Onni marmalade(オンニマーマレード)~ 本場英国で金賞受賞!「幸せ」のマーマレード
太陽を凝縮したような明るい色と爽やかな香り、甘さとほろ苦さ。マーマレードを口にするたびに、なんと魅力的な食べ物だろうと思います。
福山市山手町にある「Onni marmalade(オンニマーマレード)」の工房には、マーマレードとスパイスの甘い香りが広がっていました。
「Onni(オンニ)」とは、フィンランド語で「幸せ」という意味です。この工房では、一口食べるとふうわりと幸せな気持ちになるマーマレードやジャムなどを作っています。
2024年2月にはここで生まれたマーマレードが、本場イギリスの大会で金賞を獲得。その味は世界の折り紙付きとなりました。
マーマレード作りのこだわりやフィンランドとのつながりなど、オンニマーマレードのおいしさの秘密を紹介します。
幸せのジャムとマーマレード
「これがジャムなの?」
初めてオンニマーマレードのジャムを食べたときの衝撃は忘れられません。鮮やかな色と豊かな香り、雑味のない透き通った爽やかな味。
筆者もジャムやマーマレードを作ったことがありますが、このようなスッキリした味にはなりません。なにか特別な秘密があると感じました。
オンニマーマレードの内田久美子(うちだ くみこ)さんのマーマレードやジャムは、瀬戸内の柑橘類などを使って作られています。
「ネーブル」「柚子」といった身近な柑橘類のほか、「春峰(しゅんぽう)」「弓削瓢柑(ゆげひょうかん)」「媛小春(ひめこはる)」など、少し珍しい柑橘のマーマレードもあります。名前のとおり、幸せな味のマーマレードです。
「ライム&カカオニブ(※カカオ豆を砕いたもの)」「柿&柚子ピール(生姜入り)」なども、ぜひ食べてみてください。食感と香りの楽しさに「何これ?」と驚きます。
福山市田尻町で希少な田尻大杏を栽培する「田尻杏屋」代表の小林章宏(こばやし あきひろ)さんも、オンニマーマレードの味に惚れ込んだ一人です。
一口食べて「コレだ!」と感じた小林さんは、アプリコットジャムの製造をオンニマーマレードに依頼しています。
ジャム以外にも「幸せ」な味がいろいろ
オンニマーマレードの商品は、ジャムやマーマレードだけではありません。ケチャップや焼き菓子にも注目です。
「トマトケチャップ」は、箕島町(みのしまちょう)で育った完熟トマトにスパイスを合わせて作られています。トマトの旨味と甘みのなかにピリッとしたスパイスが程よく効いて、ピザトーストやカニクリームコロッケにもベストマッチの逸品です。
シナモンロールは、フィンランドの材料を使いフィンランドのレシピで作っています。
取材時には内田さんのご好意で、焼き立てのシナモンロールをいただきました。
なんと良い香りでしょう!シナモンだけでなくカルダモンも合わせ、小粒のシュガーをトッピングしてあります。行儀悪くかぶりついた、焼き立てあつあつのシナモンロールのおいしいこと!トッピングシュガーもカリカリで、食感のアクセントになっています。
「ジャムやマーマレードとどうぞ」と、スコーンもいただきました。
スコーンを割ってジャムで土台を作った後、クロテッドクリームをたっぷりとのせるのがイギリス式の食べ方なのだそうです。
ラズベリーとブルーベリーのジャムは、イギリスでは「女王様のジャム」と呼ばれています。スコーンとは、ジャムを味わうためのお菓子なのですね。幸せな気持ちで満たされるおやつでした。
ダルメイン世界マーマレードアワード2024で金賞を受賞!
マーマレードの本場であるイングランド北部の湖水地方に、「ダルメイン」という名の由緒正しい屋敷があります。2006年からここで開催されているのが、「ダルメイン世界マーマレードアワード」です。
世界中から3000を超えるマーマレードが集まるこの英国大会に、2024年1月、内田さんは2種類のマーマレードを送りました。
審査結果が届いたのは2024年2月。
そこには「Congratulations!You are a Gold Winner!(おめでとう!金賞です)」の文字が。自分の目を信じられなかった内田さんは、英会話の先生に連絡して、一緒に確認してもらったそうです。
間違いありませんでした。2本のうちの1本、「柚子とレモンのマーマレード」が見事金賞に!
もう1本の「ネーブルと杏のマーマレード」も入賞こそ逃しましたが、高い評価を得ました。
オンニマーマレードのマーマレードは、本場英国のお墨付きを得たのです。
ダルメイン世界マーマレードアワードには、三つのカテゴリーがあります。
・柑橘1種:1種類の柑橘で作ったもの
・複数柑橘:複数の柑橘類を使っているもの
・ミックス:柑橘類とその他の食材(柑橘類以外のフルーツなど)を使ったもの
点数によって金賞・銀賞・銅賞が決まるので、それぞれの賞に数の制限はありません。各カテゴリーでもっとも優れたマーマレードには、「優勝」に相当する「ダブルゴールド」という賞が与えられます。
「今回いただいたのは普通のゴールドですが、次はダブルゴールドを目指します」と内田さん。
また、2019年から愛媛県八幡浜市では「ダルメインWorldマーマレードアワード&フェスティバル in Japan」が開催されています。第6回となる2024年には2110作品の応募がありました。
「日本大会では2022年と2023年に銅賞を取りました。次はこちらでも金賞を取りたいですね」
内田さんの挑戦は、まだまだ続きそうです。
取材後、マーマレードの日である2024年5月14日に、第6回ダルメインWorldマーマレードアワード&フェスティバル in Japanの審査結果の発表がありました。
オンニマーマレードは、金賞1つ・銀賞2つ・銅賞2つを受賞しました。
オンニマーマレードのジャムやマーマレードは、次の店舗で取り扱っています。
取扱店舗
・FUKUYAMAふくふく市(福山市千代田町1丁目2番41号)
・ナチュラルマーケット イコウ(福山市木之庄町3丁目3-5、松永町4-20-20-1)
・気ままなパン屋 ぼちぼち(福山市山手町7丁目6-8)
また、イベント出店も予定しています。
今後のイベント出店予定
・おやまのいろどり春市
2024年5月26日(日) 午前10時~午後2時
山野農村公園(福山市山野町大字山野1894)
・プランマルシェ
2024年6月1日(土)2日(日) 両日とも午前10時~午後4時
福山市ぬまくま文化館枝広底(福山市沼隈町大字常石2323-2)
※東日本大震災・能登半島地震の2つの震災の復興支援イベントとして開催
マーマレード作りのこだわりなどについて、内田さんに話を聞きました。
オンニマーマレード 内田久美子さんにインタビュー
内田久美子さんは、平日は昼間の仕事をこなしながら、休日や夜にジャムやマーマレードを作っています。
マーマレード作りを始めたきっかけや、北欧への想いなどを聞きました。
マーマレード作りのきっかけは震災復興イベント
──どのようなきっかけで、マーマレードやジャムを作り始めたのですか。
内田(敬称略)──
あるとき、桃をたくさん買ったんですけど、味がなくて。ジャムにしたらおいしくできたんです。そんなときに、ちょうど柑橘をたっぷりいただいてね。それでマーマレードを作ってみたら、またこれがおいしかったんですよ。
同じ頃、有志が集まって東日本大震災の復興支援イベントをすることになり、私はマーマレードを出しました。それ以来、マーマレードを作り続けています。
微力でも震災復興の役に立っていると思うと、やる気がでるんです。大切なのは続けること。東日本大震災の翌年から始めた小さなイベントですが、コツコツ10年以上続けてきて、100万円を超える寄付ができました。
──さまざまな要素が重なって、マーマレードを作ることになったのですね。
内田──
そうですね。瀬戸内にはいろいろな柑橘があるので、これで作ったらどんな味になるんだろうと、どんどん広がってしまって。
最初は、何度も何度も失敗しましたよ。とんでもなく苦いマーマレードができたり、焦げつかせたり、どれだけ捨てたかわかりません。
けれども、そうやって何度も失敗したから、まともなものが作れるようになったのかなと思っています。
──味の秘密はなんでしょうか。なにか特別な材料が?
内田──
材料は基本的に果物と砂糖(北海道産のピートグラニュー糖)だけです。価格を抑えたいので、高価な材料も使いません。
コツは長時間コトコトと煮ないこと。高温・短時間でさっと煮ると、きれいな色とフレッシュ感が残ります。
皮の苦みを取るために何回か茹でこぼしをしたあと、果肉と砂糖を合わせて強火で短時間煮るんです。そして、皮に糖分が浸透するまで1日寝かせます。次の日にまた砂糖を追加して皮に染み込ませていくと、透明な感じに仕上がるんですよ。
皮の苦みもマーマレードのおいしさの一部なので、苦みを見極めながら作っています。
──聞くと簡単そうですが、実際にやると難しいのだろうなと思います。ところで「ライムとカカオニブ」や「柿と生姜」といった組み合わせは、どうやってひらめくのですか。
内田──
ライムとカカオニブのマーマレードは、人から教わったものです。私も「何これ?」と驚きました。
カカオニブは、チョコレートと同じようにカカオの甘い香りがあるけれど、甘さはないし溶けないので、柑橘と良く合うんですよ。
洋書も参考にしています。いちじくとバニラとか、メロンとラズベリーとか、本に載っている組み合わせがヒントになりますね。
──色の美しさにも魅せられます。
内田──
ライムやキウイなどのグリーンを残すには、銅鍋を使うんです。煮ると一度グリーンが抜けるのですが、煮詰めていると色が戻ってきます。
いちごも煮ると色が抜けて白っぽくなりますが、また戻って赤くなります。そういう化学変化が楽しいですね。
──鮮やかな色にはそのような秘密があったのですね。ところで杏などの旬の短い果物のジャムは、旬の時季に作り置きするのでしょうか。
内田──
いえ、杏のほか、いちご・いちじく・キウイ・トマトなども、一番おいしいときに収穫して冷凍保存しています。
福山は杏の産地として知られていますが、出回る期間が短く、生のままで多くの人に食べてもらうのは難しい果物です。ですから、ジャムがいいんですよ。
今回、ダルメイン世界マーマレードアワードの英国大会に出した「ネーブルと杏」のマーマレードのように、他の果物と合わせるのも好きですね。
フィンランドへの想い
──「Onni(幸せ)」の名前や、シナモンロールなど、フィンランドとの関わりが深いのですね。
内田──
以前に働いていた工務店の同僚と一緒に訪れて以来、フィンランドには何度も行っています。インテリアコーディネーターの資格を持っているので、最初はインテリアの勉強を兼ねて行きました。
家具や食器、ファブリックなど、フィンランドには私の好きなものが詰まっていて、行くと「口内炎が治る感じ」がするというか(笑)。自然に過ごせる、大好きな場所です。
──フィンランドで印象に残っていることは何ですか。
内田──
人やモノとの出会いもそうですし、素晴らしい建築を見るのも刺激になるし、すべてが印象的です。
ひとつ、最近の話でいうと、2023年の夏に初めてフィンランドを1人で旅したんですね。以前お世話になったフィンランド語の先生を訪ねたのですが、先生のお友達の家に呼んでいただいたんです。
そこで、ついに憧れのベリー摘みを経験できました!フィンランドでは森にたくさんのベリーが自生していて、だれでも自由に採れるんですよ。ブルーベリーとクラウドベリーを摘みました。
摘んだベリーでジャムも作らせてもらいました。夢が叶った、最高の旅でした。
旅の思い出に、その家のテーブルクロスと同じ柄のクロスを買ってきました。ペンティックというブランドのものです。
──アカツメクサとシロツメクサですね。森の景色が目に浮かぶようです。食べ物についてはいかがですか。
内田──
フィンランドのシナモンロールは、1個が顔くらいの大きさがあるんです。皆さんこのシナモンロールが大好きで。スパイスの味がしっかりしていておいしいんですよ。
けれども日本では売っていないので、自分で作るしかありません。シナモンが苦手な人も、これなら食べられる、大丈夫だ、と喜ばれます。
これからやりたいこと
──2024年ダルメイン世界マーマレードアワードで金賞を取ったことで、これからオンニマーマレードの展開は変わっていくのでしょうか。
内田──
そうですね。最高の賞を目指して、今よりももっとおいしいマーマレードを作ります。
そして、もう少し先のことになるでしょうけれども、カフェのような場所を作りたいと思っています。焼き立てのシナモンロールや、シフォンケーキ、スコーンを用意して、フィンランドの雰囲気やマーマレードのおいしさをゆっくりと楽しんでもらいたいですね。
マーマレードのおいしさを伝えたい
小さなきっかけの積み重ねから作り始めたマーマレードを、作り続け試行錯誤をし、本場英国が認める味に高めてきた内田さん。
豊かな森の恵みや、生活そのものを楽しむフィンランドのイメージと、オンニマーマレードのマーマレードやシナモンロールが重なって見えてきます。
一口食べると温かく幸せな気持ちになるマーマレードを、ぜひ味わってみてください。