激渋テーマなのに批評サイトで「97%高評価」の理由とは?実在の開拓者をマッツ・ミケルセンが熱演『愛を耕すひと』
18世紀デンマーク開拓史の重要人物
「北欧の至宝」という枕詞も不要となった世界的名優、マッツ・ミケルセンの主演作『愛を耕すひと』が2月14日(金)より公開中だ。第96回アカデミー賞で国際長編映画賞デンマーク代表に選出された本作で描かれるのは、マッツの母国デンマーク開拓史の英雄と呼ばれる実在の人物である。
18世紀デンマーク。退役軍人のルドヴィ・ケーレン大尉は、貴族の称号を懸け、ひとり荒野の開拓に名乗りを上げた。しかし、それを知った有力者フレデリック・デ・シンケルが、ありとあらゆる手段でケーレンを追い払おうと躍起になる。襲いかかる自然の脅威とデ・シンケルからの非道な仕打ちに抗いながらも、しかしケーレンは開拓を諦めない。
やがて、シンケルのもとから逃げ出した使用人の女性アン・バーバラや、家族に見捨てられた少女アンマイ・ムスとの出会いにより、ケーレンの頑なに閉ざした心に変化が芽生えてゆく。つらく厳しい挑戦の果てに、それぞれが見つけた希望とは……。
マッツ・ミケルセンは映画ファンの期待を裏切らない
本作はおそらくフレデリク5世の時代、しかも史実をベースにしたデンマーク開拓時代という渋いテーマにも関わらず、辛口で知られる某レビューサイトで批評家スコアと観客スコアともに95%超えという驚異的な支持を得ている。その高評価の大きな理由の一つがマッツ・ミケルセンで、「マッツは当然のように素晴らしい」という信頼感が伝わってくる。どんな作品でどんな役を演じていても観客を釘付けにする、唯一無二の存在感に抗うことはできない。
そんなマッツが開拓に挑む荒野ヒースは「岩と砂しかない不毛の地」という表現がいっさい大げさでないレベルの不毛ぶり。その広大さも相まって絶望するしかなく、しかもそれがズズーンとオープニングのタイトルバックになっていて、序盤から卒倒しそうになる。
そこに重なる原題『Bastarden』は、“出自のはっきりしない者”というケーレンの存在を示す。なお英題は西部開拓になぞらえた『The Promised Land(約束の地)』というもので、「困難への挑戦」「苦しみに耐える不屈の精神」といった宗教的背景は開拓精神とも繋がってくる。
開拓者マッツ、わるい貴族に邪魔されまくる
たったひとり手動のドリルで地面を掘り、手強い雑草を根こそぎ刈り、開墾に適した土壌を確認したケーレン。使用人も雇い、やっと生活基盤が整いはじめたところで、悪徳領主のデ・シンケル(シモン・ベンネビヤーグ)が“悪人でござい”とばかりに分かりやすく登場。タランティーノの『ジャンゴ 繋がれざる者』でディカプリオが演じた領主キャンディが優しく見えてくるほどの悪辣ぶりで、観客の憎悪を一手に引き受ける。
虐げられるタタール人のコミューンと交流し、たびたび盗みをしていたロマ族の少女を家族として受け入れる展開は微笑ましく、いわゆる“わるい貴族”の横暴に辟易している婚約者、忠誠心のない手下といった設定にはマンガ的なケレンみもある。例えば、漫画「ヴィンランド・サガ」とは時代背景こそ違うが実在の開拓者という点で共通しているので、開拓の過酷さや不条理な身分制度などもイメージしやすいだろう。ちなみに時代も時代なので容赦なく血を見せるし、顔を背けたくなるようなシーンもなくはない。
アマンダ・コリンの“血まみれ”熱演に注目
絵に描いたようなカタブツから次第に滲み出る人情を見事に表現したマッツと並んで素晴らしいのが、ロマンス展開も担う使用人アン・バーバラを演じたアマンダ・コリン。本作のアーセル監督が脚本を務めた『特捜部Q』シリーズや、リドリー・スコットがプロデュースするドラマ『レイズド・バイ・ウルブス/神なき惑星』で知られつつある彼女だが、本作での鬼気迫る存在感はとくに必見だ。
「18世紀デンマークの……」と聞くと小難しい歴史ものかと思うかもしれない。だが日本人も世界名作劇場や連続テレビ小説といった下地があるので、主人公が不条理なほどヒドい目に遭うお話はある意味とても受け入れやすかったりする。本作のキービジュアルにもなっているマッツの複雑な表情がどのシーンのものか、そして“愛を耕す”の意味するものが分かったとき、悔しさや悲しさに安堵が混じったような感情に涙を堪えられないだろう。史実ベースながらしっかりエンタメもしているので、安心して劇場へ“マッツ詣で”に行ってほしい。
『愛を耕すひと』は2月14日(金)より全国公開中