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ズーカラデル 「変な奴が変な奴のままいられるのは、自分にとって大切なこと」、結成10周年目前の全国ツアー『朝が来たら私たち』東京公演レポート

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ズーカラデル

ズーカラデル全国ツアー『朝が来たら私たち』
2024.11.14(木)東京 EX THEATER ROPPONGI

「こうやってライブできるのは、集まっていただいたみなさんのおかげです。めちゃめちゃありがたい。そんなみなさんに曲を届けることしかできないのが歯痒い」

11月1日から札幌、函館、広島、松山と回ってきた『朝が来たら私たち』と題した全国ツアーの5本目。「我々が六本木で堂々としているなんて滅多にないこと」と鷲見こうた(Ba)が軽口を叩き、観客を微笑ませた東京EX -THEATER ROPPONGI公演で吉田崇展(Vo, Gt)は、ふとそんなことを言った。

吉田崇展(Vo,Gt)

もちろん、本心から言っているのだと思うし、吉田の奥ゆかしさや思慮深さを物語る発言だとは思うのだが、吉田、鷲見、山岸りょう(Dr)の3人にサポートの永田涼司(Gt)と山本健太(Key)を加えた5人の演奏を観ているこちらからしたら、いやいやいや、それは謙遜が過ぎるというものだろうと思わずにいられなかった。それは筆者だけではなかったんじゃないか。出囃子代わりに使ったボブ・ディランの「雨の日の女」を聴いて、早速、声を上げながら盛り上がっていたズーカラデルのファンならきっと同じことを思っていたに違いない。

なぜなら、吉田がそんなことを言った時点ですでにステージの5人が披露した6曲を聴いて、僕ら、いや、少なくとも筆者は、懐かしくて、せつなくて、でも、あたたかいズーカラデルの音楽に浸れるしあわせを存分に味わわせてもらっていると感じていたからだ。

鷲見こうた(Ba)

ところで、いま、ズーカラデルの音楽の魅力を3つの形容詞とともに表現してみたが、そこにもう1つ付け加えておきたい。等身大の感情を歌っても、リスナーがどん引きするような闇や病みは歌うことはない、と。そして、そういう楽曲を、得意としている牧歌的なフォークロックナンバーだけに終始することなく、山岸のドラムがスウィングするロックナンバー「アニー」、都会的な洗練も感じさせるポップロック「シアン」、吉田と永田がツインリードギターを閃かせるロックンロール「トレインソング」というふうに曲ごとに曲調の変化も楽しませるところがある意味、彼らの一番の魅力なのかもしれない。

「リリースツアーではないから、かなり自由のきくセットリストを楽しんでもらえると思います」と鷲見が序盤で予告したとおり、この日、バンドは現体制になる以前からレパートリーにしている曲から、2週間前にリリースしたばかりの最新シングルまで、新旧の全20曲を披露した。ズーカラデルの魅力は?と尋ねたら、ファンの多くが挙げるに違いないハートウォーミングなメロディだけに頼らず、バンドらしくバンドアンサンブルでもしっかり観客を魅了したという意味では、ズーカラデルらしいフォークロックナンバーながら、イントロから厚いシンセを鳴らして差を付けた「筏のうた」からの中盤がこの日の一番の見どころだったと、ここではとりあえず言っておこう。

山岸りょう(Dr)

その「筏のうた」では永田がディレイを駆使して、煌めかせたメズマライジングなギターソロや、歌とタイトにリズムを刻むベース以外の楽器がブレイクする落ちパートから一転、フロアタムの連打でぐっと盛り上げる後半の展開が観客を圧倒する。そこからマーチ風のスネアロールで繋げた「ころがる」もフォーキーなバラードと思わせ、アウトロに加えたギターのトレモロピッキングとシンセによる轟音が観客を釘付けに。

「少し休憩します」と鷲見が言い、小学校の2時間目と3時間目の間にある長めの休憩を、“大休み”と言うのか、それとも“業間休み”と言うのかという話題でひとしきり盛り上がってから(因みに筆者の小学校では“20分休み”だった)、演奏した「夢の恋人」のポップな曲調を一味違うものにするシャッフルのリズムや、はっぴいえんどを連想させるバラード「都会の幽霊」に永田が加えたスライドギターは、このバンドのウィットに富んだアレンジセンスを物語るものだろう。

エモい演奏が観客に手を振らせた「ノエル」からドラムで繋げたファンキーな「衛星の夜」は曲調のみならず、吉田によるラップや鷲見のスラップも聴きどころ。ぐぐっと熱を帯び始めたバンドの演奏は、吉田がギターを掻き鳴らしながらなだれこんだ「スーパーソニックガール」でさらに白熱する! ズーカラデル流のオルタナロックナンバーだ。轟音かつアップテンポの演奏に観客が声を上げ、手拍子を打ち鳴らす光景から、バンドが放つ熱が客席に伝わっていたことは明らかだった。

そこから一気に盛り上げていくのかと思いきや、「19年に北海道から東京に出てきて5、6年経つ」と東京に対する思いを語ってから、結成当初から演奏しつづけてきたバラード「友達のうた」を演奏したことには、さまざまな理由があったのだろう。

「変な奴が変な奴のままいられるのは、自分にとって大切なこと。それが東京でもあるし、ライブハウスでもあるし。みなさんの中にもそういう人はいるんじゃないか」と語った吉田は、そういう人たちにラブソングを届けたいという思いを込め、この日、「友達のうた」を演奏したのだと思うが、その歌い出しの歌詞をタイトルに冠した今回のツアーそのものがファンに対するズーカラデルからのラブソングだったのかもしれないと、熱のこもった演奏を聴きながら想像したりも。

《朝が来たら、私たちどうなっちゃうの》という「友達のうた」の問いかけに自ら答えるように「明日を歩く人間の曲を作ってきました!」と声を上げた吉田に山岸がマーチ風のスネアロールで応え、ステージの5人は10月30日に配信リリースした「バードマン」からラストスパートをかけていく。全員で“ラーラララーラ”と声を重ねるアップテンポのフォークロックナンバーだ。

その「バードマン」をはじめ、クライマックスという言葉がふさわしい盛り上がりが生まれた終盤の流れを飾ったのは、オプティミスティックな曲の数々だった。タイトルコールに観客が声を上げたR&B調のポップナンバー「シーラカンス」、アップテンポのカントリーナンバー「イエス」ともにメンバー全員で歌いながら底抜けにハッピーな空間を作って、存分に観客の胸を躍らせる。それこそがズーカラデルのライブの真骨頂。

そして、“パラララ”と全員で歌声を重ねながら、本編の最後にバンドが演奏したのは「友達のうた」同様、結成当初から演奏してきた「漂流劇団」。ズーカラデルが得意としている牧歌的なフォークロックナンバーだが、一際アンセミックであることに加え、バンドの思いがその一言に凝縮されたようにも聞こえる《あなたを笑わせたいのだ》という歌詞のパンチラインを考えると、ラストナンバーとしてこれほどふさわしい曲はなかったんじゃないかと思う。しかし、もちろんライブはまだ終わらない。

ファン待望の企画が進んでいることをフライングで発表しながら、アンコールではもう2曲、バラード「生活」とフォークロックナンバー「ピノ」を披露する。

ズーカラデルで初めて作ったという前者は、ラスサビで吉田以外の4人が加えたコーラスも聴きどころ。メンバー全員で重ねるコーラスは、「生活」に限らずズーカラデルの大きな武器だ。そして、この日、オーラスを飾る曲に選んだ「ピノ」が彼らのライブに欠かせない人気曲になったのは、“ワ”なのか、“バ”なのか、“パ”なのか、いろいろな音を試した結果辿りついたのだと想像するとちょっとおもしろい、“ワッワーワ”というキャッチーなコーラスや胸に沁みるビターなメロディもさることながら、曲の中盤、“Hey! Hey!”という掛け声や早口になる吉田の歌とともにバンドの演奏が音源以上に熱を放つからだ。

2時間に及んだ熱演に観客が大きな拍手を送る。

《僕ら残る時間で どこまで行ける? できるだけ早足で歩く》という「ピノ」の歌詞は、ライブの最後の最後に歌うことで、ここからまた活動を続けていくバンドの改めてのステートメントにも聴こえたはずだ。

ちなみに来年、ズーカラデルは結成10周年という節目を迎えるそうだ。前述したものも含め、いろいろなことを考えているに違いない。《できるだけ早足で歩く》という歌詞のとおり2025年はズーカラデルにとって忙しい1年になるんじゃないかと大いに期待している。

取材・文=山口智男 撮影=オバタチヒロ

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