「技術差があっても全員が輝ける。非日常の挑戦が、子どもを成長させる理由」大豆戸FC 末本コーチ×サカイクキャンプ柏瀬コーチ対談(後編)
技術レベルに差がある子どもたちが一緒にプレーする環境で、どのように一人ひとりを輝かせるのでしょうか?「上手な子」には周りをサポートするリーダーシップを「自信がない子」には、今できる強みの発揮をうながす声かけを――。
大豆戸FCの末本亮太コーチとサカイクキャンプの柏瀬翔太コーチによる対談後編では、二人のコーチが実践する具体的な関わり方と、親元を離れた非日常体験が、子どもたちにもたらす成長について語ります。
遠回りに見える経験こそが、将来の大きな力になる理由とは?
(構成・文 鈴木智之)
■レベル差があっても、すべての子が輝ける環境づくり
柏瀬:サカイクキャンプには、Jクラブのアカデミーに所属する子から、サッカーを始めたばかりの子まで、様々なレベルの子が参加します。技術レベルに差がある子が一緒にプレーする中で、大前提として「上手な子」「それほど上手でない子」という区切りではなく、一人ひとり違うと考えています。
サカイクキャンプでは、ライフスキルの中で「リーダーシップ」や「コミュニケーション」を大切にしています。例えば、すごく技術があってボールも扱えて、判断も良い子には「チーム全体として、みんなで勝利に向かって頑張ろうという雰囲気を作るにはどうすればいい?」といった声をかけます。
すると、サポートの動き出しのスピードを意識したり、「あの子がサイドでボールを持った時に、パスコースを作って2対1の状況を作ってあげた方が、1対1で仕掛けやすいな」とか、小学生でもそこまで考えてくれる選手をたくさん見てきました。
一方、技術面で自信がない子は、ちょっと不安そうな顔をしていたり、「パスが来たら嫌だな」という表情をしていることがあります。そういう子には、「今できる長所、強みを発揮してきてよ」と伝えます。守備だったら積極的に奪いに行ってほしいし、たくさん動けるなら、パスが来なくてもどんどん顔を出す。まずは自分からプレーに関わっていくことを意識させています。
末本:選手のレベル差に関して言うと、私はチーム指導をしているので、試合ではそれぞれに合ったレベルの試合を設けるようにしています。あとは個別対応です。たとえば、他の子に比べてリフティングができない子には「10回できたね。じゃあ次はこうやってみよう」とか、その子に合わせて小さい目標を作っていき、できた瞬間を見逃さない。その積み重ねです。
面白いのは、技術的に未熟な子がゴールを決めたら2点にするとか、そういうルールにすると、周りの子が協力するようになるのです。直接教え込むのではなく、そういうルールを作ると、子どもたちが自然とそうなっていくのですよね。
逆に技術の高い子には、タッチ数を制限してみたり、アシストしたらポイントがつくようにしたり、常に難しい相手とやらせたり、リフティングもどんどんプラスの課題を与えていく。その子に応じた関わり方が大事だと思います。
柏瀬:子どもたちを「やってやるぞ」という気持ちにさせるのは、僕も大切にしているところです。「自分のアシストで味方が決めたら2点」って、すごく価値のあることで、「やってみよう!」というきっかけになりますよね。
技術的に自信がない子の場合、ただ立っているだけとか、パスが来ても技術の高い子にすぐ返してしまうことがあるので、それを減らす工夫は必要ですよね。僕も末本さんと同じで、その子の考えで一歩踏み出せるような働きかけを意識しています。今のお話を聞いて、早速スクールでも取り入れてみようと思いました(笑)
■同じ思考の中でやってきた子、いろんな思考の中でやってきた子、中学以降の適応力が高いのは......
末本:私は小学生も中学生も指導していますが、同じレベル、同じ思考の中でやってきた子と、いろんな思考やレベルが違う子たちの中で育ってきた子を見ると、中学生になった時に、いろんな経験をしてきた子の方が適応力が高いと感じています。サッカーでも、サッカー以外のところでも。
自分の思い通りにいかないような環境や、技術的に未熟な子がたくさんいる中でプレーすると「どうすればこのチームで勝てるだろう?」と考えるじゃないですか。そこで周りと積極的にコミュニケーションをとったり、自分が人一倍頑張ろうとするんです。でも、ある程度レベルが高いチームメイトに囲まれたところでプレーしてきた子は、できない子のことが理解できないんです。「なんでできないんだよ」って終わっちゃう。
親の立場からしても、我が子に「色々な環境でサッカーをさせること」は意識しています。たとえば誰もが参加できるサッカーキャンプやイベントがあったとして、最初は「もっとレベルの高い中でやりたい」と子どもがゴネたとしても「いいから行ってこい」と送り出します。帰ってくると「楽しかった。周りにあまりボールが蹴れない子がいたから、こうやってサポートしてあげたんだ、自分が得点してチームを勝たせたんだ」みたいに、自慢気に言ってくるんです(笑)。そういったキャンプやイベントなどは、コスパ的にはすぐに結果が得られないかもしれないけど、長い目で見ると良い経験だなと思います。
柏瀬:サカイクキャンプに来る子は、レベル的に様々です。その子に合った声かけやルール決めをするので、比較的にどの子も自分を表現しやすい環境なのかなと思います。
そうなると、お互いに認め合い始めるんです。「君は走るのが速いから、裏抜けを頼むよ」とか、チーム内で話していたりします。ボールを扱うのが上手くなくても、それ以外の部分もサッカーにはたくさんあります。ボールを持っていない時間、オフ・ザ・ボールの時間の方が圧倒的に長いですから。活躍の場を自分で見つけて、プレーで自分を表現できるようになってほしいですし、そのような環境を作ることを心がけています。
■親元を離れた非日常体験が、子どもに与える影響
末本:私も子どもたちを連れて国内外に遠征に行きましたが、自分たちだけで行動したり、洗濯したり、ご飯を片付けたりといった大人にとっては当たり前、些細なことが、自信になるんですよね。遠征から帰ってきて、急に家の布団を畳み出したり(笑)。普段、家では親にやってもらっているけど、自分でできることはあるんだと気づく、きっかけになると思います。
私たちの遠征では、現地で子どもたちに調べさせて、自分たちでご飯を食べに行かせるようにしています。するとニュースなどで見ていたものが、「これ、行ったことある」となります。自分で調べたところに実際にお店があって、そこで食事をする。大人にとっては普通のことですが、子どもにとっては大きな一歩で、そういう時に心が動くんですね。「調べたものが実際にあった! 美味しかった!」と、世界が広がるんです。それは次につながる経験になると思います。
柏瀬:サカイクキャンプは宿泊があるので、親元を離れる良い機会です。なおかつ、初めて親元を離れての宿泊体験だという子が結構多くいるんですね。
末本:指導者としては大変ですね(笑)
柏瀬:親と離れて不安だな、寂しいなと、いろんな感情を経験することができます。小学1年生の子もいますし、ホームシックになる子もいました。集団生活なので、決められたものを食べて、お風呂に入る時間も決まっています。そこにはちょっとした不自由がありますが、その不自由さこそが、子どもを成長させる要因になると感じています。
たとえば荷物の置き方ひとつとっても「これ、もっとこうした方がいいのに」と気が付き、そこで初めて「こうしてみよう」と考える。その積み重ねが成長につながるのかなと。初対面の子と話すのは苦手だけど、話してみたら、めちゃくちゃ気が合った、同じポケモンが好きだったとか。そういう発見があって、楽しいなと感じて積極的になっていく。サカイクキャンプが、そんな場になってくれたらうれしいです。
末本:大豆戸FCは海外に遠征に行くこともあるのですが、その効果は10年後ぐらいに気づくんですね。卒業した子たちと会った時に、海外遠征のことをめちゃくちゃ覚えてくれていて。もちろんサッカーは大事なんだけど、遠征に行って、仲間たちと非日常を経験することが、大きな財産になるんです。宿泊をともなうのでお金はかかるけれど、サッカーをする以外の部分で、遠征やキャンプに行かせる価値は大きいんじゃないかなと思います。
柏瀬:サカイクキャンプも、子どもたちは最初、不安そうな顔して開会式をやるのですが、1日目の夜には「宿舎側に迷惑だぞ」と注意したくなるぐらい打ち解けています(笑)。そうやって初対面の子と仲良くなったり、自分の知らなかった力に気づけることは、非日常だからこそなのかなと思います。サカイクキャンプでの経験は、5年後、10年後に、絶対にいい影響を与えてくれると僕は思っているので、ぜひ非日常の環境に、どんどん送り出してほしいなと思います。