KOOL 音楽活動に懸ける強い想いがまっすぐに届いたツアーファイナル、横浜 1000 CLUB公演をレポート
KOOL LIVE TOUR 不惑 in JAPAN TOUR 2025
2025.12.3 1000 CLUB
シンガー・KOOLのライブツアー『KOOL LIVE TOUR 不惑 in JAPAN TOUR 2025』が、11月23日(日)名古屋 SPADE BOX、11月24日(月祝)大阪 BananaHallを経て、40歳のバースデー当日、12月3日(水)横浜 1000 CLUB公演でファイナルを迎えた。「吾龍」名義でも知られていて、バンド「DOPEDOWN」のボーカルでもある彼の「KOOL」としての活動への意欲が大いに示されたライブの模様をレポートする。
開演前の影アナで早くも観客を沸かせていたKOOL。公演中の諸注意を読み上げた後、「本日、ツアーファイナルとなっております。名古屋公演、本当にすばらしかったです。大阪公演、本当にすばらしかったです。ファイナル、横浜公演。それを超えない場合、KOOLが拗ねます。1曲目からフルスロットル、全開のご用意をよろしくお願いします!」という言葉も追加された。横浜のライブの盛り上がりは、名古屋と大阪を超えられるのか? それともKOOLは拗ねてしまうのだろうか? そんなことを考えていると鳴り響いたSE。バンドメンバーの三代(Gt)、瀬恒啓(Gt)、堀仁一郎(Key)、okamu.(Ba)、新保惠大(Dr)に続いて現れたKOOLが、ステージのセンターで観客を激しく煽った。そしてスタートした「IN_MY_HEAD」。掛け声を上げながら観客が振り上げる腕の勢い、打ち鳴らす手拍子が激しい。「なんか大人しいんじゃないか? 俺の誕生日だぞ!」とKOOLに言われてますます興奮を露わにした観客。「イドラのサーカス」「パンダヒーロー」「ジャンキーナイトタウンオーケストラ」……怒涛の連発が、猛烈な熱気を生み出していた。
「今日、メイクさんと勝負していて。俺のこの髪型、メイク、崩した方が勝ちか? 崩れなかった方が勝ちか? 名古屋は崩した俺の勝ち。大阪はスプレーの消費を倍ぐらいにして、今日も本気出してる。だから1勝1敗なの。勝たせてくれないか? 先制点は得てる。グジョグジョにしてくれよ!」――重要なミッションを任された観客は、歌声を様々な形で燃え上がらせる役割を担っていた。ダンスビート、爆音、美メロが多彩に浮き彫りにされた「夜咄ディセイブ」「鬼ノ宴」「ジニア」を経て、「名古屋と大阪でun:c.さんに出てもらったんだけど、横浜はこの人を呼びたいと思いまして。呼んじゃってもいいかい?」と問いかけたKOOL。ステージに招き入れられたゲスト・あらきは格闘家のような仁王立ちをして歓声を浴びた。何を問いかけても3つのワード「OK!」「ファッキン!」「ジャパン!」しか返さない彼に呆れたKOOLは、「めんどくせー、こいつ(笑)。ここは任せていいですか? 着替えてくるので」と言って楽屋へ。そしてスタートしたあらきのワンマンショーでは、「ヒビカセ」が披露された。彼のパワフルな歌声を全身に浴びたら、大人しくしているのは無理。無我夢中で飛び跳ねて踊る人々のエネルギーが、フロアをグラグラと揺さぶった。
あらきから貰った誕生日プレゼントの『龍が如く』刺青アームカバーを着用してステージに戻ってきたKOOL&あらきのツインボーカルで披露された「S.O.S」と「ロキ」は、交わされる歌声のコンビネーションが絶妙極まりなかった。歌いながら2人が浮かべた表情からも、共演を心から楽しんでいるのが伝わってくる。「なんと仲睦まじい2人だろう」とあの場にいた誰もが感じたと思うが、コラボステージが終了してあらきがステージからハケるや否や、刺青アームカバーを脱いで床に叩きつけたKOOL。「投げ捨てた!」「外すな!」と非難の声を上げた観客に対して「うるせーな、このやろう!(笑)」とブチ切れている姿が、なんだかとても可愛らしかった。KOOLのツンデレ気質が垣間見えた気がする。
完全に熱気で満たされたフロアを眺めて、「やべえ夜になりそう。ここからが後半戦。がっつり1つになって楽しまない? 今日は何もやっていい!」とワイルドに呼びかけたKOOL。そして雪崩れ込んだのは激熱アッパーチューン……ではなく、欧陽菲菲の名曲のカバー「ラヴ・イズ・オーヴァー」だった。しっとりとしたピアノ伴奏で切々と歌い上げた哀愁のメロディ。ビブラートをやたらと利かせた情感過多な歌声に合わせて、観客が掲げた腕が田園の稲穂のようにフロアで揺れる。これ、KOOLのライブだよね? 自分が今どこにいるのかわからなくなりそう……。エンディングを迎えると、「なんですか今のは?」(三代)。「ほんとよくないよ」(新保)。「謝れ! 金返せ!」(観客)――非難の集中砲火を浴びたKOOLは土下座。それを合図にスタートした「どげざ」は、ファンキーなダンスビートが観客を元気いっぱいに踊らせた。
このツアーのために施したヘヴィなサウンドアレンジでダーク&ミステリアスな音像を渦巻かせた「シャンティ」。瑞々しいメロディをじっくりと歌い上げた「それがあなたの幸せとしても」を経て迎えたMCタイム。15歳から住むようになった横浜は青春時代を過ごし、一度は夢を諦めた街だと語ったKOOLは、今回のツアーの準備中に他界した母から「吾龍はやりたいことをやりなさい」と10年前に言われたことを思い返していた。会社勤めをやめて音楽活動に全力を注ぎつつも、なかなか上手くいかなかった日々を振り返り、「好きなことに従順にやっていたらいつの間にか仲間が増えていった。やりたいことって、人との影響でどんどん繋がって形作られていくものなんだなと、ここ数年ですごく感じます。負の感情を持って苦しんでる人たちがいっぱいいると思う。声を大にして言えるんだけど、そんな感情も絶対に無駄ではないからね。いろんな人に触れて、その先の未来を一歩ずつ掴んでいってください。音楽に乗せて、歌にして何かきっかけを作っていきたい。それがきっと俺がやりたいことなんだなって今になって思う。あなたの何かが変わるきっかけが生み出せるのであれば、今日この瞬間に意味はあるよな? あなたがた1人1人に歌うから、最後までよろしく頼むよ」と語る声は、強い想いを滲ませていた。そして、「39年間生きてきて曲げなかった、諦めなかった昨日までの自分自身と、今この会場にいる全ての人に贈ります!」――この言葉を添えて歌い始めた「敗北の少年」は、ツアータイトル『不惑』をまさしく体現していた曲。たくさんの迷い、葛藤、挫折を体験しながらも40歳の誕生日に辿り着いた彼が自身に送った渾身のバースデーソングであると同時に、観客を鼓舞する全力のメッセージソングだった。
「NAKEDANSWER」「SPUTNIK」「j e I L y」を連発した本編終盤は、熱気と興奮の限界突破が続いた。観客をしゃがませてから一斉にジャンプ。激しく揺れるフロアが明るい笑顔で彩られた「DOGS」。踊る誰も彼もがライブを楽しむ達人だった「脱法ロック」。フロアのど真ん中に飛び込んでリフトアップされたKOOLが、全力で声を張り上げながら歌った「バッド・ダンス・ホール」……「最高の夜だったぜ! これ以上ない誕生日プレゼントでした! まじで忘れないわ。またいつでもライブハウスで会おうぜ!」と叫んでエンディングを迎えた時、KOOLは汗まみれだった。「KOOLとしてもうちょっと頑張るからさ。また遊び来てよ。そしたら今日よりももっとやばいライブができるんじゃない? やってみようよ。それでいつかゼップ行こうぜ! 頑張る! 来てね(笑)。幸せな誕生日でした! メイクさんたちとの勝負は俺たちの勝ち!」――今後の活動への意欲に満ちた言葉と勝利宣言を聞いた観客は、爆発的な歓声で彼を祝福していた。
アンコールを求める声と手拍子に応えてステージに戻ってきたバンドメンバーたち。KOOLも現れるのを待っていたら、登場したのは初音ミク!? なんと豪華なシークレットゲストだろう! ……と無邪気に思うはずもなく、ステージ上にいるのはコスプレをしているKOOL以外の何者でもなかった。ネギでどつきたくなる気がしなくもないこの姿で歌い始めたのは、「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」と「1/3の純情な感情」のマッシュアップ。タイトルは「1/3の純情な感情にしてあげる♪」。2曲の大胆な融合、KOOLと初音ミクの強引な融合は、妖しい刺激を噴霧しまくるひと時だった。「かわいいよー!」という黄色い声を上げていた観客は、美的感覚に何らかのダメージを喰らっていた可能性がある。このアイディアは以前から温めていたそうで、今回のライブでついに実現。KOOLは、かなりの手応えを感じたのだろう。「今後も機会があったらやりたい」と歌い終えた後に意欲を示していた。また観る機会があるかもしれない……。
サイン入りポスターの抽選会を経て、アンコール2曲目「IN_MY_HEAD」、再登場したあらきと一緒に歌った「S.O.S」によって、約2時間半にわたる盛りだくさんのライブは締めくくられた。記念撮影をした後、「まじで人生過去イチかも、このライブ。でも、これを塗り替えていきたいから。まだまだやっていきたいからまた遊ぼうよ。絶対遊ぼうぜ! これ以上ない誕生日でした。ありがとうございました!」と歓喜の声を上げたKOOL。観客に手を振った彼を拍手と歓声が包んだ。音楽活動に懸ける彼の強い想いが、終始まっすぐに迫ってくるライブであった。
文=田中大
撮影=あき