来日公演中!ロンドン3大パンクバンドのひとつ【ザ・ダムド】の知っておきたい基礎知識
レコードデビュー48周年を迎えるロンドン3大パンクのひとつザ・ダムド
ロンドン3大パンクのひとつと言われるザ・ダムド(以下、ダムド)が絶賛来日中だ。
東名阪をツアーし、3月17日には、Hi-STANDARDやSUM 41、NOFXらと、パンクに特化した一大フェス、『PUNKSPRING 2024』に出演する。
これまで幾度となく来日公演を実現しているダムドだが、今回のツアーメンバーは結成時のオリジナルメンバーであるデイヴ・ヴァニアン、キャプテン・センシブル、ラット・スキャビーズに加え、彼らのキャリアの中で象徴的に音楽を深化させ1980年から1983年に在籍し、2018年にバンドに復帰したポール・グレイということで、ファンの間では期待度が高まっている。
日本での形容になるのだが、ロンドン3大パンクバンドとは、セックス・ピストルズ、クラッシュ、そしてダムドが挙げられる。セックス・ピストルズは、オリジナルアルバムを1枚だけ残し、1978年のアメリカツアーを最後に事実上解体。そしてクラッシュは “パンク・イズ・アティテュード” という言葉と共に多様性を拒まず、ファンクやヒップホップに接近しながらアメリカではスタジアム級のバンドとして活動の場を広げていった。そんな中、ダムドはクラッシュとは相反するストリートの奥深い音楽スタイルを取り入れながら、孤高の存在となっていく。そして2024年はレコードデビュー48周年を迎える。
「ニュー・ローズ」からロンドンパンクは本格的に動き始めた
彼らのファーストシングル「ニュー・ローズ」はイギリスのパンクシーンの中で初のシングルとされている。しかし、同曲はセックス・ピストルズのように王室を風刺したり、クラッシュのように閉塞感に苛まれる若者たちをアジテートしたりするわけでもなかった。「ニュー・ローズ」は一見純然たるラブソングに見立て、聴き手に解釈を委ねているところが興味深い。
「ニュー・ローズ」の冒頭には「Is she really going out with him ?」(彼女は本当に彼と付き合っているのかしら?)というモノローグが入るのだが、これは、1960年代に人気を博した米国ガールグループ、シャングリラスのヒット曲「リーダー・オブ・ザ・パック」からの引用だ。シャングリラスは1950年代から活躍しているチャック・ベリーやリトル・リチャードらを起点とする “ティーンのための音楽” の系譜として、10代の少年少女たちの最重要事項である等身大のラブソングを歌った。暴走族のリーダーとの恋とその悲劇的な別れを歌った「リーダー・オブ・ザ・パック」も例外ではない。つまり “10代の激情” が真空パックされた名曲として語り継がれているのだが、ダムドがあえて、これを冒頭に引用することからロンドンパンクは本格的に動き始めたことになる。
ロンドンパンクの特徴でもあるメッセージ性が政治的であったり、階級社会への批判であったりというということは極めて重要なことであるが、その原点として “回帰” というキーワードがあがってくる。それは産業化したロックへのアンチテーゼであり、「ロックをスタジアムからストリートに戻そうぜ!」という大きな動きであった。そこで、多くのバンドはシンプルなロックンロールを身上とし、メッセージを重要視した。このシーンの中で頭角を現したダムドはファーストシングルで “10代の激情” というロックンロールの本質を全面に打ち出したことになる。そこに時代に即した瞬発力と破壊力を兼ね備えた名曲が「ニュー・ローズ」だ。
セックス・ピストルズやクラッシュのその後、そしてダムドは?
ロンドンパンクの衝動から生まれたバンドはほとんどが短命で終わり、78年にもなると、このムーブメントは終息を見せる。ダムドもそこで一度解散。しかし、継続を選択したバンドは、その音楽性を “回帰” で終わらせることなく、その後の道筋を明確にしなければならなかった。
セックス・ピストルズのジョニー・ロットンはジョン・ライドンと改名。ジャマイカでの休暇で得たインスピレーションを軸にロックンロールの解体と他ジャンルの融合を目論み、パブリック・イメージ・リミテッド(PIL)を結成、クラッシュは、ジャンル・ミキシングの先駆的作品であり、歴史的名盤『ロンドン・コーリング』を79年にリリースする。
そして同時期に再結成したダムドにとってもここからが本懐であった。
バンドとしてのポテンシャルを見事に開花させた「ブラックアルバム」「ストロベリーズ」
ファースト『地獄に堕ちた野郎ども』、セカンド『ミュージック・フォー・プレジャー』でメインのソングライターだったブライアン・ジェイムスの脱退という苦境を乗り越え再結成後に制作されたアルバム『マシンガン・エチケット』(79年)は彼らの最高傑作と捉えるファンも多い。
さらに、その後の『ブラックアルバム』(80年)、『ストロベリーズ』(82年)という名盤でバンドとしてのポテンシャルを見事に開花させる。この時期に在籍していたのが、今回のツアーメンバー、ポール・グレイだ。
『ブラックアルバム』には、日本ではザ・ウィラードもカバーした「ヒット・オア・ミス」も収録。ロックンロールの瞬発力を洗練させながら、サイケデリックやクラシックの要素を取り入れ、ゴシックロックの起点とも言われる名盤に仕上げた。そしてその延長線上にありながら、親しみやすさとメタリックなエッジの効かせ方が絶妙な『ストロベリーズ』。この2枚は、現在の彼らの音楽性を語る上で極めて重要な作品ではないだろうか。
パンクロックの起点であると同時に、昨年(2023年)にはニューアルバム『ダークデリック』をリリースし、今も弛まぬ進化を続けるダムド。デイヴ・ヴァニアン、キャプテン・センシブル、ラット・スキャビーズ、そしてポール・グレイという布陣での今回の来日公演はそれだけ意義深いものである。