地下100mの水」亀井野・栄湯

「窯の温度は70℃。風呂の温度は42℃。薪をくべるのは20分に一度」。燃え盛る炎の前で玉の汗を頬に伝わせるのは、北橋節男さん(65)。「地下100mの水」を沸かし、客からは「肌触りがいい」と評判の「栄湯湘南館」の店主だ。

時は大正末期、祖父の栄太郎さんが自身の名から一字取り、藤沢駅前の線路沿いに「栄湯」を開店した。「当時は駅周辺に味のある銭湯が5〜6軒あった」と節男さん。その後、父の英信さんが一面畑だった六会日大前駅近くに、農家をターゲットとした「第二栄湯」を構えた。節男さんは社会科の高校教師だったが、英信さんが病気を患ったため、25歳で代替わりすることになった。

広々とした休憩処には書籍がずらり。地域共生社会推進のために市が取り組む「地域の縁側」事業に参加し、毎週木曜に客が本を読んだり、話し合ったり、南こうせつなど懐かしのレコードを回したりする。学生街に位置していることもあり、70年代は「四畳半フォーク」に象徴される『神田川』(かぐや姫)の一節にある『横町の風呂屋』を目掛け、ここを訪れるカップルもいたという。

”ちゃぷ”。湯に浸かるひと時の癒しが記者を饒舌にし、隣にいた客と話すまで時間は掛からなかった。40代前半の男性は「いや〜、足を伸ばせるから疲れが取れるね」と口にする。老いも若きも男も女も初対面でも心が通う場だからこそ、銭湯は人の心を捉えて離さないのかもしれない。

「別に儲けたい訳ではない。お客さんとコミュニケーションを図って、共に生活していきたいだけ」と節男さんは言う。帰り際に”ひょい”と渡された「ポカリ」。記者は老人のようにしわしわになった手でそれを受け取り、額に当てた後に一口含むと、優しい甘さに涙が出そうになった。ボトルを逆さにし、さまざまな思いと一緒に飲み干すと、カウンター越しに看板娘の花子さん(88)がにこりと笑った。

【店舗情報】亀井野1の10の13/営業時間午後3時〜10時/火曜定休

県内107種カードゲット

県公衆浴場業生活衛生同業組合主催の企画「推し活さがしIN神奈川銭湯」が現在、県内の組合員店舗107カ所で開催されている。初の試み。3店舗を回りスタンプを押すと、各店の写真や情報がまとめられたオリジナルトレーディングカード2枚1組(最後にスタンプを押した銭湯1枚とランダムカード1枚)がもらえる。レアカードも用意されている。

実施期間は6月まで。

栄湯湘南館の入口(上)と天井の高い風呂場
温かみのある木目と灯りのサウナ
小上がりの畳の上に”ちょこん”と腰掛け、「地域の縁側」のチラシを手にする3代目店主の北橋節男さん(65)。元高校教師で読書好きということもあり、休憩処には絵本や漫画、小説などがずらりと並んでいる。「居心地の良い場になれば」と地域住民らと交流を深めている

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