職場にいる「性格の悪い人」への対処法は? 心理学者・小塩真司先生の見解に目からウロコ
さまざまな人間関係で成り立つ職場では、自分にネガティブな振る舞いをしてくるような、いわゆる「性格が悪い人」と出会う機会もあるでしょう。
一方で、仕事をスムーズに進めるためには、時に「性格の悪い人」ともうまく付き合っていかなければなりません。
では「性格の悪い人」に、私たちはどう接していくべきなのか。
「性格の悪い人」の“攻略法”はあるのか。
そんな疑問にお答えくださったのが、著書『「性格が悪い」とはどういうことか』(ちくま新書、2024年)で人間のダークな一面を掘り下げた心理学者の小塩真司先生。
今回、小塩先生から学んだのは「性格の悪い人」の攻略法……ではなく、「性格」って絶対的なものなんだろうか? と疑えるような、また「性格」と気楽に付き合えるような視点の数々です。
最後まで読むと、苦手なあの人のことをちょっと見直せる。そんなインタビューになりました。
小塩真司(おしお・あつし)さん。早稲田大学文学学術院教授。1972年、愛知県生まれ。名古屋大学教育学部卒業後、同大学院教育学研究科教育心理学専攻修了。博士(教育心理学)。中部大学准教授などを経て現職。著書に『性格がいい人、悪い人の科学』(日経プレミアシリーズ、2018年)、『性格とは何か――よりよく生きるための心理学』(中公新書、2020年)、『「性格が悪い」とはどういうことか』(ちくま新書、2024年)など。
絶対的に「性格の悪い人」は存在しない
──そもそも、周囲から「性格が悪い」と思われがちな行動や発言は、どのような心理に由来するのでしょうか?
小塩真司先生(以下、小塩):前提として「性格が悪い」というのは、結果的に周囲がそう判断しているだけで、当人だけに原因があるわけではない、と伝えたいです。
私たちは誰しも「この人は性格が悪い/いい」と人のことを判断しますが、その判断の根拠は仕事中・授業中など限られた場面であらわれる特性です。だから、状況次第で印象は大きく変わります。印象は本人が持っている特性と状況との掛け合わせでつくられるので、もし状況が劣悪であれば、大抵の人の性格が悪く見える可能性すらあるわけです。
──たしかに、ある人が職場の同僚から「性格が悪い」と思われていても、パートナーからは「やさしくて誠実」と思われているようなケースもあるでしょうね。
小塩:はい。ただし、確率的に多くの人に悪影響を与えたり、悪い結果に結びついたりしやすいダークなパーソナリティ特性というものは存在していて、それらは「マキャベリアニズム」「サイコパシー」「ナルシシズム」「サディズム」の4つに大別できます。
それぞれ簡単に説明すると、マキャベリアニズムとは、自己利益を最大化させるため戦略的に他人を利用する特性で、サイコパシーは冷淡で他人に愛情を注がず、配慮に欠き、自責感や良心の呵責を抱きづらい特性です。ナルシシズムは「自分は人より優れており、特別扱いされる権利がある」と考えるのが特徴です。また、サディズムは他人が苦しんでいるのを見てうれしくなったり喜びを感じたりする特性を指します。
【ダークなパーソナリティ特性】 ・マキャベリニアニズム……自己利益最大化のため、戦略的に他人を利用する特性 ・サイコパシー……「自分は人より優れており、特別扱いを受ける権利がある」と考える特性 ・ナルシシズム……冷淡で他人に愛情を注がず、配慮に欠き、自責感や良心の呵責を抱きづらい特性 ・サディズム……他人が苦しんでいるのを見てうれしくなったり喜びを感じたりする特性
──そういったダークな特性は、多かれ少なかれ誰しもが持っているものなのでしょうか?
小塩:そうですね。身長や体重と同じだと考えてください。なかにはすごく背の高い人やすごく体重の軽い人もいますよね。けれど「◯cmから高い」という明確な基準はない。低い数字から高い数字まで連続的に人々が並んでいるなかで、それぞれに個人差があると考えれば分かりやすいのではないでしょうか。
「嘘=悪いこと」「正直=いいこと」という価値観は矛盾している?
──では、私たちは他人のどのような側面を見て「性格が悪い」と判断しているのでしょう?
小塩:著しく自己利益を追求したり、他人を蔑ろにして自己中心的な行動をとったりする場面を見た時に、そう感じることが多いのではないかと思います。それは先ほど説明したダークなパーソナリティ特性に共通する要素でもあります。
──そういった「性格が悪い」とされがちな言動や行動は、どのような理由で増えていくのでしょうか?
小塩:なかには、自然と詐欺師らしくなっていく人もいるんですよ。そもそも、「嘘をつくのは悪いことで、正直なのはいいことだ」と皆さん当然のように思っているかもしれませんが、実はそれってすごく矛盾しているんですよね。
例えば、おばあちゃんがクッキーを作って孫にプレゼントしたとします。この時、孫がおばあちゃんに「これマズいよ」と正直に伝えたら、おそらく親は「そんなこと言うんじゃない」と叱りますよね。子どもはそういう経験を繰り返すことで、TPOに合わせて本音を言ったり言わなかったりするように育つわけです。本音を言わなかったとしても、周りの人がそれを歓迎すれば、本心の隠し方はどんどん洗練されていきます。本心を隠したまま、相手を気持ちよくさせて自己利益に誘導することだってできるようになる。つまり、だんだん詐欺師に近づいていくわけです。
──たしかにその通りですね……。ビジネスシーンにおいても、そういった特性が結果的にポジティブに作用する場面はあるのでしょうか?
小塩:結果的にコミュニケーションがうまくいくか、会社の利益になるかどうかで良し悪しが決まるならば、どんなパーソナリティ特性がポジティブに作用するかは目的によるでしょうね。例えば、会社をどんどん大きくしていきたいフェーズでは、地道に実績を積み重ねる人よりも、あまりリスクを考えず衝動的に動ける人のほうが有利かもしれませんし。
「性格の悪い人」に個人ができるのは、距離を置くことだけ
──「性格が悪い」というのが一元的・絶対的なものではないことがよく分かりました。では、いわゆる「性格の悪さ」を「自分本位で動き、自己利益を追求する」傾向だと仮定するなら、職場にそういった人がいた場合、同僚として付き合う上では何を意識すればよいのでしょうか?
小塩:うーん……そんな人と絶対付き合わなきゃいけないんですかね(笑)。表面的なやりとりをしている限り自分や周囲に被害が生じないのであれば、特に問題ないじゃないですか。同じチームで働くとなると、多少のリスクは考えなければいけないのかもしれませんが、先ほど話したように、その人が他のシチュエーションではまったく違う印象に映る可能性だって十分にあるわけです。現代人は「タイパ」を求める傾向が強いので、相手の内面をその場ですぐに理解したい、と感じる人も多いのかもしれませんが、それは人間のさまざまな可能性を排除し過ぎている気もします。
ただ一つ言えるのは、ハラスメントになりうる言動・行動に関するルールは組織が明確に決めるべきだということです。いまは多くの組織でそういったルールが定められていて、(自分が所属する)この早稲田大学でも仮にハラスメントを訴える人がいた場合、委員会の中で詳細に検討が行われていきます。つまり、「この言動・行動はこの環境においては明確にNGです」という尺度さえあれば、多くの人が自分の言動・行動をセーブすると思うんです。
──まずはハラスメントを許さない制度を設計する、というのはたしかに重要ですね。一方で、明確にハラスメントとは言い難いものの、チームの士気を下げるようなことを言ったり、不機嫌さを周囲に撒き散らしたりする人も中にはいると思います。そういう人への対処法はあるのでしょうか?
小塩:そういった振る舞いが「評価の対象」になる、ということをきちんと示したほうがいいでしょうね。周囲の士気を下げるような言動をやめない人は基本的に他人のフィードバックがないからずっと続けてしまうわけですが、それを受けて嫌だと感じている人が当人に直接フィードバックするのは難しい。それなら、上司などがきちんと個人をモニタリングして「その言動は悪い評価の対象になりますよ」と伝えるべきですよね。
まとめると「性格の悪い人」に対して個人ができるのは、距離を置くことだけだと思います。表面的な付き合いに留めておく。本人にアプローチして変わってもらおう、とは思わないほうがいいんじゃないでしょうか。
──「性格が悪い」と感じた相手にそれを指摘するのは、あまり効果的ではないのでしょうか?
小塩:これもよくある誤解なのですが、人の行動と内面って必ずしも一対一で対応しているわけではないんですよ。例えば、プロジェクトの成功を重視するあまり、周りに厳しく当たってしまう人がいるとします。そのやり方自体はもちろん問題ですが、自己利益を追求して他人を顧みないダークなパーソナリティ特性が強く出ている、というわけではないですよね。反対に、自己利益を追求する人が非常に人当たりよく、周囲に好印象を与えている場合もあるわけです。本当にダークなパーソナリティ特性の持ち主が、企業の中ではなんの問題も起こさず周囲とうまくやっている可能性だってある。
だから、相手の内面がどうであれ、問題のある振る舞いをする人がいるのだとすれば、それを直してもらうためのシステムが整備されてさえいればいい、ということになりますよね。
──内面と振る舞いは分けて考えられる、というのは言われてみると腑に落ちます。では、自分が周囲から「性格が悪い」と思われないよう気をつけるべきは、内面ではなく振る舞いなのでしょうか?
小塩:まさにそうですね。それに一つ付け加えるなら、「性格が悪いと思われたくない」とあまり気にし過ぎなくてもいいんじゃないでしょうか。先ほど話したように、私たちは「こういう状況では本音を言ってもいい/言ってはいけない」と幼少期から教育され、それをちゃんと理解した子どもが「人当たりがいい」と評価されるわけです。逆に、そういう場面にあまり遭遇してこなかったり、いつでも正直に自分の思ったことを言いなさいと教育されてきたりした子は「人当たりが悪い」「性格が悪い」と評価される可能性もある。
つまり、場面に応じて適切な言動をとることができるような、コンテクストに敏感な人が「いい人」と思われがちだけれど、別の観点からすればそれって本心を隠している人ですよね。ですから皆さん「自分は正直に喋っている」と思い込んでいるだけであって、誰しも日常的に嘘はついているわけです。だからこそ、内面にフォーカスするのはあまり意味がないと言えるんです。
「相性の良し悪し」だけで人を判断しようとするのは“問題”
──ちなみに、小塩先生個人としては、職場に「性格が悪い」と感じる人が多く消耗している場合は、転職を考えたほうがいいと思いますか?
小塩:まずは制度を整備するよう職場に働きかけてみることは必要だと思います。そのうえで、どこかで折り合いをつけるしかないわけですが、居心地が悪く、常にストレスを感じる環境であれば転職も一つの解決策ですよね。
──異動や退職、中途採用などでメンバーは入れ替わるものですが、そうは言っても「性格の悪い人が多い組織に身を置きたくない」と考える人もいると思います。組織の規模や企業風土、働いている人のカラーなど、あらかじめ見ておくとよいポイントはありますか?
小塩:スタートアップなどであれば経営者の特性が企業風土に直接影響する場合もあると思いますが、もう少し大きな組織になってくると、経営者の特性とは異なる雰囲気が醸成されることも多いですよね。働くとは本来的に「組織と人のマッチング」ですから、実際に中に入ってみて働かないと分からないこともある。だから本当は、インターンシップのようにお試しで働くのが理想的だと思います。
転職で大切なのは環境と自分の特性とのすり合わせですが、どんな特性がどんな環境で出るかはその環境に入ってみるまで予測がつきません。ですから人生をより豊かにするためには、「やってみないと分からないこともある」と思っておくことも大事でしょうね。
──今回小塩先生にお話を伺って、性格や人と人との組み合わせというものがいかに多面的か、改めて気付かされました。
小塩:「いい性格」「悪い性格」と単純に分類するのではなく、あくまで「自分からはよく/悪く見えている」と考えたほうがいいのではないでしょうか。自分には相手の一部分しか見えていないということを忘れないほうがいい。
最近、マッチングアプリなどの影響でネットの性格診断がとても流行っていますが、自分と相性がいいか悪いかだけで人を判断しようとする傾向も問題だと思って見ています。どんな相手と接するにしても、ただ「相性が悪い」のひと言で済ませて、関係構築のための努力をしないのはもったいないです。そもそも、どんな人間関係も双方の努力なしには成り立たないと思うんです。すごく相性が悪いと思い込んでいる人であっても、一対一で飲みに行ったら意外と意気投合するかもしれないですからね。
「性格」をフラットに考えることで、さまざまな人と渡り合えるメンタルやコミュニケーションスキルも身に付くはず。そして、その積み重ねがキャリアアップにも直結してきます。マイナビ転職には「給与アップ」を実現する求人が数多く掲載されています。ぜひチェックしてみてください。
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取材・文:生湯葉シホ
写真:小野奈那子
編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職
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