内に潜む「LOVE」の感情を華やかなファッションで表現 ― 京都国立近代美術館(読者レポート)
ジュンヤ・ワタナベ/渡辺淳弥 2000年秋冬
ロエベ/ジョナサン・アンダーソン ドレス(部分)
京都国立近代美術館(MoMAK)と京都服飾文化研究財団(KCI)による展覧会「LOVE ファッション―私が着がえるとき」が始まりました。1980年の「浪漫衣裳展」から9回目となるコラボレーション企画。美術館でのファッションに関する展覧会は当初は珍しく、まさにこの企画シリーズが、最近頻繁に開催されるファッション関連展への先駆けといえます。
会場風景 帽子や靴などの小物も約20点展示されている
会場風景
前回開催された2020年の「ドレス・コード?—着る人たちのゲーム」展では、服(ファッション)を着ることの約束事や、他人・社会から自分がどう見られているか、見られたいかがテーマとして掲げられていました。
まさにコロナ禍の中、「マスク」というドレス・コードを背負い、ファッションだけでなく、他人、社会の目を常に意識し、距離を探りながらの生活を送っていたときでした。
コム・デ・ギャルソン/川久保玲 1997年春夏
しかし自分と他者との関係だけにファッションを位置づけることは無理があります。元気を出したいからビタミンカラーを着る、一目ぼれしたデザインをどうしても着こなしたい…そんな自分の中の情熱、願望をファッションはいつも受け止めてくれます。本展は、この自分の内に潜む感情「LOVE」を「自然にかえりたい」「きれいになりたい」「ありのままでいたい」「自由になりたい」「我を忘れたい」という5章立てで華やかなファッションを見せてくれます。
ウエストコート 18世紀後半 コートの前明き部分に見えるウエストコート。男性服にも刺繍で花の模様がふんだんに使われた
18世紀の花の刺繍の宮廷服、ウエストを極端に絞ったドレスなど、300年も前の衣裳から現代にいたるまでの服、小物を見れることは圧巻です。19世紀の身体美を探求したコルセット、自分をさらけ出すようなデザインを極限までそぎ落としたファッション、非日常感をまとうデザインなど、服を着ることで得る感情は時代を越えて共通しているとしみじみ感じられます。
松川朋奈 《私が当時そうだったように、彼女も今は気づかないでしょう》2024年
奥のピンクのカーテンは現代美術作品 シルヴィ・フルーリー《フィッティング・ルーム》2023年
ファッションだけでなく、各セクションには現代アート作品が展示されているのも見逃せません。現存作家による作品は、今を生きる〈わたし〉が切り取られているよう。通常の鑑賞で感じる「作品」対「わたし」ではなく、作品と私が重なりあうような感覚になれます。また小説や漫画、インタビューの一節が活字として会場のあちらこちらに設置されているのも、自分の感情を確認したり、より盛り上げてくれる役割を担っています。
会場風景 手前はヘルムート・ラングのデザイン、奥は松川朋奈の絵画作品
今回、マネキンに着せずに展示されている作品が多くあることも鑑賞のポイントです。他人(マネキン)が着用したイメージではなく、服そのものと自分を対峙し、イジネーションを膨らませることができます。特にヘルムート・ラングの「下着ファッション」は形のおもしろさ、着たときのイメージなど見飽きることがありません。ミニマルなデザインとイメージの広がり方が反比例。心が躍りました。
ウォルト店/ジャン=フィリップ・ウォルト ドレス、ヘッド・ドレス、ドレス・オーナメント 1912年頃
本展はこのあと熊本、東京へと巡回しますが、1912年頃のメゾン「ウォルト店」の仮装用衣装(蝶)、そしてトモ・コイズミによる、東京2020オリンピック開会式で歌手MISIAが着用したドレスはこの京都だけの展示です。 暑い暑い夏もそろそろ過ぎてくれる頃。ということでファッションを楽しめる季節の到来です。
コム・デ・ギャルソン/川久保玲 2020年春夏
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2024年9月12日 ]