造園会社が運営。モデルガーデンを兼ねた複合施設「NI to WA」。
三条市にある「NI to WA」は、造園業を営む「株式会社帝樹園庭正」が運営するモデルガーデン兼コワーキングスペース。加えてカフェ事業と観葉植物の販売も行っています。お庭づくりを本業とする庭師さんがどうしてこのサービスを展開しているのか、代表取締役の長橋さんにお話を聞いてきました。
株式会社帝樹園庭正/NI to WA
長橋 正宇 Masataka Nagahashi
1988年三条市生まれ。県央工業高校卒業後、加茂市で建設業に就く。野球の特待生として日本ウェルネススポーツ専門学校新潟校で活動した後、五泉市で建設業に転職。祖父の造園業を引き継ぐため三条市の造園会社で5年間経験を積み、2016年に起業。2020年に法人化。2023年に「NI to WA」をオープン。
はじめての庭づくりでメディアに引っ張りだこ。極限状態が「NI to WA」につながる。
――「NI to WA」は、庭師さんが運営されていると聞いたのですが。
長橋さん:運営しているのは「株式会社帝樹園庭正」という造園会社です。私の祖父が庭師でして、ひょんなことから孫の私が祖父の仕事を継ぐことになったんですよ。
——そのお話、ぜひ教えてください。
長橋さん:今から15年ほど前に祖父が脳梗塞で倒れてしまって。お見舞いに来てくれたみなさんに「大丈夫です。仕事は孫が継ぎますんで」と言いふらしていたんです。当時僕は、土木系の会社に勤めていたんですけど、慌てて辞める準備をすることになりました。
——なぜそんな展開になったんでしょうか。
長橋さん:「あれが決定打だったのかな」と思うところはあるんですよ。中学校の頃からお小遣い欲しさにじいちゃんの仕事を手伝っていたんです。じいちゃんがいろいろ教えてくれて楽しかったっていうのもあるんですけど、バイト代が1万円だったので、味を占めて何回も何回も手伝いに行っていました。
——それで「安心して孫に任せられる」と思われたんですね。
長橋さん:僕は跡を継ごうなんてつもりはまったくなかったんですけどね。祖父の中では決まっていたんだと思います。
——そのとき、どんなふうに長橋さんに話が届いたのか覚えています?
長橋さん:母親が「じいちゃんが『あんたに仕事を継がせる』と妙なことを言っているんだけど、どうなってるの?」って。僕は「いや、そんな話知らないよ」って感じだったんですけど、お見舞いに行ったら、じいちゃん、何も言わずに握手を求めてくるんですよ。よくわからないまま「後継ぎ確定」みたいになった瞬間でした(笑)
——おじいちゃん、策士ですね(笑)
長橋さん:そんなこんなで突然造園業を継ぐことになったものの、僕には中高生の頃のアルバイト経験しかありません。それで本格的に勉強しようと、三条市の造園会社さんで5年間お世話になりました。後から判明したんですが、その会社さんの初代とうちのじいちゃんは同じお師匠さんに庭づくりを学んだそうなんです。そんなご縁で、今でもとても良くしていただいています。
——その5年間は、造園についてイチから学ぶって感じでした?
長橋さん:まさにそうでしたね。じいちゃんから教わって使えた技術はあったんですけど、ほんのひと握りでした。
——造園会社さんって、お庭いじりのイメージが強いですけど、スロープの施工だとかお仕事の幅がすごく広いですよね。
長橋さん:「多能工」な業界だと思いますよ。左官屋さんや大工さん、土建屋さんみたいなことまでしますから。でもその5年間では剪定技術をメインに学んだんです。当時は庭づくりの仕事がほとんどなくて。実は、独立してからはじめてお客さまのお庭を手がける仕事をさせてもらったんです。ご依頼を受けて、「さてどうしようか」と頭を悩ませたことをよく覚えています。その最初の庭づくりが、とあるコンテストで入賞したんですよ。
——デビュー作が評価されるだなんて、励みになったんじゃないですか。
長橋さん:調子に乗って、受賞をネタにプレスリリースを配信したらものすごく反響がありました。お客さま先でずっと電話が鳴り止まなくて。嬉しいことなんだけど、マンパワー的には対応できる限度をとっくに超えていたんですね。振り返っても何も思い出せない期間が1年くらいありました。そんな状態でなんとか続けてきたんですけど、やっぱりもっと体制を安定させたいと思いまして。それが「NI to WA」が誕生したきっかけです。
モデルガーデンとのシナジー効果と、来店客のリクエストを叶えた場所。
――体制の強化と「NI to WA」が、どうつながっているんでしょう?
長橋さん:少し前まで自宅兼事務所を拠点にしていました。迎え入れられる人数も少ないですし、人を雇ってもすぐに退職してしまうケースが続いてしまったんです。そこで自分のマネジメントに課題を感じたので勉強をはじめて、「しっかりとしたチームを作ろう」と弟にも加わってもらいました。協力業者さんも気のいい方たちばかりで、少しずつお受けできる仕事量が増えたんです。
――それで新たな拠点を設けることになったわけですね。
長橋さん:もうひとつきっかけがありまして。ある研修会で仙台市を訪れて、見事な展示場を備えた造園会社さんを見学する機会があったんです。それが衝撃で忘れられなくて。「新潟にこんなものないぞ」「いつかこういう場所を作りたい」って思いました。それが「NI to WA」に反映されています。
――改めて「NI to WA」という場所について教えてください。
長橋さん:事務所を兼ねたモデルガーデンです。加えてコワーキングスペース、レンタルスペースとしての貸し出し、観葉植物の販売、カフェ事業を行っています。
――さまざま役割を持たせたのはどうしてですか?
長橋さん:当初はモデルガーデン1本で進めたかったんですけど、それだけでは融資が受けられなかったんです。それで国の補助金を活用をして、目標であったモデルガーデンとシナジー効果があるコワーキングスペースを設けようと考えました。そのうちカフェと勘違いされて来店される方がいたので、カフェ事業もはじめて。テイクアウトのみではありますが、飲み物は外のガーデンスペースに持ち込んでいただけますよ。
――観葉植物の存在感も大きく感じますよ。
長橋さん:これまでに「高くて手がでない」と申し訳なさそうに帰る方がいらっしゃいました。そういう気持ちにさせしまってはこちらが申し訳ないので、お手頃な価格帯のグリーンを揃えています。手が届きやすい上に、1点物です。僕たちは「独自性」を大切に庭づくりをしているので、「ユニークな植物を集めよう」と思って。
ずっと抱いている、ビッグな夢。
――「NI to WA」ができてから、本業の造園業にはどんな影響がありましたか?
長橋さん:少なくない額の借り入れが発生しているわけですし、物価高による仕事のキャンセルもあって厳しい面はあります。でもいい方向に向かっていると思っています。モデルガーデンで実物を体験してご依頼につながるケースもありますし、「NI to WA」にフラッと来られた方からご相談いただく場合もあります。
――営業の窓口がひとつ増えた感じですよね。ちなみにお庭づくりではどんなポイントを大事にしているんでしょうか?
長橋さん:フルオーダーでお仕事をさせてもらうので、かなり細かいところまでヒアリングをします。家族構成や休日の過ごし方、好きなこと、ちょっと踏み入った質問ですが年収など、ヒアリングの項目をルール化しています。
――「NI to WA」のような場所を設けることが目標だったと思います。それを叶えた今は、何を目標にされているんでしょう?
長橋さん:ずっと掲げている目標があるんです。いつかハリウッドスターの庭を作りたくて。そのためにはイギリス王室主催の園芸ショーで認められなくてはなりません。同じ新潟県内にも海外でお庭づくりをされている方がいらっしゃるんですよ。そういう世界線が身近にあるんだから、絶対実現させたいですよね。受賞に向けて、まだまだ腕を磨かなくちゃいけないです。
NI to WA
三条市柳場新田1342-1
営業時間/平日10:00~20:00 土曜10:00~17:00
TEL/0256-47-4331