Yahoo! JAPAN

三浦半島に眠る戦跡に焦点 在野の研究者 ガイド本製作

タウンニュース

海軍電灯と呼ばれていた「伊勢山崎探照灯」。防衛大学校の走水海上訓練場のとなりにある

明治初期から太平洋戦争の終焉まで、首都防備を目的に三浦半島各所に築かれた軍事施設の遺構、いわゆる戦争遺跡(戦跡)を紹介するガイド本の発行に東京湾要塞研究家のデビット佐藤氏が挑んでいる。戦争の負の遺産として捉われがちな建造物などに光を当て、軍事的な役割だけでなく、歴史的な価値も後世に伝える。製作費用の一部を捻出するためにクラウドファンディングを活用して、取り組みの共感者を広げていく考え。太平洋戦争の終結から80年となる今夏の完成を目指している。

「埋もれさせてはいけない」

戦跡には、大砲が置かれていた砲座や弾薬庫、観測場や兵舎などの遺構のほかに戦没者の慰霊塔などがある。戦争の歴史を伝える史料として、行政や団体が管理しているものもあれば、忘れ去られて放置状態になっているケースも少なくない。

「埋もれさせてはいけない」──。

佐藤氏は、明治以降の要塞を専門的に研究している人がほとんどいないことを知り、約20年前に本格的な調査に乗り出した在野の研究者。知り得た情報は個人で開設したホームページ「東京湾要塞」(【URL】https://tokyowanyosai.com/)で公開。2018年からは本紙連載コーナー「東京湾要塞地帯を行く!」で三浦半島の戦跡を紹介している。

自費出版する今回のガイド本は、80回を数える先の連載原稿を加筆修正して再構築し、写真を中心に平易な言葉でわかりやく解説する。単なる史料ではなく、自分の足で現地を訪れて五感で感じてもらうことに主眼を置く。理解をより深めるために、ガイド本をテキストにした戦跡ツアーの造成なども視野に入れる。

佐藤氏を駆り立てるのは危機感だ。「身近にある戦跡も開発や経年劣化により、次々と消失していく」。現実的な見方として、数多ある戦跡を保存していくことは難しいが、「誰かが遺していかなければ、戦争があったことすら風化してしまう」というのが佐藤さんの考え。戦跡は何も語らないからこそ、「事実を事実として正確に伝えていくことが必要」だと唱える。

ガイド本には、戦跡の保存活用について考える対談なども計画している。追浜地区で海軍航空隊の施設として掘られた「貝山地下壕」の見学ツアーを実施しているNPO法人アクションおっぱまの昌子住江理事長との意見交換を通じて、未来志向の提言を発信する考えだ。

「井上塾」元塾生の証言記録も

関連企画として、終戦後、長井地区で隠棲生活を送った”最後の海軍大将”こと井上成美(1889〜1975年)に関する取材も進めている。

井上は戦争の責任を強く感じて表舞台から身を引く一方、地域の子どもらに英語を教える塾を開き、実直な性格から多くの信頼と尊敬を集めたことで知られている。

当時の塾生らが「井上成美氏を語り継ぐ会」を組織し、井上の教えや行動を後世に残す活動を行ってきたが、大半が80代後半となり、思い出を語れる人が少なくなっていることから証言記録をまとめる。塾のあった邸宅(資料館)が昨春に取り壊され、貴重な資料が散逸しかけたこともあり、今回のガイド本の中に盛り込むことにした。

支援を求めるクラウドファンディングは1月中旬にスタートさせる。

【関連記事】

おすすめの記事