干物のいま 揺れる産地と広がる新しい味
きょうのテーマは「干物」です。最近、干物をつくる企業の倒産が増えていて、東京商工リサーチによると、今年はこの20年で最も多い倒産件数になっているということです。
私も静岡県 西伊豆町出身で、地元の名産品といえば干物なんですが、その干物づくりの現場では、厳しい状況が続いています。
現場が感じる「干物離れ」
いまの状況を、干物の産地として知られる静岡県で長く製造を続ける、有限会社ヤマカ水産 小松 寛さんに話を聞きました。
有限会社ヤマカ水産 小松 寛さん
沼津の干物については、おそらく30年前をピークに、ずっと減少してると思います。30年前に沼津の干物メーカーは300件あったと言われてますが、今は60件ほどになってきていて、生産する数量も、弊社もそうですが、最盛期の多分20%から30%ぐらいは減ってるかなと思ってます。やっぱり家で焼けない、焼き方がわからない。ゴミの処理が嫌だとか。骨があることで敬遠されてるっていうのは実際あると思ってます。
干物の生産が大きく減っている要因は、家で焼くという行為が敬遠されていること。
「焼くのが面倒」「後片付けが大変」「骨が気になる」・・・、こうした理由で、家庭で焼き魚を食べる人が減っています。
実際、干物を買うのは、焼き魚に慣れている50代以上が中心。ただ、外食チェーンでは、若い世代も普通に注文している姿が見られるそうで、食べる場所やきっかけが変わっただけで「干物が避けられている」というよりも「家で焼かない」方向に変わっている。
魚ごとに違う 干物の現状
では、静岡だけでなく、全国的にはどうなのか。農林水産省 加工流通課長 久納 寛子さんのお話です。
農林水産省 加工流通課長 久納 寛子さん
生産量自体は、10年間で約4割ぐらい減少してます。干物に関して言えばアジとかサバがなかなか太平洋側で取れなくなったことで、生産量も減っている面はありますが、ホッケはあんまり生産量としては減ってなく、干物の中では今、ホッケが多分一番多く生産されている干物なんです。ホッケって非常に脂っぽくてしっとりしてて食べごたえがあって、食が洋食化している中でもやっぱりホッケっていうその存在感は大きいのかな。夕食のメインになれる干物っていうところが大きいんじゃないかなって私は思ってます。
ここで見えてくるのが「魚の種類による違い」です。干物といえば、アジの開きが代表的ですが、もっとも生産量が落ちていないのは「ホッケ」。ホッケの干物は特に北海道や東北で人気がありますが、大きいのでメインのおかずになるということで洋食が増えた今の食卓でも選ばれていて、生産も大きく落ちていません。
今、食卓に合わせた干物づくり
では、干物をどうやって食べてもらうか、工夫する動きも出ています。再び、ヤマカ水産 小松さんのお話です。
有限会社ヤマカ水産 小松 寛さん
「中骨取りひもの」という商品名で出しています。一番大きい骨ですね、背骨の大きい骨を外して作るんですけど、ちょっとでもお客さんに手に取ってもらうために、食べやすくする加工は必要だなと始めてます。 ただ、もしかしたら家で焼けないというニーズの方が高いのではないか思ったところがあり「焼き干物」という、弊社の方で焼きまでやり、自分で焼くっていう工程をやらなくても、おうちでレンジでチンですぐ食べれるっていうのは良い点だなと思ってます。
骨も取ってあげるし、焼いてあげるという干物が登場しています。ヤマカ水産では、通常の干物に加えて、「中骨だけ抜いたもの」、「全部の骨を抜いた」ものと、3種類を用意していて、子どもや骨が苦手な人に人気だそうです。ただし、完全に骨を取る商品はその分手間がかかり、価格は普通の干物の1.5倍。
もうひとつが「焼く手間」。工場であらかじめ焼いておき、家ではレンジで温めるだけの「焼き干物」です。家で食べづらい理由をひとつずつ解消していき、どの形が一番、日常的に手に取ってもらえるのか、見極めている最中です。時代が変われば、食べ方も変わりますが、その中で、どう干物の良さを残していけるか、今後の課題です。
(TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』取材・レポート:森本茉菜)