未就学児~小学生【探索絵本や迷路】が大好きな理由 子どもといっしょに大人も読もう! 「見えていなかったもの」が見えてくる効果〔出版ジャーナリスト〕が解説
出版ジャーナリスト・ライター飯田一史おススメの本連載。4回目は大人もハマる! 探して楽しむ「迷路」「探索」絵本3選です。
探して楽しむ「迷路」「捜索」絵本3選を画像で見る出版ジャーナリスト・飯田一史さんに、親子で読みたい「迷路・探索絵本」を3作選んでもらいました。
「未就学児から小学生くらいまでの子どもは、自分で考えたり、手を動かしたりする本が好きです。物語のなかにちょっとした迷路やクイズ、まちがいさがしがあるものもめずらしくありません。子どもはどうしてこの手の本が好きなのでしょうか。定番や最近のヒット作をいくつか紹介しながら、このことについて考えてみたいと思います。
また、迷路や探索型絵本を子どもといっしょに読むことは、私たち大人にとっても実は発見があるものだということもお伝えしていきます」(飯田さん)
小さい子から小学生まで鉄板の『ミッケ!』
『ミッケ!』
写真:ウォルター・ウィック、文:ジーン・マルゾーロ、デザイン:キャロル・D・カーソン、訳:糸井重里(小学館)
シリーズが日本で1992年に刊行され、始めてから今でも支持されている探索型絵本のロングセラーが『ミッケ!』です。
「絵のなかにいる猫を○匹見つける」といったものですが、意外とむずかしい!
子どもに限らず大人も「課題が与えられ、解いて正解にたどりつく」こと自体によろこびを覚えるものです。
ところが、大人は「これをやることが、人生にとってどんな意味があるのか」とか「何か将来の役に立つのか」といった「意味」にとらわれています。子どもにはそういう雑念がありません。
シンプルに「問題にチャレンジして、できたらうれしい」という感覚が強い。大人よりも子どものほうがゲームに夢中な子が多いのも、そういう理由だと思います。
なお、集中して観察し、指でなぞることは脳の発達をうながすと言われています。ですから、子どもが迷路や探索型絵本を読む(やる)意味は十分にあります。
「乗り物」×「迷路」組み合わせ『乗り物の迷路』
『乗り物の迷路』
著:香川元太郎(PHP出版社)
子ども、とくに男子は乗り物、なかでも電車やさまざまなクルマが好きなことが多いですよね。それと迷路を合体させています。これでウケないわけがありません。
さらにこのシリーズでは、同じ見開きの迷路の解き方(ルート)が複数あり、隠し絵やクイズまであります。何回も楽しめるようにできているわけです。
本全体をつらぬくストーリーもあります。
子どもはだんだん年齢を重ねていくと、自分で手を動かしたり頭を使ったりするよりも、フィクションのなかに没頭するのを好むようになっていきます。
中高生以上になると、異世界ファンタジーのマンガや小説も人気になります。
一方で、小学生までは、現実世界とつながりがない、フィクション然としたファンタジー作品はなかなか入っていきづらい、という子が少なくありません。
小さいうちは自分以外のさまざまなキャラクターの心理を想像するのが脳の発達段階的になかなかむずかしい。第三者的に物語を読み進めるのはまだあまり得意ではありません。
ですから迷路を解くなどして自分でお話をうごかしている、体験している感覚が得られるほうが、本の世界と自分が今いる世界がつながっているような気持ちになれる。そちらのほうが、入っていきやすい。こういうことだと思います。
もし仮に、名作と呼ばれるような児童文学に見向きもせずに迷路絵本が好きだったとしても、そこはやさしく見守ってあげてください。
大人も迷路や探索から得られる気づきがある
また、迷路や探索型絵本は、子どもに渡しておしまいにするのではなくて、ぜひ大人もいっしょにやってみてほしいと思います。
いっしょに読むと、大人が忘れていたり、失われてしまったりした目の使い方、画面に対する注意の向け方に気づかされます。
大人になるにつれて、問われたひとつのことに集中することはうまくなっていきます。けれど、ひとつの絵の全体を見る、あるいは問われてもいない細部のあちこちを見て気づくことは苦手になっていく。
しかし、子どもの視線や関心はあっちこっちに飛びます。そしていろいろな発見をします。日常生活では、こちらが急いでいるときに子どもがいきなり空を見上げて「あ、飛行機が飛んでいる!」とか、道ばたに咲いた花を見て「虫がついている!」と気づいて立ち止まられると「そんな時間ないのに」とイラッと来ることもあるかもしれません。
でも私たち大人は、テキパキ時間どおりに物事を進められるようになった代わりに、見落としているものも増えているのです。
子どもといっしょに迷路や探索絵本を読むことは、視野を広げ、ちょっとした変化、細かいところまで見る能力をとりもどすきっかけになります。
子どもは直感で判断『どっち?』
『どっち?』
著:キボリノコンノ(講談社)
この本では、写真にうつる食べもののうち、ひとつだけ木でつくったものが混ざっています。どっちが本物の食べもので、どっちが木なのか? これを楽しむ本です。
私たちはふだん、パッと見で「おいしそう」とか「おいしくなさそう」とか「あやしい」「ちゃんとしてそう」などと判断しています。ただ、それを言語化する機会はあまりありません。
そういう感覚をほかの誰かと共有するとなると、ますますないのではないでしょうか。あったとしても、直感で思ったことをうまく言葉にできなかったりします。
しかし、違和感に敏感になること、それを言語化できることは、生きていくうえで重要です。
子どもといっしょに「こっちは木じゃない?」「木のほうが食べものよりギュッと詰まってるし、水分も少ないから光の反射のしかたが違うと思うんだよね」などと推論も含めて話し合うと、おもしろいですし、微細な違和感を言語化する練習をすることは仕事などにも役に立つかもしれません。
迷路を見るような目で絵本や図鑑や日常を見る
迷路や探索型絵本を子どもと見たあとで、そうではない絵本や図鑑を眺めると、今まで気づかなかった細部にも目がいくようになります。
たとえば『小学館の図鑑NEOアート 図解 はじめての絵画』(小学館)を見ると、有名な絵画がもつ情報量のゆたかさに気づかされます。ページが浮かび上がったり飛び出てきたりはしませんが、じっくり見ていくと、謎や問いかけ、しかけに満ちています。
あるいは、『バムとケロ』著:島田ゆか(文渓堂)では、画面のあちこちで実にいろんなことが起こっています。物語に集中して読んでいるときと、それはいったん置いておいて絵として眺めたときには、気づく描き込みのポイントが違います。
子どもといっしょに、野菜や果物を組み合わせて貴族や王様を描いたアルチンボルドの絵や、ボッスやブリューゲル、ヤン・ファン・エイクといったフランドルの画家の画面の細やかな描写を見ながら、「あ、こんなところに人がいる」「なんでこんなことしているんだろうね」などと話すのも、お互いにとって有意義な時間になるでしょう。
そして迷路や探索に臨むような目線で、子どもの状態やご自宅のあちこちを見てみてください。「意外と見えているようで見えていなかったな」と感じるところが見つかると思います。
子どもの本、子どもといっしょに本を読む時間は、大人がふだん忘れてしまっている目の使い方、意識の向け方を思い出させてくれます。
文/飯田一史